再考されるべき“情報の武器化”の危険性
SNS各社が「いいね!」機能の見直しに乗り出し始めたが、じつはグロッサー氏は“リツイート”のような情報の拡散機能は、「いいね!」機能よりも問題視されるべきだという主張をしている。また、拡散機能をそのままにして「いいね!」機能を削除すれば、リツイートのような拡散機能は今よりも大きな力を持つものになるだろうとも指摘している。「誤った情報が広がる時に起こる問題点の一つは、誰かが言ったことを人々が繰り返して世界に発信していってしまうこと。その意味ではリツイートは更に危険性を孕んでいるといえる」。
昨今問題となっているフェイクニュースだが、2018年にジャーナル・サイエンスに発表されたマサチューセッツ工科大(MIT)の研究調査では、Twitterのユーザーはフェイクニュースを本当のニュースの約2倍の頻度でリツイートし、拡散する傾向があるという結果が明らかにされている。調査に当たった研究者はこの理由として、フェイクニュースは実際のニュースよりも斬新である傾向があり、ユーザーはこれまでに出会ったことのない奇抜な情報に飛びつきやすいためであると分析。「真実を追求することではなく、ただ注目されるだけに情報が作られたなら、“情報の武器化”といえる現象が起こる」と危惧した。
SNS上の情報シェアによって引き起こされる騒動は、つい最近、日本でも問題視されたばかりだ。7月、YouTuberグループ「レペゼン地球」のDJ社長の事務所に所属するタレント・ジャスミンゆまが、自身のTwitterでDJ社長から受けていたセクハラ・パワハラ被害を告発した。このツイートはファンによって拡散されて話題を集めたが、後日プロモーションのための虚偽告発であったことが発表されたのだ。当然、この“炎上商法”には批判が続出しているが、実際にセクハラやパワハラで悩む人々の存在を嘲笑し、また今後の告発行為の信憑性を貶める可能性さえ孕んでいるとすれば、この出来事はまさに“情報の武器化”を象徴する事例だったといえるだろう。
2019年6月時点で、Facebook全体のアクティブユーザー数は約23億8000万人、Twitterは3億2600万人、Instagramでは10億人以上と、世界中で実に多くの人々がSNSを日常的に利用している。
しかしこの中で、一体どれだけの人が、「いいね!」数を気にせず、“自由な表現の場”としてSNSを活用できているのだろうか。またどれだけの人が、自分が世界中に情報を発信・拡散することの影響力の大きさを認識しながら利用しているだろうか。
本来ならば、他人の自由な表現や有益な情報を賞賛し、共有するツールのはずであったSNSの「いいね!」や拡散機能は、ともすれば誰かを、そして自分自身を傷つける可能性がある。ユーザーである私たち一人ひとりが、このことを意識しながら利用する必要があるだろう。