厚生労働省は5月下旬、就職氷河期世代への就職支援プランを発表した。今後3年間を集中的な支援期間と位置づけ、都道府県が経済団体や人手不足の業界団体と連携し、調整機関を設け、職業訓練、資格取得から就労までの一貫した支援が提言されている。就職氷河期世代は、バブル崩壊後の厳しい経済状況と就職時期が重なってしまったために、安定した職に就くことができず、就職することさえままならなかった人も多くいる世代だ。
かねてから就職氷河期世代の就労支援は取り組むべき課題に挙げられていたが、なかなか実現しなかった。政府がようやく重い腰を上げ、就職氷河期世代への本格的なサポートを実施することは、歓迎すべき展開と言えよう。
しかし、同プランに目を通すと違和感を覚えずにはいられない。というのも、「就職氷河期世代を就職させる」ということを重視しているわりに、対象者のメンタルヘルスケアやアフターフォローに関する具体的な記述が見られないからだ。まるで「就職さえすればゴール」と言わんばかりである。
特に「不安定な就労、無業の状態」にある就職氷河期世代は、自己肯定感を損なわれてきたとの論説も多く、対象者が支援プランを前向きに受け止め、継続的に取り組むためには、メンタル面のサポートは最も重視すべき要素ではないだろうか。
そこで就職氷河期世代の人に対するキャリア支援を行われている馬場洋介氏に、「厚生労働省就職氷河期世代活躍支援プラン」の改善点を伺った。
馬場洋介教授
帝京平成大学大学院 臨床心理学研究科 教授、医療法人社団平成医会 平成かぐらクリニック リワーク統括責任者、株式会社リクルートでメンタルヘルス担当。再就職支援キャリアカウンセラーとして精神障害者等の就労支援に携わる。産業心理職育成をしながら、メンタルヘルス専門医療機関リワーク責任者。臨床心理士、キャリアコンサルタント、中小企業診断士
支援を受ける前段階に「承認され自己肯定感育む場」が必要
――馬場さんが「厚生労働省就職氷河期世代活躍支援プラン」を拝見して気になった点を率直に教えてください
馬場氏「このプランを見て思ったのが、就職させることにこだわりすぎているように思えます。これまでの人生で醸成されてきたネガティブな感情を転換させなければ、『支援を受けたい』と働くことに前向きになることは難しいですね。その観点が不足しているように感じました」
同プランでは、「関係省庁・経済団体との連携、地域ごとのプラットフォームの活用などのあらゆるルートを通じた戦略的な広報を展開する」と一人ひとりとつながるための積極的な広報を展開すると記載されているが、馬場氏はこのアプローチに首を傾げる。
馬場氏「就職氷河期世代の人は不安定な仕事を転々としていたり、ひきこもっていたりなど、人生の中で成功体験を積むことができていないため、自己肯定感が低い傾向がある。そのため、どれだけ戦略的かつそつのない広報を行ったとしても、対象者に就労支援を受けてもらうことは容易ではない。
まずは『こういう場があるので来てくれませんか?』と支援を受けてもらうための誘い水になる場を整備すべきです。同じ境遇にある仲間がいて、これまでの経歴や現状の悩みを話せる場が理想的。
いきなり就職につなげるのではなく、まずは自分自身が承認される場を設け、自己肯定感やコミュニケーション能力を育むことが重要です」