2018年の北朝鮮の実質国内総生産(GDP)が前年に比べて4.1%減少したようだ。国際社会による経済制裁が重荷となり、鉱業などの生産が大幅に減った。韓国銀行(中央銀行)が7月26日に発表した。
北朝鮮は経済指標を公表しておらず、韓国銀行は1991年より関連機関からデータを取り寄せ、経済成長率を推計している。2018年のGDP減少率は、30万〜300万人が餓死したといわれる「苦難の行軍」の時期にあたる1997年(6.5%減)以来の大きさとなった。
北朝鮮の経済状況が深刻であるのは間違いない。けれども一方でほとんど指摘されないことだが、GDPの落ち込みが21年ぶりの大きさであっても、現時点の情報では、当時ほど多数の餓死者は出ていない。それはなぜだろうか。
この謎を解くキーワードは「闇市」である。闇市とは、経済統制のもとで公的には禁止された流通経路を経た物資、すなわち闇物資を扱う市場を意味する。
国民の5人に1人が直接・間接に闇市に依存する北朝鮮
社会主義国の北朝鮮では、政府があらゆる経済活動を統制するのが建前だ。しかし、90年代後半の飢饉で政府が国民に十分な食糧を供給できなくなると、国中で「チャンマダン」と呼ばれる闇市が広がり始めた。今では北朝鮮の人々の生存に欠かせない存在となり、国民の5人に1人が直接・間接に闇市に依存すると言われる。
「ニューズウィーク日本版」の記事によれば、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)の調査に対し、ある脱北者女性は「政府の指示どおりにしていたら、飢え死にする」と語ったという。
世の中には、自由な市場経済に対し、ある思い込みがある。平和な状態にある豊かな国でしか機能せず、戦争や飢饉といった非常時には、政府による経済の規制や統制が必要という思い込みだ。しかし、それは正しくない。北朝鮮の闇市が示すとおり、政府に縛られない自由な市場経済は、非常時にこそ本領を発揮し、苦しむ庶民を救う。
闇市が非常時に庶民の命綱の役割を果たす例は、現代の北朝鮮にとどまらない。日本人に最も身近な例は、第二次大戦終結直後、各地で急速に発達した闇市だろう。
戦後の焼け野原になった日本を救った闇市
山田参助『あれよ星屑』(KADOKAWA)は、敗戦で焼け野原となった東京のアンダーグラウンドを含む日常を生々しく描く傑作マンガ。この作品の舞台となるのが闇市「明星マーケット」である。
当時の東京は、戦火で焼け出された市民に外地からの引揚者も加わり、飢えた人々であふれていた。そのままなら大量の餓死者が出るところだが、それを免れたのは闇市のおかげである。