ソフトバンク・サファテ投手「アメリカが嫌いなら出ていけ」~アメリカ人の愛国心と強く結びつく国旗

文=堂本かおる
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移民を人間として扱わない移民収容所

 アメリカとメキシコの国境には現在、ビザ無し移民や難民申請希望者が殺到している。中米のグアテマラやホンジュラスは経済だけでなく、治安も非常に悪化しており、ギャングの暴力によって命の危機にさらされ、米国を目指す人も多い。「嫌だから国を出る」のではなく、「国にいられない」人々だ。中米人だけでなく、アフリカ諸国、カリブ海諸国、アジア諸国、中東諸国など計60カ国からの人々がメキシコ経由で米国入国を試みている。

 米国はこうした人々を、国境のあるテキサス州に幾つも建てた移民収容所に収容している。広い建物の内部を金網で仕切っただけの施設だ。ほとんどはベッドがなく、収容者はマラソン大会などで配られるアルミの毛布だけでコンクリートの床に横たわる。収容人口はどんどん増え、内部の環境は劣悪と伝えられていた。以前、議会の公聴会では「歯ブラシ、石鹸を与えていない。シャワーを浴びさせていない」ことが問題視された。

 オカシオ-コルテス議員とトライブ議員は6月に女性と子供の収容所を視察し、その内容を7月12日に議会で証言した。2人は女性収容者が「洗面台が壊れており、便器の水を飲むように指示された」、子供が「トイレを使わせてもらえなかった」「監視員に首の後ろを掴まれた」などと語ったと証言した。収容者の栄養不良の兆候を見たとも言い、2人はともに証言の途中で涙を流し、声を詰まらせた。

 2人の視察を伝えるニューヨークタイムスは、現在、国境での親子の分断はなされていないが、昨年は何百人もの親子が離散させられ、少なくとも18人の乳児と2歳以下の幼児が含まれていたとしている。また、現在も父母以外の血縁者(成人の兄姉、祖父母、叔父叔母など)と国境を超えた子供は、やはり分断させられているとも報じている。加えて、子供も含め、何人もの収容者が病死している。

 また、以前より国境警備隊に見つかる前に砂漠や川で亡くなる越境者がいること、国境警備隊員が収容所で移民、特に子供の世話を担当させられ、経験の無さから全く適応できない者がいることも報じられている。さらには収容所内での児童性的虐待も憂慮されている。

 2人が証言を行った日に、副大統領のペンスは男性と男児の収容所を視察している。ジャーナリストによる映像を観ると、男性たちが狭い金網のスペースにぎっしりと詰め込まれており、立錐の余地もない。全員が何日もシャワーを浴びておらず、収容所内の悪臭は耐えられるものではなかったとジャーナリストが伝えている。

 ペンスは通訳を介して子供たちにいくつか質問をしている。食事は与えられているが、シャワーはないとの返事だった。2人の子供が「2~3カ月歩いてアメリカに着いた」と語ると、ペンスは英語で「神のご加護を」とつぶやいたと報じられている。ペンスは熱心なクリスチャンとして知られるが、国家のナンバー2が祈りを捧げるだけでは何も改善しない。

 ペンスの視察について、トランプは2日後に以下のツイートを行なっている。

「金曜の視察は政治家とメディアに、子供の収容センターがいかにうまく運営され、清潔であるか、はっきりと伝えている。ニューヨークタイムスの報道はフェイクだ! 男性単身者の収容所は過密だが清潔だ。多くは犯罪者だ ……」

 ペンスの視察に同行したリンジー・グラハム上院議員は保守系FOXのニュース番組に出演した際、以下のように言い放っている。

「移民が収容所に400日間収容されようが、私は気にしない。あの男たちを入国させない。危険だ」

 これがアメリカの現状である。

アメリカ人の愛国心と国旗

 移民問題には、移民や難民申請者をどれほど受け入れる/受け入れないかの政治的判断が常に求められる。同時に、多くは貧しい国からの有色人種であるため、意識下/無意識下の人種差別問題が絡んでくる。

 「この国に文句があるなら出て行け」はレイシストがよく使うフレーズだが、国に「文句」があるくらいで人は国を出ない。逆に祖国をよくしたいがために声を上げる。それを「国が嫌い」と決めつけるのは、自分の愛国心を基準に他者の愛国心を測っているのである。

 一方、難民は祖国に居たくともいられなくなり、選択の余地なく国を出る人々である。自国の人種民族マイノリティにすら「この国に文句があるなら出て行け」という者は、自国の難民許容能力という事実とは別の問題として、自分が難民を受け入れたくない理由を改めて考えるべきだろう。

 「私はレイシストではない」もレイシストが好むフレーズだ。トランプは2016年にハイチを「シットホール」と呼んで激しく非難された際、「私は最もレイシストでない人間だ」と釈明している。サファテも日本語での釈明ツイートでは「意図せず、私のツイートが差別的だと感じられたのであれば謝罪します」としているが、英文では「最初に言いたいのは、私はレイシストだったわけでも、無礼でもないということだ」と書いている。

 サファテは「ヘイ、ラピノー。そんなにアメリカが嫌いなら出ていけよ!」をツイートする直前に、ある記事をリツイートしている。『女子サッカー選手は男女平等賃金に値すると言う。しかし彼女たちが実際には貰い過ぎていることを統計が証明している』と題する記事だ。記事の著者、マット・ウォルシュは保守系のメディアに寄稿するブロガーであり、執筆内容が支離滅裂な反ゲイ、反中絶、反フェミニズム、反リベラルとして知られる。

 例えば今年の5月、ウォルシュはアラバマ州の中絶禁止法に賛成するツイートを行なっている。その理由は、もし父親が12歳の娘を妊娠させても中絶すればレイプの証拠が無くなってしまう。産むと娘への性的虐待が明るみに出て、以後、虐待ができなくなるというものだ。サファテが今回リツイートしたサッカー選手の報酬についての記事にも、「U.S. 女子サッカー・チームは数年前に13~14歳の少年チームに負けている。少年に勝てないなら男性に勝てるはずはない」と意味不明な一文がある。

 女子サッカー・チームのキャプテンに報酬格差で噛みつき、中絶問題に奇妙な意見を持つサファテ。女性マイノリティ議員に怒りをぶつけるトランプ。共にレイシストであるだけでなく、ミソジニスト(女性嫌悪者)でもあると言える。

 サファテは、ラピノーへのツイート炎上直後の7月15日に、トランプのビザ無し移民拘束に関するツイートも行なっている。トランプは7月14日に全米の複数の都市でICE(移民捜査官)によるビザ無し移民の一斉拘束を予定していた。 人権団体や、ニューヨーク市のような聖域都市(ビザ無し移民への寛容策を施行する都市)は、「ICEが見せる”令状”は令状ではなく、したがって法的な拘束力がなく、そもそもICEが来てもドアを開けないように」といった情報を盛んに流す異常事態となっている。

 そんな中、コロラド州のICE施設に反ICE派が押し寄せ、掲揚されていた星条旗を降ろし、代わりにメキシコの旗を掲揚したというニュースがあった。サファテはそのニュースをリツイートし、国旗への侮辱を批判するコメントをツイートしている。

 サファテはラピノーへの「アメリカが嫌いなら出ていけ」の釈明ツイートでも「国に敬意を持ってほしい/米国も、国歌も国旗も嫌いなのであれば/米国以外にもプレーする場所はたくさんある」と書いている。サファテはかねてよりラピノーに我慢しかねていたのだと思える。2016年にNFLのコリン・キャパニック選手が黒人への警察暴力に異を唱え、試合前の国歌斉唱時に起立せずに膝を付き、大問題となった。「国歌と国旗への侮辱」と捉えられたのだ。当時、ラピノーとチームメイトもキャパニックに賛同し、サッカーの試合で膝をついている。

 多くのアメリカ人にとって星条旗(国旗)は非常に重要な愛国のシンボルだ。保守派に顕著だが、リベラルにも同様に強い愛国心があり、星条旗への思いもある。星条旗の代わりに他国の旗を掲げるに至っては、さすがに行き過ぎと感じるリベラルも多いが、信条や思想によって愛国の解釈と旗の扱いに大きな違いがあるのだ。

 先述の移民収容所の視察報告の際、オカシオ-コルテス議員が最も感情的になったのも、星条旗にまつわる部分だった。施設のあちこちに星条旗が飾られていた。なのにその下(もと)で、移民の女性たちは人間としての扱いを受けていなかった。女性たちは全員がアメリカでは人種的マイノリティだった。オカシオ-コルテスは声を詰まらせながら訴えた。「こんなことは、あってはならないのです」
(堂本かおる)

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