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一億総ユニクロ時代の『おしゃれ嫌い』現象 ファッション雑誌が末期状態に追い込まれた今の時代の空気とは?

【この記事のキーワード】

インスタ世代とユニクロの親和性

——『おしゃれ嫌い』の本の中でもネットの台頭による媒体と発信の変化に注目されていますね。

米澤 インスタグラムのファッション発信の仕方では、主張しすぎないことを大事にしている感じはありますね。あえて顔を見せないで服のコーディネートだけアップしている子もわりといます。目立ちすぎ、個性的すぎると叩かれてしまうので、お互い「いいね!」が押し合えるような関係がいいのでしょう。全体的にカジュアルな、ゆるコーデが多いように見えます。肩に力入りすぎているのはかえっておしゃれじゃないという傾向が特徴です。

——ファッション雑誌にはそれぞれカラーがありましたが、インスタグラムではわりとフラットですか?

米澤 雑誌の影響力が及ぶのはある程度高めの年代に限定されてきていますね。

 若い子を見ていても昔の『CUTiE』(宝島社)とか『KERA』(ジェイ・インターナショナル)みたいな尖った個性派ファッションはあまり見なくなりました。ゴスロリファッションも今時の子には響かなくて、かつてやっていた人がそのまま続けている感じで高齢化しているという現象があります。かつて読者モデルのネットワークがあったように、特徴的なファッションが好きな人同士でハッシュタグで繋がっているのかもしれません。

 今はビッグTシャツとかスニーカーといったゆるめで健康的なものが人気です。SNSで#KuTooというハッシュタグが盛り上がっていましたが、ハイヒールのパンプスみたいに痛くて不健康的な靴はNGと考えるのが主流になってきました。ハイブランドですらヒールのあるパンプスをあまり作らなくなって、代わりにラインストーンが付いた高価なスニーカーを出していますね。

——そんな流れの中でユニクロがぴったり時代に合致したんですね。

米澤 そうです。時期的にいうと特に2011年の東日本大震災以降、カジュアルで肩に力の入らない、ゆるいテイストのものが主流になってきたのは明らかです。物心ついたときからファストファッションがあった世代は、お金をかけなくてもおしゃれはできるという考え方なんです。1万円以下でコーディネートを考えるのが得意とか……。

 私たちの世代だと、いい服は高くて当たり前、おしゃれをするのはお金がかかるという共通認識があったと思うんですが、今はまったくないです。だからユニクロが人気なんですね。大学生に聞いてもユニクロにすごくいい印象を持っていることが多いです。

健康=ライフスタイル志向へ

——本の中ではユニクロがライフスタイルを売る会社であることも強調されていますね。

米澤 ユニクロの企業として優れている点は、柳井正さんが力ある言葉でコンセプトをはっきり出すことにあると考えています。ユニクロの商品は服装の部品である、というのもその一つですし、最近だと生活をよくする服LifeWearを提案しています。服を通じて常識を変え、世界を変えていくというビジョンが明確に伝わってきます。

 世の中の健康志向につれ、洋服にお金をかけるよりも食生活や体づくりにお金をかけることがおしゃれなライフスタイルだという考えが主流になり、心地よい暮らしの中にぴったりフィットするのがユニクロの服だったわけです。かつてラグジュアリーブランドの服をどこのお店で買ったかがステイタスだったように、今では数量限定のチョコレートやパンを買うことがインスタグラムでの注目を浴びることになっています。

——ファッションの価値そのものが変わってきているのですね。

米澤 ハイブランドの価値も変わって、今や生き残れるのはCHANELやGUCCIなどロゴを大きく出したものくらいで、良質で伝統のあるブランドでも撤退のニュースをよく聞きますね。逆に「岡山のジーンズ」といった地方発のアイテムが人気なのもネット世代の特徴だと思います。

 本の中で書いた腹筋を見せるモデルの話もそうですけど、世代的に健康志向が強くなっていますし、何を食べ、どんなトレーニングをしているかという過程を見せるというライフスタイル重視になっているのは事実ですね。

——『おしゃれ嫌い』というタイトルには、そういう現代のおしゃれに対する皮肉も含まれているんでしょうか?

米澤 皮肉というより、現代の現象として、おしゃれにお金をかけてがんばったり、人と勝ち負けを争うような傾向が嫌われるようになったということを表したかったのですが、いろいろな意味に解釈して、ファッションだけでなく現代のわたしたちを取り巻く環境を考えるきっかけにしてもらえたらと思っています。
(取材・構成/神田法子)

イベントのお知らせ

10月16日19時~
米澤泉×吉川稔『おしゃれ嫌い』刊行記念トークイベント
「見た目の時代から、くらしの時代へ」

会場:kudan house 九段ハウス(山口萬吉邸)
参加費:3000円
詳細
https://peatix.com/event/ 1313740?lang=ja  

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