
「Getty Images」より
保育士の資格があるのに、保育士として働いていない「潜在保育士」が多いことは、待機児童が減らない原因のひとつになっている。潜在保育士となる理由には、保育士の給与の低さや過酷な仕事量が挙げられる。
最近、TwitterのまとめサイトTogetterで「保育士はTOKIOみたいなものだ」という投稿が話題となっていたが、保育士の仕事は、力仕事も多い過酷な重労働なのだ。また、子どもの妊娠・出産を機に、保育士を辞める女性も多い。
潜在保育士とは?
厚生労働省の潜在保育士ガイドブックは、潜在保育士を以下のように定義している。
・保育士資格を持ちながらも就業していない人
・保育士としての勤務経験がある人、ない人どちらも該当
つまり、「保育士の資格を取得したが実務経験のない人」と「保育士の実務経験はあるが退職して復帰していない人」の両方を指す。
厚生労働省の「保育士等に関する関係資料」は、全国の保育士登録者数が約119万人であるのに対し、保育士として勤務している人の数は約43万人であるとしている。
つまり、残りの約76万人は、「潜在保育士」ということになる。保育士登録者数の実に約63%もの人が潜在保育士であることは、日本の待機児童問題にとって悩ましい事態である。
また、平成28年賃金構造基本統計調査によると、保育士は22万3300円(男女平均)であった。福祉施設介護員、ホームヘルパーなどと同様に、全職種平均の26万2700円に比べてもかなり安い。
潜在保育士になる理由
厚生労働省が潜在保育士を対象に行ったアンケート調査結果によると、潜在保育士になる理由は、多い順に以下の4つであることがわかった。
① 家庭と仕事との両立が困難
② 雇用条件の不満
③ 本業以外の業務負荷の多さ
④ 職務の大変さ、責任の大きさに対して給与が安い
さらにこの調査では、保育士の約7割が子どもを抱えていることも判明した。仕事に復帰できない理由には、自身の子育てと仕事の両立が難しいことも大きく関係しているようだ。
以下は、かつて保育園に勤めていた潜在保育士のAさんに聞いた、家庭と仕事との両立の難しさだ。
Aさんは現在3児の子育て中。Aさんがまず保育士に復帰するためには、自分の子どもの預け先を見つけなくてはならない。「自分が勤務する保育園で自分の子どもは預けられないのか?」と質問をすると、「東京でしてくれるところは少ない」とのことだった。
地方では自分の子どもを勤務先に預けられるところもあるようだが、東京では難しいようである。そのため勤務先の近くの保育園を探す人が多いが、保育士であってもなかなかすんなりとは見つからないのだ。
預け先が見つかったとしても、次に問題になるのは「子どもの急な発熱や風邪などによる欠勤」だ。病気はいつ回復するかもわからないため、人手が足りないときは非常に肩身の狭い思いをするようである。
また、保育園には土日のイベントもあるため、休日でも出勤しなくてはならないこともある。わが子との貴重な時間を削られるのは、何のために仕事をしているのかわからなくなる。
さらに、終わらなかった仕事を家に持ち帰ることもしばしば。「育てと家事の合間をぬって作業するのは、想像するだけで辛い」とAさんは言う。
またAさんは保育士をしていた当時、新入社員を教育する立場であった。担任になったとき、上司からは「今は人手が足りないし、下を教育してほしいから、妊娠はしばらく控えてほしい」と言われていた。その後、上司に妊娠したことを報告すると、「子どもができたことはお祝いしたいが、職場としてはNGだよ」と言われたのだ。悲しくて涙が止まらなかったが、出産までは仕事を頑張ろうと、Aさんは妊娠中も賢明に働いた。しかし、保育士の仕事は妊婦の体には負担だったようで、妊娠8カ月のときに切迫早産になってしまった。赤ちゃんは無事生まれたが、こんな思いまでしてここで働く意味があるのか、疑問が残ったという。