
「Getty Images」より
101回目ということで、ある意味新世紀に突入したといえる夏の全国高等学校野球選手権大会。特に投手の起用法に注目が集まった大会となりました。
また、岩手県大会における大船渡高校の佐々木朗希投手の起用法については、野球評論家の張本勲氏や江本孟紀氏、現役メジャーリーガーのダルビッシュ有選手などが大論争を繰り広げるなど、野球界だけでなく社会問題として物議が醸し出されました。
今大会の地方予選において、エース一人で投げ抜いて勝ち上がってきた高校はわずか1校。全イニングにおけるエースの登板割合が9割以上の高校を含めても3校。近年の高校野球では、甲子園に出場するためには複数の投手が交互に先発したり、継投を行ったりするなどして乗り切らなければならない時代となっているようです。
ではここで、岩手県大会における佐々木投手の登板データを見てみましょう。
4回戦の盛岡四との試合では9回表まで2-0とリードしていたのですが、9回裏に2点を奪われ延長戦にもつれ込みます。12回表に自身の2ランホームランで決着をつけましたが、1試合で194球を投じなければならなかったのは想定外だったでしょう。
翌日は当然のことながら登板回避。問題はその後です。佐々木投手は決勝まで温存ではなく、準決勝に登板しています。この登板を疑問視する声もあります。
2014年にMLBが専門家の意見を基にした投球に関するガイドライン「ピッチスマート」を発表しています。これは年齢ごとに1日の球数上限、投球間隔などを細かく定めているものです。
それによると、17〜18歳は1日の球数上限は105球、31〜45球を投げた場合は中1日の休養が必要、81球を超えると中4日の休養が求められるとのことです。アメリカ独立リーグでプレーし、投手の投球障害についての見識をお持ちの大船渡高校、國保陽平監督はこのガイドラインをご存知だったことと思います。にもかかわらず、1試合で194球投げさせたこと、中3日の決勝ではなく、中2日で準決勝に登板させたのはなぜだったのでしょう。
想像するに、
・1戦必勝のトーナメント戦においてエースの温存は難しい
・4回戦、2点差ではエースを降板させられないほど、岩手県の高校野球における上位校の実力が拮抗していること
・タイトなスケジュールのため、決勝からの逆算が難しい
といった事情があったからだと考えられます。本来ならば、満を持して決勝に佐々木投手を登板させたかったところでしょうが、前日の準決勝を勝たなければ決勝は戦えません。そして、準決勝の相手が、佐々木投手抜きでは勝ち上がれる可能性が低いと考えた結果、このような起用になったのではないでしょうか。
奥川投手はなぜ優勝投手になれなかったのか
さて甲子園では、星稜高校の奥川恭伸投手に注目が集まりました。大会期間中に158km/hの自己最速を記録するなど、今年のドラフト会議で1位指名は間違いなしと呼ばれる逸材です。
しかし決勝では履正社に5失点を喫し、石川県勢初優勝を飾ることはできませんでした。決勝での奥川投手は9回まで150km/hを超えるストレートを投じていましたが、コントロールはそれまでの試合よりも甘く高めに入ることが多く、鍛錬された履正社の打線に被安打11、被本塁打1と打ち込まれました。
では、夏の甲子園ベスト4に残った高校の投手陣の投球数をみてみましょう。
出場校がまだ多数残っている1回戦、2回戦では登板間隔は十分開くのですが、3回戦以降はかなりタイトなスケジュールとなっていることがわかります。
8月15日が台風10号の影響で中止となりましたが、本来はこの休養はないわけで、もしこの休養がなければ3回戦での星稜・奥川投手の智弁和歌山戦での165球の好投はなかったのではないでしょうか。
先に紹介した「ピッチスマート」のガイドラインに照らし合わせると、3回戦以降ではどの高校でもガイドラインを超える投球をさせていることがわかります。履正社の清水投手は決勝の前は中3日あいていますが、その前は17日、18日と81球以上の連投になっています。また17日に延長14回165球の熱投を繰り広げた星稜・奥川投手は中1日で準決勝87球、そしてまた中1日で127球とガイドラインを超える投球となっています。
もし準決勝の登板を回避して中3日の登板で決勝に臨んでいたらと考えるのは、外部から見ている立場だからかもしれません。高校野球は1戦必勝、準決勝に勝たなければ決勝はないという状況では、現場の判断はそうせざるを得なかったのでしょう。