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東日本大震災を「感動ドラマの材料」にしないということ。向井理主演舞台「美しく青く」

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 劇場へ足を運んだ観客と演じ手だけが共有することができる、その場限りのエンタテインメント、舞台。まったく同じものは二度とはないからこそ、ときに舞台では、ドラマや映画などの映像では踏み込めない大胆できわどい表現が可能です。

 夏も本番。甲子園の出場校が出そろ揃い、感動を押し出した長時間のチャリティ番組の宣伝を見かけるようになり、日差しとともにドラマチックさをアピールされる機会がふえるシーズンです。ドラマチックなできことは、日常生活には少ないからこそ惹きつけられるものですが、本当に心に訴えかけるものは、変化の乏しい日々のなかにこそあるのも、また事実だと思います。向井理主演の舞台「美しく青く」は、東日本大震災後の東北に生きる人々を描きながら、その悲劇性や特殊性をあえて封印した物語。彼らの営みの普遍性とありがちさが、逆に生そのものの輝かしさを感じさせる秀作です。

子を亡くした夫婦、認知症の母

 東日本大震災から8年後の、津波被害にあった東北と思われる、海と山のある過疎地。人なれした猿による農作物被害や人への危害が増え、青木保(向井理)らが中心になった自警団が組まれます。

 自警団のメンバーは、保の同級生で農業を営む古谷勝(大東駿介)に、田舎町に飽き飽きしている林田稔、役所勤めの箕輪茂(大倉孝二)ら。町でアパートを経営する老人、片岡昭雄(平田満)らに協力を呼び掛けても拒否され、成果ははかばかしくなく、順子ママ(秋山菜津子)が切り盛りする居酒屋でクダを巻く日々を送っていました。

 変わり映えのしない単調な日々ですが、ある日、保の妻・直子(田中麗奈)の実母で、認知症の節子(銀粉蝶)が行方不明になります。節子はこれまでもたびたび徘徊してしまうことがあり、順子の手助けも受けて、工事途中で放置されている防潮堤の前で見つかりました。

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