教師は時間外でも問題対応が当たり前? 学校の管轄はどこまで

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「Getty Images」より

 先月、参議院選挙の開票にあわせて放送された『news zero』(日本テレビ系)内で、「勤務時間を過ぎた)18時以降は学校の電話に出ない」と教育現場の長時間労働の改善を訴える教員のコメンテーターに対し、タレントの若槻千夏が「子どもが帰って来ないって、心配になって探すけどいなかった時、学校に電話しても対応してくれないってこと?」「それ寂しくないですか?」と発言した。

 この発言を受け、若槻のインスタグラムには「自分の子どもくらい自分で責任持て」といった批判的なコメントが多く寄せられ、若槻は「教員に過重労働してほしい」という意図はないと釈明。「軽はずみな発言を反省しています」と謝罪するに至っている。

 若槻は一方的に批判に晒されたように見えるが、しかし彼女の発言を否定しつつも心の底では「時間外でも学校には子供のことで対応して欲しい」と考えている保護者もいるのではないだろうか。実際、夏には地域の祭りの巡回など、教員たちには時間外の業務も発生する。そもそも、教員の業務範囲はどこまでなのか。

 教育現場の実態に精通している教育研究家の妹尾昌俊氏に、教師の時間外業務について話を伺った。

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妹尾昌俊/教育研究家、学校業務改善アドバイザー
徳島県出身。京都大学大学院法学研究科を修了後、野村総合研究所を経て、2016年から独立。文科省での講演のほか全国各地の管理職研修、教員研修、事務職員研修などを手がけている。2017年度から、学校業務改善アドバイザー(文科省委嘱のほか、埼玉県、横浜市、高知県等)。中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁において、部活動のあり方に関するガイドラインをつくる有識者会議の委員も務めた。主な著書に『こうすれば、学校は変わる! 「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法―卓越した企業の失敗と成功に学ぶ』、『「先生が忙しすぎる」をあきらめない』など。

夏祭りのパトロールは教師の仕事じゃない

 妹尾氏は「勤務時間外かどうか」より「学校に管理責任があるかどうか」ということが重要だと話す。

妹尾氏「たとえば、『子供が放課後にコンビニで万引きをした』『休日に近隣の生徒と喧嘩した』などは、学校生活の中ではなく、プライベートで起きたトラブルです。また、今の時期、教師は夏祭りのパトロールを頼まれることが多いです。ただ、夏祭りは学校行事ではないので、教師がパトロールする必要はありません。

 実はこれらは学校や教師ではなく、保護者や警察、地域が対応しなければいけない問題です。しかし、残念なことに生徒がトラブルを起こすと『学校が適切な指導をしていれば、こんなことにならなかったはず』という意見が、保護者や地域の方から寄せられます。もちろん、学校もどういうことはいけないのかなどを指導していく必要はありますが、“学校万能論”と言いますが、学校の管理外のことまで『子供のトラブル=全て学校が対応するもの』という乱暴な解釈をしている人は一定数いるのが現状です」

 高すぎる教員への期待の背景には、これまで学校が何でもかんでも引き受けすぎてしまったことが挙げられる、という。

妹尾氏「これまで、学校や教師は責任外のことをなんでも引き受け、生徒が問題を起こせば保護者や地域に『うちの生徒がご迷惑をおかけしました』と頭を下げてきたことが多かったと思います。こういった積み重ねが、『今までの先生はそうやって来た。当たり前』という誤った常識を広めてしまいました。

 コンビニで万引きした生徒に対して、店側はまず保護者の連絡先を聞くと思います。しかし保護者にバレることを嫌がって黙秘する子供もいます。そうなると店側はその子供の学校に連絡をし、先生がすっ飛んで『うちの生徒がご迷惑をおかけしました』と謝罪しに行かなければいけません。このケースは学校の責任外なので、本来は保護者が対応しなければいけないのですが、教師も保護者もコンビニ(地域)もそのことを十分には問えないままでいました」

保護者は学校に甘えている

 妹尾氏は、“保護者の学校への甘え”を見直す必要があると考えている。

妹尾氏「子供を保育園に預けている時期に、『熱が37度を超えました』『嘔吐しました』と連絡が入ると、保護者はどれだけ仕事が忙しくても、何とかやりくりして迎えに行かざるを得ません。それなのに、なぜか子供が小学生や中学生になった途端、子供のトラブルを学校側に対応してほしいと考える保護者が増えます。

 保育園に預けている時は対応していたのだから、子供が成長しても本当は対応できるはず。学校側が保護者の要望に対してイエスマンになり過ぎている点だけでなく、保護者側の考え方も同時に見直すべきです」

 子育てはそう簡単に“一段落”しない。保護者の働く職場においても、「もうお子さんは赤ちゃんじゃないのに、早退?」などと圧力をかけず、理解を示すことが求められるだろう。

 また、学校や教師は、“サンドバッグ”にしやすいのだという。

妹尾氏「学校は、地域にとってクレームを入れやすい対象になっています。夜中に騒いでいる子供がいたとしても、それは個人対個人の問題で、本来であれば、当人同士で話し合って解決をするか、警察を呼ぶかなどの対応をするべきです。

 しかし学校には“匿名”でクレームを入れることが出来、仕返しをされるリスクも煩わしさもありません。だから学校は様々な対応を要求されることが多いんですよね」

 不満をぶつけやすいという理由で学校にまず連絡を入れることが常識のようになってしまっているとしたら、問題の根本的解決を第一に考えれば遠回りでしかなく、実に理不尽極まりない。

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