
「Getty Images」より
今年7月中旬、Instagramは「いいね!」機能がユーザー、特に若年層の精神的健康に負担をかける可能性があるとして、日本を含めた7カ国において「いいね!」数および動画再生回数を非表示にするテストを実施していることを発表した。すでに5月にカナダで始まっていたこのテストは、自分の投稿の「いいね!」数や動画再生回数は閲覧可能だが、他のユーザーのカウント数は確認できないものとなっている。
昨年10月には、Twitter社CEOのジャック・ドーシー氏が「いいね!」機能を無くす可能性を示唆したことも話題を集めた。SNSにとって中心的な機能であったはずの「いいね!」やフォロワー数が、なぜ問題視されるようになり、どのような見直しが図られているのだろうか。
Instagram、Twitterが「いいね!」機能の見直しを図る理由
SNSにおける「いいね!」数の可視化がもたらす精神的健康の問題とはどのようなものなのだろうか? 2017年、SNSが若者のメンタルヘルスに及ぼす影響について研究を行ったイギリスの王立公衆衛生協会(RSPH)は、他人からの“イメージ”の評価に大きな重心をおくことで成立しているSNSは、若いユーザーの劣等感や不安感を増幅させ、うつ病、孤独感、自己同一性の不一致、コミュニティからの排斥感といったリスクを指摘した。
そのうえで、「SNSはタバコやアルコールよりも高い精神的中毒性を秘めており、現在では若者の生活に根付いている。そのため現代において、人々の精神的健康問題について分析する際には必要な研究事項である」といったステートメントを発表している。
さらに、RSPHの最高責任者シャーリー・クレーマー氏は「ソーシャルメディアが若い人たちの人生を傷つけ、精神状態に異常を来してしまう状況を避けるために、ポジティブな面が増えるよう奨励していくべき」とし、SNS各社に機能の見直しを訴えかけた。
この調査結果を受けて、Instagram社の企画責任者ミシェル・ナプチャン氏は「Instagramを安全で支えになる場所にすることが最優先事項である」とコメントを発表している。
9年前に「いいね!」機能の問題点を指摘していたアーティストの存在
およそ9年前――2012年はFacebookが10億人のアクティブユーザーを獲得して爆発的に普及し、同社がInstagramを約10億ドル(約810億円)もの大金で買収した年だった。
しかし、SNSが飛躍したこの年、米イリノイ大学の教授であり現代アーティスト、ベン・グロッサー氏は、「フォロワー数、『いいね!』数といったSNSの競争システムはユーザーに中毒性をもたらし、健康で創造的な表現ではなく、自己顕示欲を育てる」という主張から、SNSからマトリクスを一掃させるブラウザ拡張機能“demetricatior”(分裂)を開発した。
Facebookをはじめとする各SNSが急成長していた当時において、その仕組みの問題点を指摘して一掃するグロッサー氏のアイデアには、批判の声が多かった。2016年には、Facebook社による削除依頼によってこの拡張機能がChromeストアから一時的に削除されていた。
しかし、グロッサー氏のアイデアは一部の技術評論家たちの間で少しずつ支持を拡大していき、またSNSが浸透して多くのユーザーが問題を認識するようになったことで、現在における各社の「いいね!」機能廃止の流れへと繋がっていったと見られる。