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『トイ・ストーリー』シリーズのアップデートにみる、価値観の変容と表現の在り方

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toystory公式Instagramより

 7月12日に公開された『トイ・ストーリー』シリーズの最新作『トイ・ストーリー4』が大ヒットを記録しているが、ファンの間では、その公開を記念して再リリースされた『トイ・ストーリー2』(1999年公開)のDVDから一部シーンが削除されたことが波紋を呼んだ。

 また、『トイ・ストーリー4』では、旧シリーズ作のイメージを覆すほどの大幅な設定の変更があり、これもファンからの評価は賛否両論。『トイ・ストーリー』シリーズの変化には、どういった背景があり、どのような反響が起こっているのだろうか。

過去作『トイ・ストーリー2』の一部 シーンの削除、その背景

 『トイ・ストーリー2』において削除の運びとなったのは、“撮影中のNGシーン集”という設定で構成されたエンディングのなかで、悪役のおもちゃのプロスペクターが、二人のバービー人形と談笑しているワンシーン。

 プロスペクターは、バービーの手を撫でながら「僕なら君たちを『トイ・ストーリー3』に出してあげられるよ」と持ちかける。しかし、カメラの存在に気づくと、「申し訳ない、カメラが回っていたのか」と慌てて言い繕う。まさにこの様子は、映画プロデューサーが配役と引き換えに性的関係を要求する“キャスティング・カウチ”と呼ばれる問題行為である。

 ディズニー側からは、当該シーン削除について正式なコメントはないものの、ネット上では「1999年では許されていたこのシーンも、ワインスタイン事件があってからは笑えない。削除して正解」と肯定的な意見が見られた。

 ハリウッドの大物映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタイン氏の名を冠して2017年に起こった「ワインスタイン事件」では、80人以上の被害女性たちによってワインスタイン氏の長きに渡るセクハラ行為やキャスティング・カウチが告発された。結果、ワインスタイン氏はハリウッドから追放されている。これをきっかけに、ハリウッドの有力者によるセクハラ行為の発覚が相次ぎ、『トイ・ストーリー』シリーズや『アナと雪の女王』の監督を務めたジョン・ラセター氏によるピクサー女性社員へのセクハラ行為も明るみに出た。結果、ラセター氏は半年間の休職を経たうえで、退社を余儀なくされている。

 この「ワインスタイン事件」をきっかけに、被害を告発するなどして性差別に反対する「#MeToo運動」が世界規模で活発化したが、『トイ・ストーリー2』の該当シーンの削除は、まさにこの「#MeToo」ムーブメントの流れを汲んだ対応と言えるだろう。

 しかし、ディズニーの対応を評価する声がある一方で、一部のファンからは「過去作品までわざわざ掘り返す必要があるのだろうか?」「表現は自由であるべき。あまりに過敏すぎる対応」と否定的な声も上がっており、“表現の自由とモラルの見直し”が議論を呼んでいる。

#MeToo運動を受け、美術界で起こったふたつの作品展示撤去運動

 世の中のモラルの変容と過去における表現作品の見直しについての議論は、以前にも、二つの美術作品を取り巻いて起こっていた。

 ひとつは、「#MeToo」運動が起こった2017年、ニューヨークのメトロポリタン美術館に展示された絵画作品『夢見るテレーズ』(バルテュス/1938年)を巡った運動である。この作品には、12~13歳の少女・テレーズの下着が露わになった姿が描かれているが、これを「子供を性の対象とすることを許容している」と問題視したある起業家が、撤去を求める署名活動を開始。署名サイト上で1万以上の署名を集めた。

 しかし、メトロポリタン美術館は本作の撤去を受け入れず、『夢見るテレーズ』の展示を続けることを表明。「知識に基づいた議論と創造的な表現の尊重を通じた、現在の文化の継続的な進化」を促したいとコメントした。

 もうひとつは、マンチェスター市立美術館が展示していた油彩画『ヒュラスとニンフたち』(ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス/1896年)を巡ったもの。2018年、美術館側が、「思春期の若い女性たちの裸を“受動的な美しいもの”として描いている」という理由から自主的に本作の一時撤去に乗り出し、ネット上や美術界を中心に論争を呼んだ。

 同美術館の学芸員チームの一員、クレア・ガナウェイ氏は、「このような作品が公立美術館にあってはいけないと言っているのではない。このような絵画について、従来の解釈方法を再検討し、絵画が別の形で見る人に語りかけられるようにすべきではないかと、提起したい」と説明。本来、作品が展示されていた壁には、本作の撤去に関するコメントを書いた付箋紙を貼付けられるスペースが設けられ、来場者同士の意見交換が促されていた。

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