「契約書」で縛り合うことの意義
恐らく今まで、あからさまではない「直」の仕事に対して吉本興業は黙認、またはさほど厳しい処分をしていなかったものと思われます。契約書がないということはお互いに無法地帯だった、とも言えます。事務所が「直」の仕事を書面上は禁止してないということですし、いくらギャラをピンハネしてもOKということでもあります。
実際、問題の仕事を受注した入江慎也さんは別会社も経営していました。また、タレント側も以前から、受け取るギャラの割合が「9:1」と話のネタにしているくらいでしたから、たとえ現状に不満があったとしても、了承して受け入れ、副業や直営業でしのぎ、売れるまで頑張るよりほかなかったのでしょう。
吉本の大御所ともなると芸能界での立ち位置も良く、高額納税者と呼べるレベルの稼ぎになっているわけですから、タレントにとっては「夢」もある会社だったのではないかと思います。両者のバランスが絶妙だったのが「かつての」吉本興業だったのではないでしょうか。でも、人も時代も少しずつ変わっていたことが、今回の騒動で露呈したのです。
どのような契約書が作られるのか
今後、タレントと事務所の間で契約書が交わされる場合、どのような内容になるでしょうか。
まず、「直」の仕事の禁止ルールと、そのことを事務所に知られた場合の厳しい処分が明記されるはずです。また、反社会的勢力や犯罪組織との関係が発覚した場合についても記載されるでしょう。ギャラの取り分、割合についても明確に記載されることになります。それをお互いに了承した上でサイン押印し合うわけですから、事務所は激しいピンハネが難しくなりますし、タレントは怖くて「直」の仕事などできなくなるはずです。
言ってみれば、お互いを「縛り合う」契約です。この契約書があれば、「直」営業はなかなかできないので、相手が反社会的勢力や犯罪組織という問題も付いてこなくなるでしょう。例えそうした相手と取引をしてしまった場合も、その仕事をとってきた会社の責任になります。タレント側も、以前よりギャラが増える一方、納得して契約書にサイン押印している以上は、こそこそ「直」の仕事をする気にもなりづらいと思います。タレントとしての価値も変わってくるため、契約更改は1年で見直すのが良いでしょう。
今回取り上げた内容については、芸能界に限らず一般社会においても、働き方が多様化し、雇用契約の会社員ではなく業務委託契約などが増える可能性がある中、社会人の新しい常識として知っておくべきことだと考えています。また会社員であっても、仕事を委託することも増えてきます。ゴシップ問題として済まさず、労働問題として今後の動向に注目してほしいと思います。
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