「シット!」「アス!」「クレイジー!」~トランプが巻き起こした政治家のカースワード合戦

文=堂本かおる
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大統領立候補者たちへの攻撃開始

 この日、トランプは負傷者や関係者と会うために病院を訪問しつつ、同時に以下のツイートを行っている。

「オハイオ州デイトンの乱射犯は、バーニー・サンダース、エリザベス・ウォーレンといった政治家やアンティファ支持の過去を持つ」
「スリーピー(眠たげな、活力がない)・ジョー・バイデンの演説を観ている。と~て~も退屈だ!」

 サンダース、ウォーレン、バイデンは20人以上の民主党の大統領候補者の中で上位の支持率を得ており、本選でトランプと対峙する可能性がある面々だ。

「フェイクニュースCNNを観るのは、フォックスニュースで視聴率最低の番組を観るよりはマシだな。実のところ、観られる時はOANNを観ている!」

 OANNとは、トランプ礼賛の右翼チャンネルである。

メキシコ系カストロ兄弟との確執

 同日、トランプは以下のツイートも行なっている。

「ホワキン・カストロとは誰なのか、口を開くたびにアホ丸出しで落ちこぼれの大統領候補(支持率1%)の、知られていないほうの兄弟というくらいしか知らない」

 ホワキン・カストロは大統領選に立候補中のフリアン・カストロの双子のきょうだいで、現役の下院議員だ。トランプが「知らない」はずはない。双子はテキサス州出身のメキシコ系であり、エルパソでの乱射に当然、激しい怒りを感じている。

 ホワキンは自身の選挙区テキサス州サンアントニオでトランプに最高限度額の政治献金を行った44人の氏名をリストにし、以下の文を添えてツイートしたのである。

「彼らの献金は、ヒスパニック移民を “侵略者” とみなすヘイトを増長する」

 「ヒスパニック、侵略者」はエルパソの乱射犯がマニフェストに書き記した言葉だ。トランプも過去に同様の言葉を使っており、犯人はトランプを模倣した可能性があると言われている。

 献金者の名は一般公開されている情報だが、上記のトランプのツイートは、リスト公開への報復だった。

大統領候補「ゲット・オフ・ユア・アス!」

 人々の怒りが向けられているのはトランプだけではない。共和党のリーダーの一人、ミッチ・マコーネル上院院内総務も激しく非難されている。

 トランプは愚策を大統領令として突発的に発するが、議会に提出された法案を捌くのはマコーネルだ。今回の声明でトランプが美辞麗句として述べた「超党派」としての努力は今の上院にはない。民主党から出される法案はことごとくマコーネルが投票にかけず、握りつぶすからだ。

 乱射のあったオハイオ州の上院議員、シェロッド・ブラウンは以下のように怒りを表した。

「上院では何も成せない、ミッチ・マコーネルと大統領は銃ロビイストとベッドを共にしているからだ」

 同じくオハイオ州の下院議員で、大統領選に立候補中のティム・ライアンはCNNに出演し、まさに怒髪天を突く勢いで語った。

「明日、”銃反対アクションの母の会”と共に、下院議員としてキャラバンを率い、オハイオ州からケンタッキー州(マコーネルの地元)に向かう」

 ライアンは、マコーネルが銃規制法案を、これまでのように握りつぶさず、投票にかけるよう強く求めた。そして最後にこう付け加えた。

「ゲット・オフ・ユア・アス!(腰を上げて取りかかれ!)」

 ”ass”は「尻、ケツ」だが、”Get off your ass” で「腰を上げろ」「仕事に取りかかれ」といった意味の慣用句となる。ただし”ass”という単語は公の場では使えず、政治家、まして大統領候補者がニュース番組で口にするなど、本来はあり得ない事態だ。

オバマ元大統領の公開書簡

 トランプの登場後、トランプの言動――政策だけでなく、他者を貶め、とことん侮蔑する言葉――の酷さに、それまで公の場でそうした言葉を決して使うことのなかった政治家やジャーナリストが同様の言葉で対抗し始めた。

 アメリカではカースワードも文化の一つと言え、社会的地位や収入にかかわらず、多くの者がプライベートの場で使う。ただし公私の切り替えは常識だった。その常識を覆したのがトランプだ。今では大統領候補者までがニュース番組でトランプ政権を批判するためにカースワードを使う事態となっている。そこまでしなければトランプに対抗できないと感じてしまうのだ。

 カースワードまでは使わない政治家、ジャーナリスト、コメンテイターなども、今ではトランプをはっきりと「レイシスト」と認定し、「人間性の欠如」などといった批判を繰り返している。

 この異常事態に慣れつつあった米国民に、大統領の本来の在り方を思い出させたのが、オバマ元大統領の乱射事件についての公開書簡だ。

 オバマ元大統領は誰にでも理解できる平易な言葉で遺族を思いやり、同時に銃規制の甘さと白人至上主義の浸透に警鐘を鳴らしている。トランプと共和党リーダーの実名を出さずに鋭い批判も行なっている。だが、選び抜かれた言葉と練られた文章は品格に満ちている。

 この書簡についても、トランプはもちろん反撃した。

「サンデーフック小学校での乱射のあと、ジョージ・ブッシュはオバマ大統領を非難したか。オバマ大統領の任期中に32の乱射事件があった」

 オバマ政権時に乱射が増えたのは、ジョージ・ブッシュが任期中に軍事レベルの殺傷力を持つアサルト・ライフルの販売を解禁し、かつ米国史上初の黒人大統領にレイシストが反発したためである。
(堂本かおる)

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