「わけあってこちら側に止まっています」と書かれたキーホルダーを見たことはあるだろうか。これは、東京都理学療法士協会のエスカレーターマナーアップ推進委員会が作成したものだ。このキーホルダーには、エスカレーターを止まって乗りたい人が安心できる、誰もが生活しやすく移動しやすい街づくりを応援する意味が込められているという。
同委員会は、海外から多くの人々が訪れる2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けて、右側も左側も手すりをつかんで止まって乗り、エスカレーターを歩く人がゼロとなる社会を応援するため、この活動をしているという。
リハビリ患者の一言がきっかけ
エスカレーターマナーアップ推進委員会の委員長を務めるのは、東京都理学療法士協会の理事で理学療法士の齋藤弘氏だ。きっかけは、リハビリを担当する女性が「エスカレーターで不便な思いをしている」と話したことだったという。
この女性は、病気の後遺症で体の左側に麻痺が残り、杖を使用しながら電車で通勤している。東京では、エスカレーターで左側に立ち、右側は急いでいる人が歩く慣習があるが、体の左側に麻痺が残るこの女性は、左側の手すりにつかまることが難しい。
女性は右側の手すりにつかまって右側に立ちたいが、右側に立ち止まって乗る勇気がなく、やむなく左側にいつも立っていたという。そのような日常の中で、右側を歩く人との接触などで何度も転倒や転落しそうな状況に遭遇した。
齋藤氏は、女性に「安全を優先して右側に乗るように」と話し、女性は右側に立ち止まって乗るようになったという。そして齋藤氏は、他にも同じような境遇の人がいる状況を考慮して、エスカレーターを歩く人がゼロとなる取り組みを理学療法士の仲間たちと始めた。それが「エスカレーターマナーアップ推進委員会」だ。
取り組みの一環として「エスカレーター 止まって乗りたい人がいる」というポスターや「わけあってこちら側に止まっています」と書かれたキーホルダーを作成した。齋藤氏自身もこのキーホルダーをつけて、エスカレーターで右側に立ち止まって乗っているという。
キーホルダーは、エスカレーターマナーアップキーホルダーと呼ばれ、東京都理学療法士協会のページで申し込むと無料で配送してくれる。(2019年7月現在、在庫切れのため配送に半年ほどかかると記載中)
「わけ」などいらずに右側に乗れるのが本来のマナーではあるが、このキーホルダーは思いやりの社会を目指して、今は多くの方がいろいろな「わけ」を持っていることを世の中に知らしめるために作られたものだ。
「わけ」はさまざまであるが、「身体的な事情で左側に立つのが難しい、エスカレーターの両側に止まって乗るのが本来のマナーであることを広めたい、右側に立ちたい方の思いを支援したい、大切な人とエスカレーターに並んで乗りたいなどの思いを、このキーホルダーが後押しできる存在になればと願っている」という。おしゃれだからつけてみたい、でもいい。
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