タニタ式「働き方改革」の危険性 『労働契約』と『業務委託契約』の違い

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生き延びるためのマネー/川部紀子

 ファイナンシャルプランナーで社会保険労務士の川部紀子です。タニタ食堂、そして家庭でもおなじみの体脂肪計等の健康機器メーカーでよく知られているタニタの社長へのインタビュー記事が日経ビジネスに掲載されました。その中では、2年半ほど前に導入した希望するタニタの社員は「個人事業主」として独立し、今まで通りタニタでの仕事を「業務委託」で受注するという新しい働き方についても書かれていました。

 タニタほど知名度の高い大企業が導入した制度となれば、追随して導入していく中小企業がどんどん生まれる可能性があります。そこで今回は、会社から「『労働契約』から『業務委託契約』へ変更しないか」と言われた場合について解説していきたいと思います。

会社側の本音と建て前

 「残業イコール悪」という風潮は社会全体に広がってきています。ひと昔前なら当たり前に行われていた「サービス残業」は、労働基準監督署に指摘された場合、過去に遡って該当者全員に未払いの残業代を払う事態にもなり得ます。会社はとにかく「帰さなくてはならない」と考えますし、社員は「帰らなくてはならない」と思う……そんな空気ができているのが通常の会社です。

 しかし、未だに、特に零細企業の社長などには「ウチの業務が8時間で終わるなんてあり得ない」「ウチの規模で残業代なんて」、労働者も「ウチの業種は仕方ない」「残業代なんて大手でもないのに出るわけない」という考え方を持ち続けているケースも多く見られます。会社も労働者も「ブラック企業」を自覚しつつも当たり前のように受け入れているように感じます。

 会社側に法定労働時間で労働者を退社させることや、時間外労働に対して割増賃金を払う義務を課しているのは「労働基準法」です。この労働基準法が会社を苦しめているという考え方の経営者も多いのが現実です。

 労働基準法から解放されるための完璧な方法はなんでしょうか? それは「労働者を雇わない」こと。人材が必要なら「外注」すればよいのです。在籍している雇用契約の労働者を業務委託契約の個人事業主に変更させれば、その者に対して労働時間や残業代という概念も消えてなくなります。

 この方法を考え出す会社の本音が「労働基準法逃れ」である可能性は極めて高いです。しかし、「労働基準法から逃れたい」なんて表立って言えることではないので、建て前として「時間に縛られない自由な働き方」という趣で説明されるわけです。

本当に自由なのか?自由の代償はないのか?

 「建て前」を掲げて、雇用契約から業務委託契約を提案された場合には、次の2点を徹底的に考えなければなりません。

【本当に自由なのか?】

・指揮命令されることはないか。
※上司や社長に指示をされる関係ではなく、会社と並列の事業主同士の関係となる。

・通常の出退勤時刻という概念がないか。
※例えば、何時~何時のコンペでプレゼンをするなどの受注をすれば別だが、通常の出勤時刻に出社する必要はない。

・自分の名刺を持ち、他社の仕事も受注できるか。
※会社の名刺に縛られることなく、自分自身で他社の仕事も受注することができる。

⇒上記の点で雇用契約の頃と何ら変わらないのであれば、会社が業務委託契約を騙っていても都合良く使われているだけの可能性があります。

【自由の代償はないか?】

・契約期間が1年更新などで、簡単に契約解除されることがある。
・退職金制度はない。
・どんなに時間がかかっても契約した報酬しかもらえない。
・病気・産前産後・育児・介護休暇、有給休暇はなくなる。
・仕事のために事故に遭ってケガや死亡しても労災保険はない。
・過労死という概念がない。
・失業しても雇用保険の給付は受けられない。
・病気やケガで働けない場合でも、健康保険の傷病手当金を受けられない。
・老齢・障害・遺族厚生年金の額が下がる。

⇒今までと同じ業務内容であれば、今までよりはるかに多い報酬を受け取らないと見合わない可能性が高いです。

タニタ式「働き方改革」を雑にパクった制度に注意せよ

 既に、雇用契約か業務委託契約かを巡っては、裁判も起きています。例えば、クラブなどのママ、ホステス、キャバ嬢をオーナーが業務委託契約で採用しているケースでは、法的な違いを熟知して個人事業主として業務を委託していたオーナーもいれば、実態としては労働契約だったとして、スタッフから訴えられたオーナーが負けたというケースもあります。

 タニタほどの会社であれば、これらの対策は講じていると想像するものの、社員が独立して業務委託契約に変更しながら、社員時代と同じ業務をするのであれば、上司に急に指揮命令されなくなるのだろうか? 本当に出勤していないのだろうか? など、どうやって実際の運用をしているのか興味があります。また、後に問題が起こった場合にリバウンドはないのだろうか? などいささか気になるところではあります。

 数多ある会社の中には、今後安易にタニタ式働き方改革を導入するところも出てくるでしょう。何か問題があった時に、雑にタニタ式働き方改革を導入している会社には裁判で労働者側が勝てる可能性があると思いますが、裁判を起こせず人生を棒に振ってしまう人も出てくることが懸念されます。そんなことのないように、今後あり得る新しい会社との付き合い方として、業務委託契約への変更について知っておくべき時期なのではないでしょうか。

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