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禁煙法の制定はあり得る? 高まる禁煙ムードと“国営”企業JTの思惑

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「Getty Images」より

 東京オリンピック開催前の2020年4月、改正健康増進法が全面施行される。

 今年7月1日から一部で施行されており、すでに学校、病院、行政機関の敷地内が原則禁煙となった。そして来年4月の全面施行によって、飲食店、オフィス、鉄道施設、ホテルのロビーなどの多くの人が利用する施設は、原則的に屋内禁煙となる。受動喫煙対策が強化されており、悪質な違反者には罰則が科せられる厳罰化された内容が話題となっている。

 こうした流れを受けてか、損保ジャパン日本興亜ひまわり生命保険は、今年の4月から全社員に就業時間内の禁煙を求めているうえ、2020年の春入社の社員は喫煙者を採用しないと発表したことが物議を醸した。

 喫煙者にとっては、気軽にタバコを吸えない、就職もできない……という非常に世知辛い世の中になりつつあるが、今後タバコをめぐる社会事情はどのように変化していくのだろうか?
国立がん研究センターに所属し、著書『本当のたばこの話をしよう 毒なのか薬なのか』(日本評論社)も上梓している片野田耕太氏に解説してもらった。

片野田 耕太(かたのだ・こうた)
東京大学法学部を卒業後、同大学院医学系研究科に進学、脳科学の研究を行う。2005年より国立がん研究センター(旧国立がんセンター)研究員となり、たばこの健康影響とがんの統計の分野の研究活動に携わる。2017年より、がん統計・総合解析研究部長として、たばこ対策、がんの統計、がん教育など幅広い分野での研究活動を行っている。著書に『本当のたばこの話をしよう 毒なのか薬なのか』(日本評論社)などがある。
国立がん研究センター

かつては日本男性の80%がタバコを吸っていた

 まずは、過去と現在の喫煙率の変化について。

「JT(日本たばこ産業)全国喫煙者率調査によると、日本で喫煙率が一番高かったのは1965年で、男性の約80%が喫煙していたという報告があります。また、国民一人当たりの消費本数が一番高かったのは、総務省統計局の労働力調査のデータを見ると、1970年代後半の“年間約3500本”がピーク。そこから喫煙率は下がり続けています。

 ですが、60年代後半から70年代にかけては、喫煙率がピークであるのと同時に、明確に喫煙が健康被害を引き起こしている、と公表されてきた時代でもありました。1964年にアメリカの政府機関の公衆衛生総監(Surgeon General)が、たばこの健康リスクをまとめた報告書『喫煙と健康』を発表。これは政府関係機関が公にたばこと肺がんの因果関係を認めた事例で、喫煙者たちへの健康意識に大きな影響を及ぼしました」(片野田氏)

 こうした時代以前は、タバコの健康被害の意識はなかったのか?

「あるにはありましたが、タバコを売る側の戦略として“健康被害は明確ではなく、反対意見もある論争状態だ”という風潮を維持してきたことと、タバコ業界がスポンサーとなって、映画やテレビで“喫煙は大人の階段”的イメージを流布したことも、禁煙意識の低さの要因だったと思います。

 日本でも欧米諸国同様、テレビの影響もあり、70年代を中心に不良が大人ぶる道具としてたばこがもてはやされました。ですが、2003年に施行された健康増進法の影響で、学校で防煙教育をするようになり、“タバコを吸うのはよくないこと”という意識が広まり、喫煙率は下がってきたのです」(片野田氏)

 そもそも、喫煙は健康にどのようなリスクをもたらすものなのだろう。

「肺、食道、胃、肝臓、膵臓、膀胱がん、さらに心臓病や脳卒中にも悪影響があります。がん以外でみなさんにあまり周知されてないリスクを挙げるとすると、糖尿病を患う可能性も高めているんです。これだけ多岐に渡る健康被害がある原因は、たばこが何か一つの成分を抽出しているのではなく、何千種類もの化学物質の集合体を燃やしているからなのです。さらに、ある種自己責任である喫煙者本人だけではなく、“受動喫煙”にも肺がん、虚血性心疾患、脳卒中のリスクがあります」(片野田氏)

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