「教員になったことを後悔」労働基準法が適用されない教員たち

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「給特法」で “定額働かせ放題”の日本の教員

 そんな長時間労働にもかかわらず、日本の公立教員には、実際に働いた時間に見合った残業代や休日勤務手当が支給されない。労働基準法が適用されないからだ。代わりに、1971年に制定された「給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)」という法律が適用され、給与月額の4%が、いわば“みなし残業代”としてあらかじめ上乗せされている。

 給与月額の4%という額は、法律が制定された1971年ごろは、当時の平均残業時間(月7〜8時間)を考えれば妥当と受け止められていたそうだ。しかし、その後、残業時間は増え続け、2016年は休日出勤を除いても月66時間を超え、当時の8倍となった。過労死基準である月100時間以上働く教員も、小学校55.1%、中学校79.8%、高校46.4%もいる(2015年連合総研)。にもかかわらず、残業代として支払われているのは、半世紀も前に取り決められた月額4%のままなのだ。

 教育社会学者の内田良氏(名古屋大学准教授)は、この「給特法」が教員の勤務時間の管理を甘くし、“定額働かせ放題”のような形での勤務につながっていると批判している。

 もし、勤務時間に見合った残業代が支払われる制度だったとすれば、国や自治体は出費を増やさないよう、教員の残業をできるだけ減らす方針を取らざるを得なかったであろう。しかし、「給特法」なら“定額働かせ放題”なため、国や自治体はおサイフが痛まない。かくして、教員の長時間労働の問題は遅々として進まない。

 2017年から政府が進めている「働き方改革」でも、民間労働者には時間外労働の上限規制(罰則付き)が設けられたのに、教職員はその例外とされた。給特法が適用されているため、対象とならなかったのだ。

 今年1月25日、文部科学省は中央教育審議会の答申を受けてようやく、時間外勤務を「月45時間、年360時間」を上限とすること、また、自発的とされていた休日労働も勤務時間として算定することを指針に盛り込んだ。しかし、上限を超えても罰則はない。財源が確保できないという理由で、給特法の見直しも見送られた。

公教育にお金を出さない日本

 教員の過重労働は、年間5000人もの精神疾患による休職者と少なくない過労死を招いている。今や緊急事態といってもよい状況だ。国も手をこまねいているわけではないが、口を出しても金を出さないのでは、迅速な改善は期待できない。

 たとえば文部科学省は、教師が担う必要のない業務は地域人材や外部人材を活用し、教員が生徒と向き合う時間を確保するよう、教育委員会および校長に通知を出している。しかし、そのための予算への言及はなかったと、教育問題に詳しいジャーナリスト、前屋毅氏は指摘する。

 さらに、「文科省には人手が必要との認識はあっても、そこに積極的な予算措置を講じていく考えがない。外部人材や地域人材とはボランティアを意味していて、学校業務での人手不足解消を文科省は『無償で手伝ってくれる誰か』に期待しているにすぎない。本当に教育が大事だと考えているなら、財源確保に前向きに取り組んでいるはずだ」と鋭く批判している。(前屋毅著「教育現場の7大問題」KKベストセラーズ より)

 日本が公教育にお金を出し渋っているのは、OECDのデータを見れば明らかだ。

 OECDが行った「加盟各国国内総生産(GDP)に占める小学校から大学までに相当する教育期間への公的支出割合(2014年調査・2017年9月12日公表)」によれば、日本は比較可能な34カ国のなかで最下位だ。前回、2012年調査でも最下位である。結果、教員は過重労働、親は教育費の私費負担を余儀なくされ、疲弊と教育格差が広がっている。

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