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ファッションウィッグをつけて仕事へ行く、身体を拡張して強くなる【日本・大阪】

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百女百様/はらだ有彩

 ある朝出社すると、オフィスで金髪のギャルが泣いていた。営業部の若手社員だ。この子、こんなに明るい髪色だったっけ? と目覚めない頭で考えているうちに、同じ営業部の先輩による彼女への説教が始まった。狭いオフィスでは会話は筒抜けで、小言がところどころ聞こえてくる。

 先輩社員がくどくどと言うことには、「そんな非常識なものを被ったやつ、連れて行けるか。お客さんに失礼だろう。外してこい」。どうやら彼女はファッションウィッグをつけていたらしい。ああ、それでいつもよりワントーン明るいのか……。心なしかボリュームもある気がする。見事な巻き髪である。ギャルは「外せないんです。外したら汚くなるから」と呟く。ウィッグの下にはネットを被っていて、サッと取り外してすぐにビジネス仕様に整えられるわけではないのだという。結局、彼女はその日初めて先輩に同行するはずだった客先へは連れて行ってもらえなかった。オフィスには彼女のすすり泣く声が響いていた。

 ……という数年前の記憶が、髪を切るたびに蘇る。美容院の床に散らばる「自分の髪」から「自分の髪だったもの」へ変質した黒いモサモサの物体を見るたびに、「自分の髪ではないもの」を「自分の髪」として認めてもらえなかったギャルのことを思い出す。

 ファッションウィッグを着用して仕事場へ行くことは、マナー違反で、失礼で、非常識で、ありえないことなのだろうか。その日は仕事中に何度も「ファッションウィッグ ビジネス 失礼」「ファッションウィッグ 仕事場 マナー違反」などでインターネット検索し続けてしまった。ちなみに確固たる情報は特に検出されず、「職場やレストランで、知人に『ファッションウィッグはこの場にふさわしくない』って言われたんですけどダメですか?」というような質問が並んでいるばかり。一応回答を確認すると、OK派の人は「普通に考えて個人の自由でしょ」、NG派の人は「普通に考えてダメでしょ」と根本的に相容れない普通どうしが激闘を交わしていた。サービス残業で一日の遅れを取り戻さなければならないほど時間を使ったというのに、何もわからなかった。むなしい。

 しかし奇遇にも、先輩社員の言い分はNG派と同じく「普通に考えたら分かるだろう」「不自然だろう」「不必要だろう」というものだった。確かに非難を浴びたウィッグは多少茶色い、というか金色に近かったが、別にメタル歌手みたいな髪型だったり、半分だけものすごく鮮やかなピンクだったりするわけではなく、髪型としては平凡な部類だ。彼女はもともとかなり明るい茶髪だし、ギャルだから毛先だって常に巻いていた。つまり、普段の、普通の、自然な状態と大差ないのである。

 医療用ウィッグについて、第三者が軽々しく着脱を指示することが許されないのは言うまでもない。また、調理場や銭湯など衛生的に問題がある場合を除いて、誰かに髪型を変えるよう指図することも憚られる。だけど「ファッション」と冠され、頭皮から直接生えていないと分かると、頭部を覆う二層目の髪はときどき「チャラチャラした余計なもの」として排除されるらしい。

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