
写真:つのだよしお/アフロ
参議院選挙の投開票日が迫っている。政権与党である自民党の公約には、「本年10月に消費税率を10%に引き上げます」と明記されている。
筆者は昨今話題となっているMMTをベースに、消費税は増税延期、5%引き下げどころか、廃止することが可能であると考えている(詳しくは前回の記事を読んでいただきたい)。しかし前述の通り、安倍政権は予定通り消費税の増税に踏み切ろうとしている。公約の6ページには大きな文字で「強い経済で所得を増やす」と書いておきながら、安倍政権だけにアベコベなことをやっているのだ。
1.アントニオ猪木参議院議員が引退。野党は「燃える闘魂」を継承せよ
さて、今期をもって、国会という名の「言論リング」から降りる1人の議員が居る。彼の名はアントニオ猪木、本名・猪木寛至である。皆さんご承知の通り、プロレス界の世界的スーパースターである。、猪木議員は、2013年に日本維新の会から全国比例区で出馬し、約35万票を集めて当選。その後は次世代の党、日本を元気にする会を経て、今年の2月に国民民主党会派入りとなった。
猪木議員が「スポーツ平和党」を旗揚げして、初めて参議院選挙に出たのが、今から30年前の1989年、平成元年である。平成元年と言えば、奇しくも消費税が導入された年でもある。その政界進出の際に、フリーアナウンサーの古舘伊知郎氏によって付けられたキャッチコピーが、本稿タイトルの「国会に卍固め、消費税に延髄斬り」なのだ。
あれから30年。元号も平成から令和へと変わった今こそ、野党はこの痛快なキャッチコピーを甦らせる時ではないだろうか。きっと、胸の奥底で、「国会に卍固め、消費税に延髄斬り」を決めたい日本国民も、今なら少なくはないはずだ。
そんな筆者の想いから、本稿では、反緊縮経済言論界の近況を「プロレス」になぞらえることにした。プロレスファンやスポーツファンにも分かりやすく、今までに全くない「経済×プロレス」の異種格闘技言論タッグ戦のような形で、お届けしたいと思う。
2.反緊縮保守の巨人、藤井聡・元内閣官房参与

藤井聡教授
そもそも、緊縮・反緊縮とは一体どういうことだろうか? 端的に説明すると、要は国民に対してお金を出さない「ドケチな政府」の政策を緊縮(財政)と呼ぶ。一方、国民に対してお金を出す、羽振りの良い、「太っ腹な政府」の政策を反緊縮(財政)または積極財政と呼んでいる。
サラリーマンの方ならば、割り勘のドケチな上司よりも、ご馳走になれる太っ腹な上司の方に好感を抱くことであろう。しかし、これが政府になると一変。国民は、太っ腹な政府は無責任でけしからん、ドケチな政府の方が責任のある政府だと言って信任して来たのが、この「失われた20年」の原因なのだ。
ドケチな政府の代表的な例として、この20年間の「公的固定資本形成の金額推移」を見て行こう。公的固定資本形成とは、いわゆる公共事業とニアリーイコールの支出項目だ。
ご覧の通り、日本の公的固定資本形成の金額は1996年の48.21兆円をピークに、その後10年間は下がりに下がり続け、2007年には25.88兆円と約半分近くまで減っていたのである。かつての日本は「土建国家」と呼ばれていたが、「無駄な公共事業は止めろ!」との声の下に、21世紀に入り「ドケン国家」から「ドケチ国家」へと生まれ変わったのである。
この「ドケチ国家」を変えるべく、2012年末の第2次安倍内閣発足時に、防災・減災ニューディール政策担当として、内閣官房参与に任命されたのが、藤井聡京都大学大学院教授である。その任命の甲斐あってか、翌2013年には公的固定資本形成は約2兆円の増加となった。しかし、翌年以降は、その増加は続かず、遂に2016年には、対前年比で減少となってしまった。安倍政権はよく報道では「放漫財政」と呼ばれているが、このように実のところは「緊縮財政」で、未だに「ドケチ国家」から抜け出せていないのである。
こうした緊縮財政政権下の安倍内閣の下で、何とか積極財政によって、デフレからの脱却・インフレ率2%を達成しようと孤軍奮闘していたのが、藤井聡教授であった。
そして、この夏の参議院選挙における一番の焦点である消費税増税に関しても、いち早くから異を唱えていたのも、藤井聡教授である。昨年の11月に、まず単著として『「10%消費税」が日本経済を破壊する』(晶文社)を上梓。同月に、30名近い学者・評論家の消費税に関する論評を集めた『別冊クライテリオン 消費増税を凍結せよ』(啓文社書房)も刊行した。
更に、今年の5月には、岩田規久男前日銀副総裁と共に「消費税増税の「リスク」に関する有識者会議」を立ち上げ、40名の有識者コメントを集め、そのうち15名の有識者による会議も行われた。
私自身も僭越ながら、前回のwezzyでの記事がきっかけとなって、恐らく最年少参加者として有識者会議に出席させて頂いた。参加の際にも申し上げたのだが、この会議に出席されている有識者の諸先輩方々が、何故、政府の諮問会議には呼ばれず、この20年間、経済政策の間違いばかりを引き起こし続けている経済学者や評論家ばかりが呼ばれるのか不思議でならない。少なくとも半数は有識者を入れ替えて、政府は消費税増税に関しても、賛否両論を検討すべきではないかと思う。
このように、政府・財務省・大手マスコミと一体となって緊縮財政を押し進め、さながらプロレスで言えば、パイプ椅子を持って殴り掛かって来たり、有刺鉄線バットを振り回したりするなど、インチキばかりやっている「増税軍」に対して、黒いショートタイツ一丁と我が身だけの「ストロングスタイル」で、経済言論プロレスを最前線で戦い続けているのが、藤井聡教授なのである。ストロングスタイルはアントニオ猪木の代名詞であるが、当の藤井聡教授はジャイアント馬場派とのことなので、ここは「反緊縮保守の巨人」と尊敬の念を持って称したい。
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