東日本大震災を「感動ドラマの材料」にしないということ。向井理主演舞台「美しく青く」

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 保と直子が節子と同居しているアパートは、過疎地にあるには不自然なほど小ぎれいな、築浅だと感じさせる部屋で、老人がいるにもかかわらず、その片隅にある位牌が置かれたスペースは仏壇とは呼べない簡素なもの。大きな防潮堤が計画され、なによりも8年前に、保と直子は幼い娘を海で亡くしていますが、劇中には「東日本大震災」という単語は、一度も登場しません。

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東日本大震災を「感動ドラマの材料」にしないということ。向井理主演舞台「美しく青く」の画像2 ウェジー 2018.08.26

 登場人物たちの感じている生きづらさは、もっと「今」と地続きです。直子はアラフォーで、早く次の子どもが欲しいのに保は非協力的で、半年以上セックスレス。節子は物理的な介護の手がかかるとともに、亡くなった孫のことを「かわいそうに」と連呼することで心の傷をえぐり、直子は、包丁を握りしめて節子の部屋の前に立ち尽くします。

生きづらさの根底に横たわるもの

 リビングでかけている掃除機のスイッチを入れたまま、唐突に包丁を握り母親の部屋の前に立つまでの素早さと、立ち尽くす時間の長さのリアルさ。そこから泣き崩れ、うずくまるまで、田中は客席に背中を向けたままですが、激情にかられ、耐えきれなくなるまでの切実さは印象的でした。

 保を演じる向井は主演ですが、受けに徹することでよりリアルな存在になっていたように感じられました。自警団の活動に異様にのめり込み、周囲にもそれを押し付ける保の行動は強引ですが、介護の疲れもあってヒステリックだったり、「日程的に今日受精できたらいいから」というややデリカシーに欠けたりする直子の発言に、家に帰るのが重荷になっている男性の心情がにじみ取れました。居酒屋で芸能人の不倫問題に憤る面々とバカ話をする姿も、田舎のオニイチャンそのものでした。

 彼らの心の奥底、その生きづらさの根底には、東日本大震災の傷が横たわっています。自警団と職場の事情の板挟みで日和見主義にみえる箕輪も、泥酔して、震災で亡くなった自警団の若いメンバーを悼む言葉をこぼしたことがありました。

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