
シヤチハタがテスト販売した「迷惑行為防止スタンプ」(画像はシヤチハタ提供)
2011年に警視庁が発表した「電車内の痴漢撲滅に向けた取組みに関する報告書」によれば、痴漢被害に遭っても警察に届け出る人はたった1割程度だという。痴漢という犯罪は、被害者が「怖い」「恥ずかしい」と思い、声を上げづらいことが特徴だ。
痴漢被害に悩む人は多く、5月にはTwitter上で、痴漢の撃退方法に「安全ピン」を使用することの是非について議論が巻き起こった。
「事務用スタンプor印章用品」や文具を製造するシヤチハタ株式会社の公式Twitterは5月22日、<今現在Twitterで話題になっている社会問題の件ですが、早期に対応ができるようにします。ジョークではなく、本気です>とツイートし、大きな注目を集めた。
そして3カ月後の8月27日、シヤチハタは実際に「迷惑行為防止スタンプ」のテスト販売をスタート。およそ30分で、予定販売数の500個が完売となった。
「迷惑行為防止スタンプ」の開発経緯や意図について、シヤチハタの広報担当者に聞いてみた。
シヤチハタが取り組む「迷惑行為防止スタンプ」開発
――改めて、商品開発の経緯を伺ってもよろしいでしょうか。
「安全ピンで痴漢を撃退することがSNS上で話題になった際には、『シヤチハタさんにスタンプを作ってほしい』というお客さまの声がありました。そこで弊社が公式Twitterで<早期に対応できるようにします>とツイートしたことが元々の始まりでした。以前からスタンプの用途展開を考えており、いろいろとアイディアを持っていました。

ブラックライトで印影(手のマーク)が浮かび上がる(画像はシヤチハタ提供)
スタンプのインキについても、手にスタンプを押して30秒以内に手を洗うことでインキが落ちる『手洗い練習スタンプ』や知育スタンプなどを作っていた経緯があり、これらの技術を応用すれば迷惑行為に対する防止策としても役立てられるのではないかという話が社内で上がりました。その後、具体的にどういう商品を作ればいいのかを考えて、テスト販売に踏み切ることになりました」(シヤチハタ広報担当)
――「迷惑行為防止スタンプ」は痴漢行為防止にも役立つと思いますが、どのような使用方法を想定していますか。
「一番の狙いは「迷惑行為防止スタンプ」を見えるところに付けたり所持していることで、痴漢などの迷惑行為を思いとどまらせる “抑止効果”となることです。実際に使えるものでないといけないのでインキを入れて販売しておりますが、現在、SNS上でご指摘があるように、いたずらやいじめにスタンプが使われるのではないかと懸念する声は社内にもありました。そのため、テスト商品にはUV発色インキという特殊なインキを採用しています。太陽の光や照明の下では無色透明ですが、付属のブラックライトを当てることで印影(手のマーク)が浮かび上がるようになっています。
また、テスト販売の段階では会員登録が必須な当社オンラインストアのみでの取扱いとし、購入時には規約への同意をいただいております」(シヤチハタ広報担当)
――今後、本格的に販売する予定はありますか?
「テスト販売では、30分間で予定販売数の500個が完売し、『もっと売ってもいいのではないか』という声もいただきました。そういった声に応えられるかどうかや、改良点などを踏まえて検討する段階ですので、今後の商品化についてはまだ具体的には決まっていません」(シヤチハタ広報担当)
――税抜2,500円という値段設定については、高校生くらいの子が買うのには高いと感じるのですが、どのように設定されたのですか。
「新しいインキの開発やスタンプ本体の準備もありましたが、安価にし過ぎてしまっても本当に必要としている人に届かないかもしれない点を考慮し、今回のテスト販売ではこの値段設定となりました。『高い』や『妥当だ』というお声もそれぞれいただいておりますし、アンケートなどに寄せられたご意見も含め、今後の検討課題としていきたいと考えています。」(シヤチハタ広報担当)
SNS上では「迷惑行為防止スタンプ」の販売について「金儲け」という批判の声も見られていたが、シヤチハタが一企業として痴漢問題を深刻に捉え、変化を促そうとしていることが伝わってくる回答だった。
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