アメリカ初の黒人大統領誕生から10年~Netflixとオバマ夫妻がコラボしたドキュメンタリー『アメリカン・ファクトリー』

文=堂本かおる
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Netflixと映画製作

 今年4月、オバマ夫妻は映画やテレビ番組を製作するプロダクションを立ち上げ、ネットフリックスで配信することを発表した。その第1作目となるドキュメンタリー『アメリカン・ファクトリー』が8月に配信開始となった。

 一度は絶頂を極めながらグローバル化によって傾いたアメリカの工業が、必死のサバイバルを試みるショッキングな内容だ。オハイオ州の工業地帯からGM(ゼネラル・モーターズ)の工場が撤退し、大量の失業者が出た。数年後、同地に中国のガラス工場が進出する。元GM工員たちが採用されるも年収は半減、仕事は単調、さらに英語もままならない中国人の同僚から仕事を教わらなければならず、文化の摩擦も起こる。アメリカ人のほとんどがまだ知らず、知ればショックを受ける厳しい現実を描いている。

「アメリカン・ファクトリー」

 オバマ夫妻のプロダクションの名は「ハイヤー・グラウンド」という。「倫理的、モラル的な高み」という意味だ。他に6本の作品が予定されており、いずれもアメリカの過去・現在・未来を見つめる内容となっている。

・Bloom:第二次世界大戦後のニューヨークを舞台に、女性と人種民族マイノリティの苦労と進歩を描くドラマ・シリーズ。
・Frederick Douglass: Prophet of Freedom:19世紀に活動した元奴隷の奴隷解放運動家フレデリック・ダグラスについての映画。
・Overlooked:ニューヨーク・タイムズ紙に連載された、新聞報道されずに終わった死者たちの生前の人生を描写するシリーズの映像化。
・The Fifth Risk: Undoing Democracy:現政権がいかに民主主義を逆進させているか。
・Crip Camp:障害者の権利運動について。
・Listen to Your Vegetables & Eat Your Parents:幼児対象の”食”についての30分シリーズ。

NPOオバマ・ファウンデーション

 オバマ大統領は大統領任期の後半にNPO「オバマ・ファウンデーション」を立ち上げている。その時点で任期終了後に取り組むプロジェクト「マイ・ブラザース・キーパー・アライアンス(MBK)」をすでに開始しており、NPOはその基盤となっている組織だ。

 MBKはアメリカの人種/経済/文化事情を理由に教育面で遅れを取っている黒人/ラティーノの男子/青年の支援を行う。今では全米ほとんどの州に支部があり、広く活動を展開している。

 同NPOのもう一つの大きなプロジェクトは「バラク・オバマ大統領センター」の設立と運営だ。米国大統領は引退後に大統領の名を冠した図書館を設立するのが慣例となっている。オバマ大統領は地元シカゴのサウスサイド地区に図書館以上のマルチ機能を持たせた一大センターの建設を予定している。ここにもレコーディング・スタジオ、科学やITを学べる施設のあるティーン対象のセンターが設置される。サウスサイドは貧しく、地元の青少年は十分な教育環境を得られていないこと、一般観光客も楽しめる内容の大統領センターを作ることによって地元経済を潤すことも目的だ。

 ミシェルのプロジェクト、「グローバル・ガールズ・アライアンス」も同NPOに属している。世界各国には貧困などが理由で学校に通えない10代の女の子が9800万人もいるという。そうした女の子たちに就学チャンスを提供するのがミシェルの目標だ。

 きっかけはファーストレディ時代に訪れたアフリカのリベリア。電気もない粗末な学校に家事を済ませた後に何キロも歩いて通う少女たちを見て感銘を受け、始めた。

大ベストセラー:ミシェルの自伝『マイ・ストーリー』

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『マイ・ストーリー』(集英社ビジネス書)

 昨年末に出版されたミシェルの自伝『Becoming』(日本語版『マイ・ストーリー』は2019/8/23発売)は、伝記本としては歴史的な45言語翻訳1,000万部超の大ベストセラーとなっている。8月25日付の米国アマゾン・チャート「最も読まれている本」ではいまだに1位だ。

 同書には、物心がついてからファーストレディという大役を終えるまでのミシェルの人生が平易な言葉で綴られている。決して豊かではなく、しかも父親が病身という家庭環境にありながらいかに勉強したか。優秀さゆえにアイヴィーリーグに進学するも白人の学生に囲まれ、環境に適応するためにどれほどの葛藤があったか。バラク・オバマとの結婚後はキャリア・パーソンとして、後に上院議員の妻として、さらにファーストレディとして、娘たちをいかに育てたか。

 ミシェルの思いの大きな部分が子供・若者で占められていることが分かる。夫バラクも大統領としての訪問先で必ず支援者の赤ちゃんを抱き上げるほどの子供好きだ。その背後には人種ミックスの子供としてアメリカとインドネシアで育ち、様々なハンデを乗り越えて今に至った複雑な生い立ちがある。

 オバマ夫妻が常に見つめるのは子供と若者だ。彼らが国と世界の未来を作ると知っているからだ。2人はシカゴのオフィスで初めて出逢った日から今に至る30年近いパートナーシップでその思いを共有している。だからこそ、2人はホワイトハウスを辞してなお、子供と若者の育成支援によってアメリカの未来に希望-Hope-を供給し続けているのである。
(堂本かおる)

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