
「Getty Images」より
教師の長時間労働が問題視されるようになって久しいが、主要因である“業務過多”は依然として見直されていないようだ。日本労働組合総連合会が公立学校に勤務する教師を対象に実施した調査によると、「時間内に仕事が処理しきれない」という設問に、「そう思う」(54.0%)、「まあそう思う」(28.8%)と8割以上が業務過多の現状を嘆いている。
業務過多は長時間労働を誘発し、教師のプライベートを侵食している。スキャネット株式会社が全国の公立高校を対象に実施した「働き方の実態調査」では、業務を自宅に持ち帰ることについて「よくある」(18.6%)「たまにある」(46.9%)と半数以上が「ある」と回答した。また、持ち帰り業務の内訳を見てみると、「試験問題の作成」(27.7%)、「試験問題の採点」(16.3%)などが上位を占めた。
無論、業務過多の問題は教育現場に限らない。だが一般企業では、持ち帰り業務をノンコア業務と位置づけ、アウトソーシングする動きも見られる。教育現場においても、コア業務とノンコア業務を分け、後者を積極的にアウトソーシングすることは出来ないのだろうか。
『学校ハラスメント 暴力・セクハラ・部活動ーなぜ教育は「行き過ぎる」か』(朝日新書)の著者で、教育現場の問題を指摘してきた名古屋大学大学院准教授の内田良氏に、教師の業務過多の改善策を伺った。

内田 良/名古屋大学大学院教育発達科学研究科・准教授。博士(教育学)
専門は教育社会学。学校のなかで子どもや教師が出遭うさまざまなリスクについて,調査研究ならびに啓発活動をおこなっている。 著書に『学校ハラスメント』(朝日新書),『ブラック部活動』(東洋館出版社),『教育という病』(光文社新書),『教師のブラック残業』(学陽書房,共編著)など。ヤフーオーサーアワード2015受賞。
「試験問題の作成」はアウトソーシングできない
これまでの学校教育は、子供たちの成長のために教師が手間暇かけることが当たり前とされてきた。しかし教師の長時間労働を見直すため、学校側も積極的な一部業務のアウトソーシングを検討しているという。
まず教育現場において、アウトソーシングが可能な業務のひとつが前述調査結果にある「試験問題の作成」だが、内田氏はこの「試験問題の作成」こそ、理想をいえば、教師自らが行うべき重要な仕事のひとつだと捉えている。自身の教え方を振り返り、今後より良い授業を行うための反省の機会となるからだ。
内田氏「教育現場って“ライブ”なんです。覚えの良いクラスの年もあればそうでないクラスの年もあり、授業の進捗状況はその年その年によって全く異なります。ですので、試験問題を作成する時に、『なぜ今年は予定していた試験範囲まで授業を進められなかったのか?』『去年よりも子供の理解度が高かったけど、自分の授業のどこが良かったのか?』といったことを考えることができます。
これは教師の成長につながり、より良い授業をしていくための重要な学びです。教師の力量が上がり、子供たちの目線に合った問題を作ることができるようになるからです。このような機会を奪ってしまうと、授業を受ける生徒にとってもマイナスなので、『試験問題の作成』は教師が担うことは理想だと思います」
しかし現実には、「試験問題の作成」をアウトソーシングして、外部テストが一般化する未来が来ても驚くことはないようだ。
内田氏は「現在、教師は非常に忙しいので、外部テストに切り替える選択肢も考えていかなければいけない」と理想と現実を折り合わせることの難しさを語る。
一方、全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)などの試験では、アルバイトに採点を任せているため、「試験問題の採点」はアウトソーシングできそうだが、どうなのか。
内田氏「記号問題の採点であれば別ですが、これも理想をいえば、試験問題の作成と採点は同じ人がやった方が良い。作成者の問題に込めた意図というものがあるので、当然ながら採点も作成者がやるべきです。他方で、今日教師の長時間労働は、すさまじいものがあります。そこで仕事の効率化を優先して、問題の提供から採点まですべて外部にお任せするという方法も十分にありえます」
持ち帰れない業務こそアウトソーシングできる
前述調査の持ち帰り業務で「試験問題の作成」が最多だった要因として、「1人で出来る仕事は後回しになりやすい」と話す内田氏。
内田氏「勤務中は、『部活指導』や『進路相談』など、学校内でやらなければいけない業務を処理することに時間をかけてしまい、『試験問題の作成』や『授業準備』などの家に帰ってできる業務は後回しになりやすい。『試験問題の作成』が最多だった原因は、業務の性質上、持ち帰りやすいからです。
とりわけ、『試験問題の採点』と違い、『試験問題の作成』は個人情報を取り扱っているわけではないので、個人情報の持ち出しに関する手続きをせずに、簡単に持ち帰ることができます」
持ち帰りやすい「試験問題の作成」や「授業準備」こそ、教師が最も力を入れなければいけない業務なのに、後回しにせざるを得ない現状。この矛盾を解消するには、どうすればいいのか。
内田氏は「登下校の見回り」や「部活指導」といった学校内でやっている業務こそアウトソーシングできる余地があり、どの業務内容を教師が担わなければいけないのかをしっかり吟味しなければいけないと提言する。
とりわけメスを入れるべき業務は、「部活指導」だ。
内田氏「教師が部活指導を1日2時間やっていたとします。それを止めれば丸々2時間を他の業務に費やすことができるし、早く帰ることもできます。土日で7~8時間やっているとしたら、残業はさらに減らせます。教師の業務過多を無くすためには、部活動を学校から切り離すのはかなり有効な手段です。そもそも、部活動は学校の付加的な活動ですから、やってもやらなくても良いはず。真っ先に減らしていく必要があります」
スポーツにしろ文化部にしろ、専門的な指導の可能な外部講師を招けば、その部活に熱心に取り組みたい生徒のスキル向上にも役立つだろう。
意外なことに、進学に関する手続きのフォローも、教師がわざわざ担う必要がない業務だという。
内田氏「本来、願書の提出や奨学金の申請は、各家庭でやるべきです。しかし、生徒も保護者もどちらも書類の作成や提出が不適当なケースがあり、学校がわざわざ適切に記入できているのかをチェックしなければいけない。これらの業務は、学校が生徒や保護者に過保護になりすぎるために発生しています」
個別の進路指導は別だが、手続きのアシストに関してはアウトソーシングが可能。保護者と学校が連携しながら、生徒に不利益にならず、かつ教師が業務過多に陥らない“教育現場の働き方改革”が求められる。