
「Getty Images」より
安倍晋三政権が進める雇用・労働政策が迷走している。政府は6月21日、「経済財政諮問会 議」と「未来投資会議」を合同で開催し、「経済財政運営と改革の基本方針 2019(骨太の方針)」および「成長戦略実行計画」を閣議決定した。
この中には、安倍政権の雇用・労働政策の要となる最低賃金全国平均1000円引き上げのより早い実現や、就職氷河期世代の支援――などが盛り込まれている。
就職氷河期世代の支援の問題点については、7月2日掲載の拙稿「就職氷河期世代の支援はたった3年? 15年以上も放置された『引きこもり』と雇用問題」で指摘した。だが、最低賃金全国平均1000円の早期実現にも、非常に問題点が多い。
就職氷河期世代の支援はたった3年? 15年以上も放置された「引きこもり」と雇用問題
政府は6月11日、「経済財政運営と改革の基本方針2019」(骨太の方針)の原案で「就職氷河期世代」の支援策を盛り込んだ。しかし、この支援策はあまりにも…
何しろ、政策の柱として打ち出した骨太の方針に盛り込んでおきながら、政策執行の最高責任者である安倍首相自らが、参議院選挙後に態度を軟化させ、「無理やり最低賃金を上げることによって失業が増えていく」とコメントし、現在の賃上げ路線に歯止めをかけるような“牽制球”を投げたのだ。
確かに、7月31日に中央最低賃金審議会(厚生労働相の諮問機関)が、2019年度の全国最低賃金の目安を27円引き上げて時給901円にする方針(4年連続で3%超の引き上げとなる)を決めた際、中小企業の中核団体である日本商工会議所(日商)の三村明夫会頭は、「今年度は約4割であった最低賃金引き上げの直接的な影響を受ける企業がさらに増加することや、中小企業の経営、地域経済に及ぼす影響を懸念する」とコメントを発表。最低賃金の引き上げに強い懸念を示し、賃上げしやすい環境の整備を求めた。
先述した安倍首相の「無理やり最低賃金を上げることによって失業が増えていく」とのコメントも、中小企業に配慮したものとも受け取れる。しかし、日商が主張するように生産性向上に取り組む中小企業への支援策など賃上げしやすい環境整備を行う、あるいは賃上げ分の企業負担を政府保証にするなどの制度改革を行えば済む話だ。
そもそも、これだけ人手不足が指摘されている中で、企業の賃上げが進まない背景には、企業経営者が将来の不確実性に対して不安を抱いているため内部留保を厚くし、従業員に対して所得分配を行わない傾向が強いためだ。企業の内部留保の多さは、財務省が発表する法人企業統計などを見れば明らかだ。
非正規労働者と外国人労働者の賃金水準
安倍政権の進める最低賃金引き上げの狙いは、別のところにある。正規雇用者は官民一体の賃上げ促進によって賃上げが行われるが、これは非正規雇用者には当てはまらない。実態は追いついていないものの、政府が「同一労働同一賃金」を目指している以上は、非正規雇用者にも賃上げの影響が及ぶようにしなければならないため、最低賃金の引き上げを行っているのだ。
しかし、雇用の実態は一様ではない。企業内で正規雇用者と非正規雇用者が必ずしも同一労働を行っているわけではないし、雇用者のほとんどが非正規雇用者のケースもある。例えば、コンビニや居酒屋の店員などだ。そして、こうした業種は人手不足が深刻化しており、多くの外国人労働者が流入している。
1 2