
『おしゃれ嫌い 私たちがユニクロを選ぶ本当の理由』(幻冬舎新書)
いまやユニクロの商品は国民服と呼んでもおかしくないくらい私たちの生活に浸透し、ファッション誌もこぞってユニクロのアイテムを取り上げている。不景気、インターネットの普及、そんな時代にうまく合致したコンセプトと服を提案できたのがユニクロなのではないだろうか。
長年ファッション雑誌の研究・分析を行ってきた社会学者の米澤泉さんは、『おしゃれ嫌い 私たちがユニクロを選ぶ本当の理由』(幻冬舎新書)で、一億総ユニクロ時代の本質をあぶり出している。ファッションの世界でユニクロの扱われ方はどう変わってきたのか。米澤さんに、話を聞いた。

米澤泉(よねざわいずみ)
1970年京都生まれ。甲南女子大学人間科学部文化社会学科教授。
同志社大学文学部卒業後、大阪大学大学院言語文化研究科博士後期課程満期退学。ファッション雑誌の分析を軸としたファッション文化論、化粧文化論などの「女子学」を専門とする。著書に『「くらし」の時代』、『「女子」の誕生』、『コスメの時代』(以上、勁草書房)『私に萌える女たち』(講談社)などがある。
ユニクロとファッション誌の関係は?
——米澤先生はこれまでずっとファッション雑誌の研究を通じて、ファッションやメイクなど女子的なものを論じてきたわけですが、今回のテーマが「ユニクロ」なのは意外でした。
米澤 ファッションの世界では、ユニクロは長らく「おしゃれでない」ものとして扱われていました。山本耀司さんがインタビューでユニクロの服を持っているかと訊かれて「当然ないです、論外です」と答えられたことがあるほど。一般的にもファッションに敏感な人ならユニクロは着ないし、ユニクロを着ているのがバレる「ユニバレ」、ユニクロを着ていて人とかぶる「ユニかぶり」なんていう言葉があったように、恥ずかしいものとして扱われていたんですね。
ところがある時期からファッション雑誌でもユニクロのアイテムを取り上げるようになりました。スタイリストもシンプルで使い勝手のいいユニクロのアイテムをコーディネートに積極的に使うようになっています。そうするうちにユニクロのアイテム自体もデザインが洗練されてきました。それは平成に起こった「変化」として注目すべきだと思ったんです。
——ユニクロもファッション性を意識するようになったんですね。
米澤 もともとユニクロは機能性重視のブランドだったでしょう? フリースやヒートテックが代表格ですが、あったかいけどデザインは今ひとつという感じがあったと思います。改善すべく、ジル・サンダーとコラボして+Jというラインを打ち出す試みをしましたが、あれは大きかったと思います。それ以降も東京コレクションに出ているような日本の若手デザイナーをはじめ、いろいろな人とコラボするようになりました。それにつれて、ユニクロのオリジナルアイテムのデザインにもファッション性が加味されるようになってきて、ベーシックアイテムの中にファッション好きの人でも抵抗なく身につけられるようなきれいなシルエットのパンツなども出てきたんですね。
——ファッション雑誌のあり方も変わってきていますね。
米澤 私はずっと研究対象としてファッション雑誌を見てきましたが、今や末期状態に思えます。『JJ』(光文社)や『ViVi』(講談社)などの女子大生向けの雑誌を見ていても、全国縦断ファッションスナップみたいな、インスタグラムがある時代にわざわざやる意味があるの? って感じの記事が載っていたりしますし。
そもそも読者モデルが憧れの対象ではなくなってきたと思います。新聞社の調査機関がファッション雑誌の女子大生読者モデルの所属大学をずっと調べてランキングを出しているのですが、登場する大学は様変わりしました。10年前までは東京だったら青山学院大学やフェリス女学院大学、関西なら甲南女子大学みたいな、いわゆるおしゃれなイメージの大学がトップ争いをしていたんですが、今は早稲田とか法政とかの読者モデルが多いんですよ。これはおしゃれな子が選ばれて出ているんじゃなくて、単なる母数の多さに比例しているだけなんじゃないかと(笑)。
自分が教えている学生を見ていても、今は雑誌よりもインスタグラムの影響力が増しているのが顕著です。
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