ろう学校で受けた暴力と暴言、そして性被害

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あんたたちは産まれてなかったかもしれない

 中等部では、教師からの心ない言葉で傷つけられた。Mが進学した2011年は「障害者虐待防止法」が施行された前年ということもあり、世間の意識は高まっていた。しかし、暴力に満ちた学校の風潮がすぐに改善されるわけではなかった。

「お前らは、ちょっと殴るとすぐに騒ぐから、嫌なんだよなぁ!」

 手は出さなくなったが、面と向かってこう言い放つ教師もいたという。生きていることさえ否定するような言葉も浴びせられた。

「ちょうど新型出生前診断が日本ではじまったころ、先生が『もし聴覚障がいが生まれる前にわかるようになっていたら、あんたたちは生まれなかったかもしれないのよ!』って怒鳴ってきたんです」

 新型出生前診断――妊婦の血液中に含まれる赤ちゃんのDNAを分析することで、染色体疾患を調べることができる検査である。主に、ダウン症、エドワーズ症、パトー症などの可能性が見分けられるが、早まった判断での中絶手術も懸念されるため、2019年7月現在は拡大が凍結となっている。

――それは、ひどいね。ショック……というか落ち込むよね。

「うーん、ちょっと違いますかね。どっちかっていうと……、正直、落ち込むというよりは、ホッとしたっていうか納得しちゃったんですよね。だって生まれることがなければ、ツラいこともなかったわけで。あのころ自分では『生まれてくるんじゃなかった』と思ってたから、そういう気持ちが認められたんだと感じたんですよ」

――今も、そう思う?

「今は、ボクと出会えてよかったって言ってくれる人がいるし、ボクが見てよかった物もあるから。それを、他人がつぶす(産まれる前に命を奪う)権利はないと思います」

 当時「納得した」と感じていたMも、心の片隅では葛藤があったのだろう。教師の会話をレコーダーに録音すれば誰かが助けてくれるかもしれないと、思い立ったこともあるという。

「でも、バレたらただじゃすまないと思うと、怖くてできませんでした。それに、学校は寄宿舎のルールは厳しく、夜の自由時間以外はスマホも先生に預けなければならなかったので、物理的にも難しかったと思います」

 学校にも家庭にも、暴力と罵倒があふれていた。それは、次第にMの生きるエネルギーを削いでいく。

「これはやっぱり自分が障がい者だからなのか」
「自分はゴミ未満だから仕方がないのか」

 そして、ひとつの結論にたどり着いてしまう。

「ボクが憧れるようなどんなに素敵な人でも、いったんボクの親になったら虐待をせずにすむことは難しいんじゃないだろうか」

 周りのおとなは、みんなボクを厄介者として攻撃してくる。

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