
「Getty Images」より
2社に雇われていたトラック運転手の男性社員が勤務中に致死性不整脈で亡くなった事件で、川口労働基準監督署が月100時間を超える残業が原因だったとして、2社の労働時間を通算して労災認定をしたことが7月26日わかった。この件について、社会保険労務士の川嶋英明氏に話を伺ったところ「厚生労働省は労災認定を副業など複数社の労働時間を通算しないことが原則。川口労働基準監督署の今回の判断は異例中の異例」なのだという。なぜ、川口労働基準監督署はこの判断に踏み切ったのだろうか。
亡くなった男性社員が勤めていた運送会社「ライフサポート・エガワ」は2015年に別会社を設立し、配送業務は同社で、積み下ろし業務は別会社で分担していた。ただ、2社で雇っているように見せかけていたものの、労働時間や仕事の指示は全て「ライフサポート・エガワ」で管理していたのだ。割増賃金を支払いたくなかったのか、従業員を長時間労働させたかったのかは不明だが、悪徳な手口と言って良いだろう。川嶋氏は「川口労働基準監督署の判断は正しかったと思います」と称賛しており、同様の働き方を強いられている人たちを救う、大きな一歩になったように思える。

川嶋 英明/社会保険労務士
2013年に愛知県名古屋市にて社会保険労務士川嶋事務所を開業。自身のブログで人事労務に関する情報を積極的に発信しているほか、雑誌への寄稿、地方紙での短期連載など、メディアでの執筆実績も多数。著書に「改訂版「働き方改革法」の実務」「条文の役割から考えるベーシック就業規則作成の実務」(いずれも日本法令)。
無理のある解釈をやめ 、ルールの細分化を
労災認定では複数社の労働時間を通算しないようだが、労働基準法第38条では「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と定められている。個人の労働時間は本業・副業(兼業)含めて細かく管理されているはずではないだろうか。
川嶋氏「労働基準法第38条は解釈に幅のある法律です。特に『事業場を異にする場合』の“事業場“については『別々の会社でも、通算する』という厚労省の解釈がある一方、『別々の会社の場合は通算しない』とする解釈(学説)もあります。今回問題になった『関連会社』はどちらにも取れる分、問題はより複雑です」
本業で労働時間が1日8時間を超えている人が副業をすると、副業先が割増賃金を支払わなければいけないが、そもそもその事実を知らない会社や労働者が大半だ。また、そのことが世の中に知れわたると、副業先が割増賃金の支払いを渋り、そもそも雇わない・シフトに入れない可能性がある上、労働者側もそれを懸念し積極的に割増賃金の支払いを求めない可能性もあるという。企業側の認識だけでなく個人の意思などが介入することで、労働時間を通算することは非常に難しくなっているようだ。
厚生労働省は先日、副業や兼業を推進するために第38条を見直し、「複数職場の労働時間は通算せず、事業所ごとに管理する」ことを盛り込んだ報告書をまとめた。この報告書を受け、東京新聞は「複数社の労働時間を通算しないと、現行法では違法な長時間労働も合法になる恐れがある」と政府の判断に異を唱える記事を掲載した。
これに従業員の副業をいち早く容認するなど柔軟な働き方を実施しているサイボウズ株式会社の青野慶久社長は反発。この記事を引用し、以下の内容をツイートした。
社員が副業先で働く時間まで管理させるのか? 副業をするしないは個人の自由。プライバシーの問題もある。無駄なルールで多様な働き方を阻害するのはやめてほしい。
東京新聞:<働き方改革の死角>「副業の労働時間 合算せず」 企業の管理義務廃止案:経済(TOKYO Web) https://t.co/ZoADlVZ5Uv
— 青野慶久/aono@cybozu (@aono) July 27, 2019
青野氏は、副業はボランティアと同じように自分の時間を自由に使って行うものであり、企業が管理するのはおかしいと指摘しており、同報告書に好意的な意見を述べた。さらに、「ポイントは本人が選択できるかどうか。副業するしない、何時間働くかなど、誰かの指示ではなく自分で選択できること。今、多くの経営者は本人の選択を奪っている。何時から何時までここで働け、来月からあそこに転勤だ、副業するな、などなど。これをやめさせないといけない」と続け、経営者には「副業禁止を禁止」というルールを課すべきだと主張した。
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