
写真:AP/アフロ
貿易戦争の影響が米国にも
世界銀行やIMF(国際通貨基金)などの国際機関が相次いで今年の世界の成長率予想を引き下げています。その最大の原因は、世界貿易の伸びが急減速していること。世界貿易の伸びは一昨年が4%台、昨年が3%台でしたが、世界銀行は今年の世界貿易の伸びを、リーマン危機以降で最低の2.5%と予想しています。
しかし、現実はさらに悪化しています。世界貿易の伸びを集計しているオランダ経済分析局は、今年になってから世界貿易の伸びはまったく勢いがなくなり、足元ではほぼゼロ成長にまで減速している、との見方を示しています。トランプ大統領が仕掛けた、米中・米欧の貿易戦争、関税合戦の影響に留まらず、アジア全般や新興国の伸びも急減速しています。
そして、その影響が米国経済にも表れるようになりました。米国の今年4-6月のGDP(国内総生産)成長率は年率2.1%成長と、1-3月の3.1%から減速しました。減速した最大の要因は輸出が前期から5.2%も減少し、成長率を大きく押し下げたこと。しかも、輸出の減少が設備投資や生産の縮小にもつながり、景気全般の抑制につながりました。
これは、トランプ大統領の通商政策が世界貿易縮小に少なからず影響し、それがブーメランのように米国経済にも跳ね返ってきた可能性を示しています。米国のグローバル企業の中には、米中摩擦を回避するために中国から引き揚げるところも少なくなく、メキシコからも引き揚げるようになりました。米国第一主義が貿易を抑制している面は否定できません。
トランプ大統領が仕掛けた貿易戦争が米国企業の収益をも圧迫するようになったことから、さすがにトランプ大統領も貿易戦争を続けにくくなりました。トランプ政権は、中国通信機器大手のファーウェイが米国の安全保障を脅かしかねないとして、同社並びにその関連企業向けの取引を規制しました。ところが、米国企業にとって、その影響が大きかったため、国内からも反発が起き、結局安全保障への影響が小さい分野の取引は解禁しました。
同時に、中国製品への残り3000億ドル余りについての追加関税措置も、国内企業や消費者への影響が大きいとして、当面見合わせることにしました。これまでに比べると、中国やメキシコへの関税措置などの攻撃は緩みつつあります。また、日欧の自動車に対する関税引き上げも、米国内の企業や消費者への影響を考えて見送る模様で、別の方法で米国への輸出を減らそうと検討しているようです。
それでもトランプ氏は、フランスがグーグルなどのサービス利用に対する「デジタル課税」をかけることには強く反発。フランスワインなどに報復的な関税を課すことも検討する模様です。ですから、完全に貿易戦争の矛を収めるわけでもないようです。