転職したいけどできない人へ キャリアコンサルタントの提案

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「Getty Images」より

 今年5月、経団連の中西宏明会長が定例会見で発した「(終身雇用は)制度疲労を起こしている。終身雇用を前提にすることが限界になっている」という言葉は、多くのビジネスパーソンに衝撃を与えた。この発言が誘い水となったのか、同月に開かれた日本自動車工業会の会見時、トヨタ自動車の豊田章男社長が「雇用を続ける企業などへのインセンティブがもう少し出てこないと、なかなか終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた」と、終身雇用継続の難しさを口にした。

 大幅な人員整理に舵を切る大企業も続々登場している。日産自動車は先月、2022年度までに世界で1万2500人の人員削減の実施を発表し、国内では福岡県と栃木県の工場を対象に880人をカットするようだ。また、損保ジャパン日本興亜は今年6月、2020年度末までに、従業員数4000人をカットする方針を掲げた。日本企業の代表的制度“終身雇用”は大きく揺れ動いており、安定が約束されていた大手企業でさえ、安心感を持って働くことが難しくなった。これまでの労働の考え方を根本から覆す時代が今後、訪れようとしている。

 こうした時代の流れから、転職に関心を寄せるビジネスパーソンはここ数年で一気に増えた。だが転職活動で受けるストレスは大きい。自信満々にキャリアアップ転職していける人ばかりではないのだ。現在の勤め先に不安感・不信感を抱き、転職を念頭に置いてはいるものの、「自分なんかを採用してくれる企業なんてあるのか」と及び腰になってしまうことは、珍しくもなんともない。エン・ジャパンの調査でも、「転職活動で困ることは何ですか?」という設問で、「自分のアピールポイントがわからない」(43%)が最多だった。

 キャリアコンサルタントとしてこれまで多くのビジネスパーソンのキャリアの相談に乗ってきた境野今日子氏は、専門家への相談が有効であると説く。

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境野 今日子(さかいの きょうこ) キャリアプロデューサー
NTT東日本の秋田支店で法人営業を担当し、その後帝人の採用担当へ転職。在職中に国家資格キャリアコンサルタントを取得。現在は、企業の人事総務部やキャリアコンサルタントとして働くパラレルワーカー。 Twitter:https://twitter.com/kyokosakaino

転職エージェントのカウンセリングで自分の強みが見えてくる

 「自分のアピールポイント」を知るための手っ取り早い方法は、「転職エージェントと面談をすること」だ。

境野氏「転職エージェントは、求職者を就職させたらその企業から成果報酬をいただく仕組みなので、求職者は無料でカウンセリングを受けられます。現時点で転職を検討していない人でもカウンセリングを受けることは可能で、『この履歴書だと自分はどれくらいのランクの企業が受けられそうですか?』『今の会社より高い年収を得られる会社の求人はありますか?』といった質問をしてかまいません。

また転職エージェントは、求職者がこれまで取り組んできた業務を深堀りしてくれるので、“キャリアの棚卸し”ができます。そこで、自分の経験してきたことが、実は非常に市場価値が高かったということに初めて気づく人もいます」

 境野氏は主に、学生を対象にキャリア相談に乗ることが多い。

境野氏「以前、自己肯定感が低く『僕は何も特技がないんです』と言う学生さんの相談に乗ったのですが、話をどんどん深堀していくと、8年間水泳をしていたことがわかったんです。8年間って長いじゃないですか? 1つのことをそれだけ長く続けた経験は、就活において強力なアピールポイントになります。ですので、『どうやって8年間続けたのか?』『大会で結果を出せなかった時にどうやってメンタルを立て直したのか?』と質問を重ね、その学生さんのアピールポイントが明確になりました。

自分のアピールポイントを見落としてしまい、自己肯定感が低い人であっても、誰かと話しながらだと実はすごいことを成し遂げてきたのだということに気づけます」

 アピールポイントを明瞭にし、いざ転職活動をして希望の会社に内定したならば、働き始める前に「なぜ合格したのか」を尋ねておくといい、と境野氏は言う。

境野氏「企業側が『我社の社風に合いそう』と思って採用するのと、『新しい風を吹かせてほしい』という理由で採用するのとでは、入社後に期待される立ち振る舞い方が全然違いますよね。合格の理由は意外とすんなり教えてくれますから、入社前に採用理由を聞いておくと、その職場でスムーズに働き始めることが出来ます」

キャリアコンサルタントは何をしてくれるのか?

 ただ、転職エージェントは就職につなげることが仕事であるため、確実に仕事を紹介される。境野氏は「転職を希望していないのであれば、キャリアコンサルタントに相談すると良い」という。

境野氏「キャリアコンサルタントの仕事内容は、求人の紹介をせずに相談者の“キャリアの棚卸し”や“今後のキャリア形成”などを一緒に考えていくというもの。求人を紹介されることに煩わしさを感じる人も、気軽に相談することができます。私は多くの人が自身のキャリアを考えられる場として『minatos』というサービスを立ち上げていますが、そこでも一切求人を紹介する気はなく、気軽に相談できる環境を整備しています」

 求人紹介のある転職エージェントではなく、キャリアコンサルタントに相談するメリットは他にもある。

境野氏「『A社かB社か悩んでいます』『○○もやりたいけど、△△も興味があって…』という相談をする人がいます。そういう場合に『どちらかに決められないのなら、“両方やる”という選択肢もあります』と勧めると、『そういう働き方をしたかったんです』と腑に落ちる人は多いです。

他にも、『人のために働きたい』という希望を持つ方には、いきなりそういった事業を展開している企業を紹介するのではなく、まずはそのニーズを満たせるボランティアに参加するよう提案します。実際にボランティア体験を通じて、『もっとコミットしたい』と意欲が高まるか、『ボランティアのほうが気楽でいいな』と落ち着くかは、それぞれですから」

家族と積極的に仕事の話をしておく

 人手不足の折、現職の会社に引き止められてしまい、なかなか退職させてもらえないというケースも珍しくない。

境野氏「私がずっと言っているのが、『退職をチラつかせて改善しようとする会社はダメ』ということ。本来、退職するかどうかに関係なく、企業は従業員が不満を抱かずに働ける環境を整備する必要がありますし、退職を伝えた時になってようやく改善に取り組もうとすることは間違っています。『残業が多すぎるので辞めます』と言って、『ごめんね、業務量とか調整するから残ってよ~』と慰留されたからといって、『なんて良い会社なんだ』などとあっさり懐柔されてしまうのは、お人好しが過ぎます」

 とはいえ、引き留められれば辞めるに辞められない“お人好しさん”は少なくない。そうした迷いを抱える相談者に対して境野氏は、「自分のキャリアは誰かのためにあるのか? 誰のために働いてるのか?」という自問自答を促すという。

境野氏「会社や家族のために生きている人は多いです。家族や会社のために働くこと自体は悪いことではないですが、『B社で働きたいけれど、申し訳ないからA社に残る』とか、『転職したいけど家族に申し訳ないから……』という考え方を持っている方たちを見ると、『あなた自身のキャリアは本当にそれでいいのですか?』と思ってしまいます。ですので、『その働き方であなたは満足していますか?』と、ご自身のキャリアと正面から向き合うように促します」

 「家族のため」に転職したくてもできない、また、家族に転職や退職の意向を伝えても引き止められ、新たな一歩を踏み出せない人もいる。しかし“一家の大黒柱”だからといって、自身のキャリア、あるいは心身の健康を犠牲にしてまで耐えて働くべきなのだろうか?

境野氏「家族に引き止められることを懸念し、すべて完了してから“事後報告”するケースはよく聞きます。それでも家族の側は、何の前触れもなく突然そんな重要な報告をされれば腹が立ったり、相談もしてもらえなかったことを悲しんだりといった反応になります。子育て期の家庭なら尚更です」

 良かれと思って転職しているのに家庭不和を招いては元も子もない。境野氏は、パートナーとの情報共有をすすめる。

境野氏「転職に踏み切る前段階で『こんな風にキャリアアップしたい』といった話をパートナーと共有しておくことが大事。コミュニケーションを積極的に取っておけば、パートナーも納得しやすいです。会社には事後報告でも大きな問題はありませんが、家族は今後何十年も関係性が続いていくもの。事後報告して乗り切ろうとするよりは、話し合いを重ねるほうが長い目で見た時に良いです」

 そもそも夫婦共働きが増え、専業主婦・主夫家庭は少数派になって久しい。仕事に関する話題を夫婦で共有し、分かち合える家庭も多いはずだ。

境野氏「私のところに相談に来る男性は、転職の意志があっても『余計な心配をかけたくない』という理由から、奥さんに話していない人がほとんどです。確かに専業主婦家庭が多く片働きが主流だった時代は、キャリアに関する価値観は多様でなく、配偶者の理解を得ることが難しかったかもしれません。でも、現代は違います。日ごろから夫婦間で、雑談ベースで仕事やキャリアの話をしておくと、いざという時にもスムーズに話を進められます」

 境野氏は、今は転職する気が全くなくとも「会社をいつ辞めても良い状態にしておく」ことを推奨したいという。

境野氏「“選択肢”を多く用意しておくことが大事です。勤務先で副業が認められているのであれば、副業をして外の空気に触れてみるのも良いですね。1つの会社に長く勤め続けることのメリットもありますが、その会社の色に染まりすぎて考え方が凝り固まってしまうなどデメリットもあります。副業が認められていない企業に勤めている人でも、ボランティアなど様々な人と交流する場に参加することで刺激を受け、多様な生き方や働き方があることに気づけます。自社の殻に閉じこもらずに、外に意識を向けることが大切になると思います」

・自由で新しいキャリアセンター minatos(ミナトス) 

自由で新しいキャリアセンターの設立に向けて、代表 境野を中心に動き始めたプロジェクト。現在、月額1,500円から支援を募り、支援者(URL上で言うパトロン)に対しては、キャリアコンサルタントへチャット相談ができるサービスや、キャリアイベントを提供している。

URL:https://camp-fire.jp/projects/view/174061

・イベント情報

副業に興味がある方、物申したい方必見!

テーマ:「ねえ、副業ダメな理由、言えます?」
日時:8/31(土) 14:00~15:40
ゲスト:竹本萌瑛子さん、田中研之輔教授
ファシリテーター:境野今日子
会場:法政大学 市ヶ谷キャンパス
詳細・お申し込みはこちらから↓
URL:https://minatalk0831.peatix.com/

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