「薬物依存症になっても解決策はある!」脅さない薬物乱用防止教育とは/松本俊彦先生インタビュー

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厚生労働省の矛盾した啓発活動

 薬物乱用防止教育は文部科学省の管轄だ。一方で、厚生労働省も薬物防止のための取り組みをしている。

松本:厚生労働省には、薬物依存症を担当する課が二つあります。一つが医薬・生活衛生局の監視指導・麻薬対策課。もう一つが社会・援護局障害保健福祉部の精神障害保健課で、依存症対策推進室が設置され、薬物依存症の人たちの回復・支援を担当しています。しかし、どうやら監視指導・麻薬対策課と精神障害保健課の連携には問題があるように感じられます。

 どのような問題があるのか。

松本:その結果、薬物問題に関して一次予防(薬物乱用防止)と、二次予防(薬物依存症の早期発見・早期介入)や三次予防(再乱用防止)とが施策として統一感のないまま、バラバラに展開されてしまっているという印象を受けます。

たとえば昨年度、厚生労働省の精神障害保健課が実施したキャンペーン「誤解だらけの“依存症”」は、「依存症は回復できるんだ」ということを伝え、偏見を取り除く目的で行われました。清原和博さんが登壇するなどして、多くのメディアに取り上げていただきました。

ところが、その数カ月後。今年の6月20日~7月19日、今度は同じ厚生労働省の監視指導・麻薬対策課(※麻薬取締部の元締めの担当課)が「ダメ。ゼッタイ。」普及運動を実施したのです。ポスターでは、注射器が矢印のようになっていて、三つに分かれた矢印の行き先に、三つとも全部「破滅」と書かれています。典型的な「一回でも使ったら人生が破滅する」というメッセージだと思われます。

このポスターを目にして、実際に傷ついたという当事者やご家族の方もいらっしゃいますし、我々も腹が立ちました。矢印の行き先の一つは「破滅」でも、そこから病院やリハビリ施設、自助グループにつながるような描き方をされているのならいいのですが、まるで「もう後戻りできない」かのような描き方は、今日的ではありません。

 「依存症は回復できるんだ」と伝えたその数カ月後に、今度は「破滅」のポスター。主催はどちらも厚生労働省。担当課が違うとはいえ、矛盾を感じる。

松本:でも、これが今の日本の薬物乱用防止教育の現状なんです。「乱用防止」と、「依存症の早期発見・早期介入」や「再乱用防止」が完全に分断され、メッセージが矛盾している。これまで「乱用防止」に取り組んできた監視指導・麻薬対策課が、今も取り締まり一辺倒で、国際的知見をアップデートしていない印象を受けます。

「乱用防止」と「依存症の早期発見・早期介入」や「再乱用防止」は違うと考えているのかもしれませんが、これらをバラバラに分けて進めるやり方は現在、公衆衛生の観点から否定されています。むしろ「乱用防止」と「再乱用防止」は手を取り合っていかなければなりません。「ダメ。ゼッタイ。」のような「乱用防止」の取組みをやることで、かえって薬物に手を出した人に対する侮辱感やスティグマ(恥辱)を強め、排除するような啓発は、最終的には効果がなく薬物問題の解決にはつながらないことは、すでに色々な研究から明らかになっています。

 ところが日本の場合、たまたま「違法薬物の使用経験者が少ない」というデータがある。

松本:もはやこのデータもどこまで信用できるかわかりませんが、ともかく「少ない」というデータが存在するのだから「従来の薬物乱用防止教育が成功してきたのだ」と厚生労働省は主張しており、実際に薬物依存者の治療にあたる我々のクレームに、あまり耳を傾けてくれないところがあります。

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