オセロをひっくり返すために、声を上げる/小川たまか×西口想『私のフェミはここから』

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(左)小川たまかさん著『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を。』(タバブックス)/(右)西口想さん著『なぜオフィスでラブなのか』(堀之内出版)

 2019年7月20日、『BOOK MARKET 2019』のイベントブースで開催されたトークイベント「私のフェミはここから」。

 『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を。』(タバブックス)の著者・小川たまかさんと、『なぜオフィスでラブなのか』(堀之内出版)の著者・西口想さん、ふたりのフェミニストによる対談内容の後編をお届けします。

※前編はこちら

男たちの「損している」感覚

小川:西口さんの著作で、すごく印象的なエピソードがあります。西口さんがテレビ業界に勤めていた時の上司と接していて、「彼らは根っこのどこかで“損している”という感覚があるように感じた」と書かれていたじゃないですか。西口さんが観察したことを、詳しくお聞きしてみたいです。

西口:僕が新卒でテレビ番組制作会社で働いていた時、その人は父親くらいの世代の、多くの業績を残した大物テレビマンでした。ただ、若い女性社員に手を出すともっぱらの噂で。自分でも「俺に近づくと妊娠するぞ」と冗談めかして言うような人でした。

 ある日、その彼がポロっと「自分は家族のためにこんなに頑張って働いてきたのに、家族はそれを分かってくれなかった」と言うのを聞きました。彼は子どもが何人かいるんですが、若い頃から激務で家に帰れないことも多く、家族からは家庭を顧みない男だと非難されてきた、といったニュアンスでした。

 その言葉を聞いたとき、「自分が働いてきた意味を分かってくれなかった」という思いと、若い女性にすぐ手を出したり不倫を繰り返したりすることは、繋がっているんじゃないかと感じました。これは僕個人が受けた印象に過ぎませんが、どこかで人生を損している、損なったと思っているから、それを取り返そうとして、自己破壊的なほど性的に奔放な行動を取っているんじゃないかと。でも、本人はそれで満たされている感じはしないんですよね。僕はその当時20代半ばでしたが、「自分は将来、こういう風になりたいだろうか?」という疑問をもつようになりました。

小川:西口さんのお話とつながるところがあるんですが、私は大学院で江戸文学を専攻していたので、学生時代は都内のとある花柳界で芸者さんのアルバイトをしていたんです。場所柄、お金持ちの年配の男性客にお酌をすることが多かったのですが、その人たちは花街で遊んでいても全然楽しそうに見えなかったんですよね。お姉さんを呼んでお酒を飲んで、それだけお金を使えるってことは、社会的には成功しているし、プライベートでは家庭があって子どもや孫もいます、という人たちだったんですけど、なんとなく退屈そうだったのが印象に残っています。でも毎週、同じ曜日に必ず来て、4~5時間とか、それ以上いる。

西口:女遊びや豪遊を心から楽しんでいるなら「本当に好きなんですね」で終わるんですけど、よく見るとそうでもなさそうなのが不思議ですよね。今の日本でも上司や取引先に付き合ってキャバクラなどに行かされるサラリーマン文化は残っています。ただ、ひと昔前であれば、会社の上司と後輩が飲めば、2軒目3軒目で「じゃあお姉ちゃんがいる店行こうか」みたいな流れが普通だったと思うんですけど、現在は本当に嫌がる若い男性が増えています。

小川:なぜ今の若者たちは、それを楽しまなくなったんでしょうか?

西口:僕自身も“楽しめない派”のひとりですが、付き合いで行かされる「女の子のいる店」では、落ち着いた意味のある会話や、対等なコミュニケーションはできません。かと言って、プライベートな遊びのような気楽さもない。それなら、なぜわざわざ仕事上の利害関係者と来なければならないんだろう、って思ってしまうんですよね。上司世代は自分が若い時にしてもらったように部下をキャバクラへ連れて行くことが普通だと思っているけど、今の若い人は行ってみても全然面白くないから、次から行かないです、ということもよくある。世代間でギャップがあるんです。

小川:昔は無理して飲んでいたんでしょうけど、今は上司との酒の席でも、お酒が飲めなければ断っても良いという雰囲気もありますね。

西口:昔はお酒を飲んで女性からサービスを受けるという構図を男同士で共有することが、ある種の儀礼というか、「型」だったと思います。むしろ、それを通過しないと一人前として認めてもらえず、メンバーに入れてくれない、というような。だから、好き嫌い以前の問題として、お酒を飲んだり、女の人の店に行ったり……ってことを、無理してやっていた人も少なからずいたのではないでしょうか。

離婚できない結婚生活

西口:少し前にTwitterで読んだ、こんなエピソードも印象に残っています。あるライターの方が、大企業勤めの年配の男性に取材した際、女性の社会進出や出世について「自分の妻が経済的に自立すれば、自分のもとから去っていくんじゃないかと思えてしまって怖い」とこぼしていたと。

小川:政治家の人がよく、「女性は3人産んでください」とか、少子化は女の責任かのような発言をして、問題になるじゃないですか。でも、結婚も妊娠も女性だけではできないんだから女の人だけの問題ではないはずだし、私は意味が分からなかったんです。でも最近になってようやく、政治家の人たちは、「女性が働きに出たことで男の人を必要としなくなった」って言いたいんだなって、理解しました。「女性活躍」なんて言ってるけど、本音は「女は結婚を夢見てろ」なんだな、と。

西口:本に書いたんですけど、僕の母親は自分の母親(祖母)を見て「離婚できない結婚生活は地獄だ」と思ったそうです。祖父には「お妾さん」がいて、そのことを祖母はずっと知っていたんですけど、「私は仕事してないから子どもを連れて離婚できない」と母に漏らしていました。そんな両親を見て育った母は「私は結婚してもいつでも離婚できるように絶対に仕事を続けよう」と決意したそうです。それが彼女のフェミニストとしての出発点だったと思います。

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