
「Getty Images」より
歯ブラシだけでは歯と歯の間は十分に磨けず、プラークが残りやすく、むし歯や歯周病に罹りやすくなる。そこで大切なのが、「デンタルフロス」だ。
まずデンタルフロスとは何だろう。デンタルフロスとは、細いナイロン繊維からできている糸で歯間部の清掃に使用する。歯と歯の間入り込むため、プラークを効率よく取り除ける。
糸まきタイプとホルダータイプの違い
デンタルフロスには、糸まきタイプとホルダータイプ(糸ようじ)の2種類がある。糸まきタイプは、必要な長さを切り取り、指に巻き付けて歯と歯の間を清掃するタイプ。
ホルダータイプは、ホルダーにデンタルフロスを取り付けたタイプで、指の操作が難しい人や初めて使う人に適している。ホルダータイプには、下顎前歯に使いやすいF字型と、上顎前歯や臼歯に使いやすいY字型がある。使う部位に合わせて使いやすいタイプを選ぼう。
デンタルフロスを使うメリットは?
歯間部は、歯ブラシの毛先が届きにくいためプラークが残りやすく、むし歯や歯周病が発生しやすい。
歯間部のプラークの除去率は、歯ブラシだけなら61%だが、デンタルフロスを併用すれば79%、デンタルフロスに歯間ブラシを併用すれば85%に高まると報告されている(日歯保存誌、48、272 2005年)。デンタルフロスや歯間ブラシのケアは、毎日の口腔ケアに欠かせない習慣だ。
デンタルフロスを使わないとどうなる?
デンタルフロスを使わずに、歯ブラシだけで歯磨きをしているとどうなるだろうか?
「歯周疾患があると、なんらかのがんを発症するリスクは、ない場合に比べて14%高い」とする研究がある。
2008年にイギリスのImperial College Londonの研究者Dominique S. Michaud博士らは、40歳から75歳の男性約5万人を17年以上にわたって追跡調査し、がんの発症と歯周疾患の関連を調べた。
その結果、特に発症リスクが高かったのは膵がん(54%以上)、腎がん(49%以上)、肺がん(36%以上)、血液がん(30%以上)だった。
また、重症の歯周病に罹っていると、がん治療を受けられない場合があることも留意しておきたい。
デンタルフロスを使うと血が出るのはなぜ?
デンタルフロスを使っているときに血が出る場合がある。使い方を間違っているのか? あるいは歯科医などを受診した方がいいのか?
デンタルフロスの重要性やデンタルフロスの正しい使い方を、デンタルみつはしの三橋純院長に伺った。

三橋純・医療法人社団 顕歯会 デンタルみつはし 理事長
1989年、新潟大学歯学部卒業後、東京歯科研究会、三橋歯科医院(新潟市)、荒木歯科医院(東京都大田区)を経て2000年にデンタルみつはし開業。2006年、日本顕微鏡歯科学会理事、2009年、日本顕微鏡歯科学会副会長、2010年より「顕微鏡歯科ネットワークジャパン」発起人・認定医。主な著書に『顕微鏡歯科入門』、月刊「歯界展望」別冊『顕微鏡歯科を始めよう』、『写真でわかるラバーダム防湿法』、その他、雑誌への掲載論文多数。
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「フロスで出血するのは歯肉以外にはあり得ないので、出血の原因としては二通りが考えられます。ひとつは歯肉に炎症があり、そこにフロスが触れたことにより出血する場合です。
歯肉にはばい菌を排除するためにさまざまな血液成分が集まってくるため、腫れて出血しやすくなっています。フロスは炎症の原因である歯や歯根の表面に付着しているばい菌を除去するために使うわけですが、その際に周囲の腫れている歯肉に触れてしまうことがあります。むしろ全く歯肉に触れずに使うことは難しいかもしれません。腫れている歯肉は易出血性(容易に出血する)なので、フロスが触れたところから出血してしまうことがあります」
「二つ目は、誤ったフロスの使い方のために、歯肉が裂けて出血する場合です。歯肉に炎症はないのですが、フロスが歯や歯根面に沿っていなかったり、沿っていても余りにも深く歯肉方向へ押し入れて使用したために歯肉が裂けて出血してしまうことがあります。糸や紙でも指先が裂けてしまうことがありますが、これと同じことです
私の経験から言うと、几帳面に歯の清掃をする方のほうが起こしやすいケースです。しっかり汚れをそぎ落とそうと力を入れ、歯肉が裂けてしまい、そのことで歯茎に違和感を持ち“汚れが残っているのかな?”と思いさらに深くフロスを入れるので重症化してしまうこともあります」
「どちらも出血するということは何らかの異常があるわけですが、出血が長く続くようなら歯科医で診てもらうことをお勧めします。またデンタルフロスの使い方が分からない場合は、歯科医師や歯科衛生士に相談してください」
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厚生労働省のe-ヘルスネットでは動画「デンタルフロスの使い方」を公開している。参考にして欲しい。