社会

北朝鮮がミサイル発射を繰り返しても、地下核シェルターが日本で普及しない理由

【この記事のキーワード】
【完成】北朝鮮がミサイル発射を繰り返しても、地下核シェルターが日本で普及しない理由の画像1

「Getty Images」より

 北朝鮮の核脅威が再燃している。2017年以降凍結していたミサイル発射を今年5月に再開して以降、これまでにないハイペースで発射を繰り返している。8月28日には、北朝鮮が潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射実験を行う可能性がある、との分析結果を米国のシンクタンクが発表した。

 もし、日本本土に核ミサイルを打ち込まれた場合、一体どうやってわが身を守ればいいのか。2017年から全国瞬時警報システム(Jアラート)の運用がスタートしたが、これは、「危険を知らせるから3分以内に安全な場所に逃げろ」というだけのもの。逃げろと言われてもどこが安全な場所かもわからないし、3分という短時間でどうやって安全な場所まで逃げられるのか。これで「国民を守る」と言われても、はなはだ心もとない。

 核・ミサイルの脅威は、日本だけの問題ではない。一発の着弾がもたらす放射線と爆風の恐怖は世界各国が認識し、いざという時の避難場所として「核シェルター」の整備を進めている。これは、放射能汚染から身を守る高性能空調機能を兼備した、コンクリート製の巨大防空壕のような地下収容施設である。

 世界唯一の被爆国であり、現実に核保有国に囲まれているにもかかわらず、日本は核シェルターの普及が一向に進まないし、議論すらまともに行われない。日韓関係の極度な悪化、北朝鮮の不穏な動きと、東アジア情勢は緊迫の度合いを高めつつある。いざ有事が起きた場合、どのような方策であれば国民を安全かつ確実に守れるか。政府・国民ともに真剣な議論が求められる。

核シェルターの普及率0.02%

 NPO法人「日本核シェルター協会」によると、各国の人口あたりの核シェルター普及率は、スイス・イスラエルが100%、ノルウェー98%、アメリカ82%、ロシア78%、イギリス67%、シンガポール54%。これらに対し、日本は0.02%という低さだった(2014年)。

 ほぼ0%の日本と、100%のスイスでは何が違うのか? スイスは、核シェルターの設置を法律で義務付けている。きっかけは米ソ冷戦の緊迫度が極限に達したキューバ危機だ。翌年の1963年に全戸に核シェルターの設置を義務付ける連邦法が成立。同時に、国民の核シェルターを管理する「連邦民間防衛庁」が発足した。スイスにはどの国よりも先がけて核シェルターの開発と普及に取り組んできた実績と技術があり、施設の性能や設置基準は世界中の国が参考にしているほどだ。

 広く国民に普及させるよう、費用を安く抑えているのも特徴。スイスでは簡易式の核シェルターであれば1万スイスフラン(約107万円)、地下に設置する大掛かりなタイプなら30万スイスフラン(約3200万円)ほどかかるという。しかし、自宅シェルターを設置せずとも、行政が管轄する公共シェルターを使えば、1500スイスフラン(約16万円)で家族全員の避難場所を確保できる。このようにスイスでは、国家の強力な意思と法的拘束力が後押しとなり、核シェルターが普及したといえる。

 では、なぜ日本では普及が進まないのだろうか?

 世界には200近い国が存在するが、第二次世界大戦以降、戦争に巻き込まれていない国は20カ国にとどまる。日本はそのうちのひとつだが、世界のほとんどの国はこの70数年の間に何らかのかたちで戦争や紛争を経験していることになる。身近に戦争の危機を抱えている国と、幸い戦争が起こらず切迫した危機感を持たない国とでは、危機管理の意識も決定的に違うのかもしれない。ミサイルが飛んでくるから危ないと言われるが、実際には物理的な被害など起きないので、次第に感覚もマヒしてくる。世論の後押しもないなら当然、国の動きも鈍くなる。

 狭小な住宅事情の問題やコスト面など、シェルター設置を阻む要因は他にもある。しかし、自然災害への対応を見れば分かるとおり、一番大きいのは何事も「忘れっぽい」国民性にあると言えなくないか。

 2017年には北朝鮮の核脅威を念頭に、自民党の国土強靭化推進本部が地下施設や核シェルターの整備について本格検討すると発表した。が、2018年12月14日に閣議決定された『国土強靭化基本計画』に、核シェルターという文言は見られない。その後北朝鮮がミサイル発射と核実験を凍結したことに起因するのかもしれないが、いかにも場当たり的で足元の定まらないお粗末さだ。

核シェルターの効能とは?

 一口に核シェルターといっても、用途や形状、大きさ、収容人数、設置場所などさまざまに異なる種類がある。核シェルターといえば地下要塞のような大掛かりな施設を想像するだろうが、室内に取り付けるだけの簡易的なタイプもある。

 簡易的なタイプの代表格は、空気洗浄機の役割を果たすエアコン型核シェルターだ。その名のとおり形状がエアコンに似た機器を壁に取り付けるだけ。このタイプのシェルターは特殊フィルターを使って放射性物質をブロックし、室内の空気を正常に保つ。地下設置の核シェルターより設置も容易なため、値段も180~240万円と比較的手に入りやすい。

 コンテナのようなルームを室内に設けて爆風から身を守るカプセル型核シェルター、15分ほどで組み立てられるテント型核シェルターといったタイプもある。これらも核ミサイルによる被害を抑えるシェルターに違いないが、最も堅牢で安全性が高いのは、やはり地下核シェルターだ。

 地下核シェルターは、地中にカプセル型の収容施設を埋設するもので、爆風と超高温熱光線に耐えられるような防爆性能を有する。就寝スペースやキッチンはもちろん、ミニリビングのようなスペースもあり、家族全員が長期にわたって避難生活を送れるような室内空間だ。外壁は強固な鉄製もしくは鉄筋コンクリート製。放射性物質は先述のエアコン型核シェルターで遮断する。

 地下核シェルタークラスになると値段も張り、購入するには1,000万円以上はかかる。本格的な普及を目指すなら、補助金や減税といった政府のバックアップは欠かせない。

1 2

「いいね!」「フォロー」をクリックすると、SNSのタイムラインで最新記事が確認できます。