連載

吉本興業に「契約書」があれば「闇営業」は防げたか? 新たにかわされる契約の内容はどうなる

【この記事のキーワード】
吉本興業に「契約書」があれば「闇営業」は防げたか? 新たにかわされる契約の内容はどうなるの画像1

生き延びるためのマネー/川部紀子

 ファイナンシャルプランナーで社会保険労務士の川部紀子です。今回は、2019年6月の週刊誌報道をきっかけにいまだ収束の目途が立っていない、吉本興業の一連の騒動について、社会保険労務士の立場から、芸能事務所と所属タレントの契約や関係性について解説をしたいと思います。

個人事業主を守る「下請法」

 すでに複数のメディアで指摘があるように、多くの場合、芸能事務所と所属タレントの関係は、社会人の働き方で最も多い会社に社員として「雇用」されているスタイルではありません。事務所から仕事をもらっている「個人事業主」にあたります。この点が、さまざまな問題に繋がる重要なポイントとなります。

ただし、一般的な個人事業主がフリーランスとしてあちこちから仕事をもらうのに対して、事務所に所属するタレントは、その事務所の専属になっています。こうした契約の形は法律の定めもなく、専属マネジメント契約、タレント専属契約などさまざまです。また民法上、契約書がなくても契約は成立します。

 雇用契約でない場合のポイントや注意点は以下の通りです。

1.雇用契約書・労働条件通知書不要
2.最低賃金なし、時間外労働・休日労働・深夜労働の概念や割増賃金なし
3.有給休暇なし、産前産後休暇なし、介護休暇なし
4.労災保険なし
5.雇用保険なし
6.健康保険なし
7.厚生年金なし

 またタレントが「お給料」の話をときどきメディアでしていますが、「報酬」「ギャラ」「売上」が正確ですし、メディアで使われていた「解雇」という言葉も不正確で、「契約解除」「契約解消」という言葉遣いが正解です。

 日本には下請法という、弱い立場に置かれやすい個人事業主などを守る法律があります。例えば、仕事を発注する事業者側の資本金が1000万円超の場合、個人事業主に対して、発注書を出す義務が生じます。

 今回の騒動では「契約書」というキーワードが頻出しました。吉本興業ホールディングス株式会社の資本金は1億円ですが、芸人のマネジメントを行う吉本興業(旧よしもとクリエイティブ・エージェンシー)は資本金1000万円なので、素直に受け取るとこの義務の対象外となります。ただし、関連会社の資本金と合わせて考えられる可能性もあります。

 吉本興業が「経営アドバイザリー委員会」を設置し、今後タレントと契約書を交わすことも検討すると発表したことを踏まえると、グレーゾーンにいる自覚があったのではないかと推測できます。

芸能事務所とタレントの関係が崩れるポイント

 今回の問題では「闇営業」という言葉が使われていましたが、業種を問わず、間に会社を挟まず依頼主から直接仕事を受けることは「直(ちょく)」と言われることが一般的です。

 フリーであれば、基本的には「直」ですが、芸能事務所に所属していると、事務所側にあった依頼を、仕事としてタレントに振られる形になります。この場合、依頼主から払われた金額から事務所がお金を引いて、残ったお金をタレントに支払う仕組みになります。

 「直」であれば、事務所からお金を引かれないのでもっと多くの金銭を得られることは誰でもわかります。しかし事務所が決めてきた仕事や、駆け出しの頃のバーターでのブッキング、上層部が人として面倒を見てくれたり、先輩との関係が良かったり……と事務所に所属することのメリットもあります。

 また吉本興業に関しては、記者会見で宮迫博之さんが言っていましたが、お笑い芸人としての「ブランド」、芸を披露する「劇場」があることなど、フリーや他の事務所より良い面も多いようです。

 このようにさまざまなプラスの理由で納得感があれば、もちろん割合にもよりますが、事務所からお金を引かれることについて気持ちの折り合いもつくものでしょう。だからこそ、互いの信頼関係が崩れたとき、ギャラの金額や差し引かれる割合に関して不満が爆発するのは大定番です。事務所移籍や独立してフリーになるケースも考えられます。

 また、それほど仕事がないタレントの場合は、生活費の工面にも苦労します。まだ売れていないタレントのギャラが驚くほど安いことも報道されていましたし、吉本興業ホールディングス株式会社の大崎洋会長が、そうした現状を変えるつもりはないとインタビューで答えてもいました。

 「せめて最低限の生活費を」という声もありますが、例えば1カ月に仕事がゼロのタレントは、その月のギャラもゼロになってしまいます。仮に多少働いていても、雇用契約でないため、最低賃金法の問題もありません。そうした中で、事務所を通すより多くのお金を貰える「直」の仕事は、非常に魅力的に感じるものでしょう。

1 2

「いいね!」「フォロー」をクリックすると、SNSのタイムラインで最新記事が確認できます。