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「カエルの子はカエルやな」 林眞須美死刑囚の息子が生きた21年

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『もう逃げない。 いままで黙っていた「家族」のこと』(ビジネス社)

 1998年7月に発生した和歌山毒物混入カレー事件。自治会主催の夏祭りで配られたカレーライスにヒ素が混入され、67人が急性ヒ素中毒に陥り、うち4人が亡くなった。

 事件の“犯人”として有罪判決を受けた林眞須美死刑囚(58歳)の長男(31歳)が、事件当時の家族や町の様子、両親逮捕後、児童養護施設で受けた壮絶ないじめや暴力、施設を出たあとの就職差別や婚約破棄などについて綴った『もう逃げない。 いままで黙っていた「家族」のこと』(ビジネス社)を上梓した。

 なぜ「いままで黙っていた」かと言えば、「林眞須美の息子」であることを捨て、結婚して“普通の幸せ”をつかむという希望を持ち続けていたかったからである。

 しかし、好きだった女性との破談を機に、「母を見捨てることはできない」と感じたこと、メディア対応を年老いた父に任せきりにできないといったことから、「林眞須美の息子」として発信していく覚悟を決めたのだという。

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 事件発生当時、長男は小学校5年生だった。事件発生から2カ月半後、両親が別件で逮捕された日の朝、長男が目を覚ましたときには、すでに両親は警察車両で連行されていくところだった。家に残された4人の子どもたちに、女性警察官は「児童相談所へ連れて行くから、1週間分くらいの着替えを準備しなさい」と伝えた。

「僕はクローゼットから、遠足やキャンプのときに使うリュックサックを引っ張り出し、適当に服を放り込んだ。そして僕にとっては1日も欠かせない、釣竿とハイパーヨーヨーも突っ込んだ。すると間髪容れず、女性警察官に「そんなん持っていくな。釣りなんてもう一生でけへんで」と怒られた。1週間分の服を用意しろと言われたので、1週間経ったら戻ってくるのだと思ったのだが、違うのだろうか?」(『もう逃げない。 いままで黙っていた「家族」のこと』より)

 このときの長男は知る由もなかったが、彼らが再び自宅へ戻ることができるのは、半年後だ。そのときはすでに、心無い人たちによって外壁はスプレーで落書きだらけにされ、室内も荒らされてしまっている。そしてそのあと1年以内に、自宅は放火され、跡形もなくなってしまうのだ。

 和歌山市内の児童相談所へ連れて行かれた長男ときょうだいたち(姉2人、妹1人)は、その後、児童養護施設へ送られた。

 児童相談所の一時保護施設で、入所中の子どもたちからいじめや暴力を受けた長男は、そこから出られるだけで安堵していたが、児童養護施設では入所初日から心が凍りつく経験をした。

「中年の女性の先生が施設の中を案内してくれた。一旦庭に出て別の建物に入るとき、僕は間違ってスノコの上に土足で上ってしまった。すかさずその先生は、僕の脛を蹴った。そして痛みにうずくまった僕に、「カエルの子はカエルやな」と吐き捨てるように言った。児相から脱出できて少し緩んでいた僕の心は、一瞬で凍りついた。ここも居心地のいい場所ではなさそうだと感じた。それは、数日の間に確信に変わった。」(同上)

 職員が平然と暴力を振るうような施設では、子どもたちの間でも暴力が横行していた。

 他県であれば状況は違ったかもしれないが、和歌山市内の施設であったため、「林」という苗字の4人きょうだいが「林眞須美の子ども」であることは、明白だった。施設の子どもたちにとってきょうだいは、毒を盛って4人を死に至らしめた“極悪人”の子どもたちで、何をしてもかまわない標的だった。

 長男は同室の高校生たちから、連日のように鉄アレイで殴られたり、首をしめられたりといった壮絶な暴力にさらされた。職員に言いつけたところで何もしてくれないと感じていた長男は、基本的に職員を頼らなかった。

 しかし、首をしめられて失神し道路に倒れたときは、怪我で大量に出血したため処置が必要と考え、職員に「転んで頭を打った」と説明した。また、モデルガンで至近距離から顔を撃たれ、前歯が折れたときも、「転んで歯が折れた」と報告し、歯医者へ連れて行ってもらったという。

 道路に倒れたときの傷を隠すため、長男は現在も髪を長めにしている。前歯は差し歯だ。

 中学生になり身体が大きくなると、今度は女性職員から狙われた。本来子どもたちを保護すべき立場にある施設の職員が、長男に逃げ場がないことを承知で及んだ行為は、卑劣極まりない。

 女性職員との事件によって施設にいづらくなった長男は、施設を脱出し、駅のトイレで寝泊りしたり、公園で野宿したりしながら、仕事を探そうとする。しかし、補導されて施設へ連れ戻され、また脱出ということを繰り返した。

 高校は、入学時に「犯罪者の子ども」が通学することを嫌った校長から、「来なくても卒業させてやる」と言われていたとおり、長期欠席したにも関わらず、卒業することができた。

 長男は高校では自分の「正体」を隠し、児童養護施設ではなく、「おばあちゃんの家」から通学しているということにしていた。

 ただ、当時はネットの地域掲示板が流行っていた時期だったため、「正体」を知っている同級生たちもいたようだ。それでも、「知らないふり」をして付き合ってくれていた友人たちに長男は感謝していた。ところが――。

「卒業の少し前、いつもつるんでいた高校の友人たちに呼び出された。久しぶりに会えてうれしかったのだが、人目につかないところに連れて行かれたので、あれ?と思った。一人が唐突に「俺達、友達だよな?」と聞くので、「うん」と答えたら、「友達ならなんで本当のこと言わなかったんだ」と責められ、全員からボコボコにされた。だから僕には、高校時代の友人というのが一人もいない。」(同上)

 高校を卒業し、児童養護施設も退所した長男は、自立の道を探る。しかし、「犯罪者の子ども」である長男にとって、部屋を借りること、仕事を見つけることは想像以上に難しかった。また、好きな女性との結婚も諦めざるをえなかった。(後編に続く)

【イベントのお知らせ】

『林眞須美死刑囚・長男と迫る!和歌山カレー事件の真実と黙っていた「家族」のこと』
出演) 林眞須美死刑囚長男×田中ひかる

9月1日(日)13時~  ロフトプラスワン(新宿)
9月29日(日)14時~  ロフトプラスワンウェスト(大阪)

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