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ひきこもりと農業のマッチング支援に批判 多数の実績あるが課題は

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「Getty Images」より

 厚生労働省は、ひきこもり支援の一環として、農家での短期間の農業体験を通じて本格的な就労のための準備を後押しする事業を2020年度から始めると発表した。

 就労していない期間が長く、生活が不規則になりがちな人や、他人と接することが苦手な人が、農業体験を通じて生活リズムを整え、コミュニケーションの機会を得ることが狙いだ。

 全国5カ所ほどにマッチング支援機関(農協など)を設置し、受け入れ農家と自立相談支援機関をつなぐ。これは、農家と都市部のマッチングも可能にする。

 この報道に対し、ネットでは、「ひきこもりは奴隷や外国人労働者の代わりじゃないんだが」「ひきこもりが早朝の作業に出てこられるかな」「人手足りない所に家にこもってる人を!って簡単に考えるのやめた方が良い」「ただでさえ忙しいのにこういうのに協力しようとする人の良い農家の方がひきこもりコミュ障に迷惑をかけられないか心配」といった否定的な反応が多く出ている。

 実は、農業と福祉の連携は、以前から国レベルで行われている。これを「農福連携」という。農林水産省と厚生労働省が連携し、これまでは、障害者を中心に、高齢者やひきこもりも対象としていた。また各市町村が協力先の農家を見つけるなど、同じ市町村内で完結していたが、今回提唱されるモデル事業では、マッチング支援機関同士の連携により、県域を越えた広範囲なつながりが可能になるという違いがある。

 果たしてこの取り組みが現実的なのかどうか、さらに考えてみたい。

ひきこもりの支援は、社会に出られる段階になった人のみが対象である

 厚生労働省の作成した「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」によれば、ひきこもりと一口に言っても、さまざまな状態の人がいる。

 ひきこもりには段階がある。最初は、「準備段階」というひきこもる前に内面で葛藤を抱えている段階、次に「開始段階」という不安定な段階に入り、その後「ひきこもり段階」という、ある意味ひきこもりが安定した段階に進む。この段階では、夜間に一人でコンビニに買い物に行くといった社会との軽い接触が再度始まることがある。また社会への関心を示すことが増えていくと、「社会との再会段階」に突入する。

 「社会との再会段階」へ至る日数や年月は、人によって大きなばらつきがあるし、「開始段階」からそのままスライドする場合もある。

 ポイントとなるのは、就労支援は、「社会との再会段階」になった人にのみ提供するものであることだ。

 本人が、「働くことに向けて何かやってみようという気持ちがある」段階になって初めて、「どのような働き方・生き方をしたいか」「今の自分にできることとは」を考えてもらう。農業に興味がある人、また朝ちゃんと起きられると思った人、出勤できると思った人だけをトライアルの対象とするのが、基本的な考え方だ。

 参加者が前向きであれば、後は間に入ってあっせんする人と受け入れ農家に理解があって、人柄の良さが求められるように思う。信じても大丈夫な人物と思わせるのは必須だろう。

農業によるひきこもり支援の実績

 世の中には、ひきこもり更生に農業をプログラムに取り入れたNPOや私立の支援学校が数多くある。それだけ農業に一定以上の効果を実感しているのだと考えられる。

 「仕事の情報」に特化したWebサイト「キャリコネニュース」の取材よれば、北海道と石垣島で活動する農業生産法人「耕せにっぽん」の参加者は、ひきこもりであることに罪悪感を抱いているだけに、「働けることはありがたい」と喜んで働くのだという。

 ネットでは、「ひきこもりが自宅を離れて暮らすのが無理ではないか」と心配する声もあるが、彼らは家族との関係がよくない場合が多いので、ホームシックになる例は少なく、むしろ親のありがたさを実感する人が多いとしている。この団体では、過去15年で約400人のひきこもりを受け入れてきたが、しっかり卒業した人の8~9割がその後就業に結びついているという結果が出ている。

 神奈川県相模原市の農場でひきこもりを受け入れてきたNPO法人「文化学習協同ネットワーク」でも、3~6カ月の長期プログラムに20人弱が参加し、その後9割が何かしらの雇用形態で就業したという。再びひきこもりに戻る人は、1~2人いたかどうかということで、多くが就労に向かう。

 農業は、自然を相手にするため思うようにコントロールができないところ、人と協力しなければできない面が、働くことが生産に結びつくというわかりやすさが、よい影響を与えると同団体は話す。また非日常といってもいいほど、これまでいた環境と大きく変わることもよい作用を生むのではないかと考えているようだ。

 農業の面白さ、効能を感じている人は一般でも多いし、著名人が発信してもいる。

 たとえばアートディレクターの佐藤可士和氏は、週末農業の経験から、野菜を収穫し味わうことが食への興味関心を高める、自分の手で生活を作るリアリティを感じられると、「GQ Japan」の取材で話している。

 エッセイストの玉村豊男氏は、日の出の時間に起き晴耕雨読の生活で健康になったという。また農業は天候次第であり、理不尽さと不可抗力を感じることが多く、かえって諦めが良くなり、日々の満足感と前向きな生活を手に入れたと、日本植物油協会のコラムで語っている。

 経済学者の森永卓郎氏は、農業は単純に楽しいから幸福度が上がると週刊実話の連載に書いている。また、今後AIの発達をもってしても、農業はこなせないと私見を示している。自然が相手でコントロールできない部分が多く、非定型的なクリエイティブさが必要とされるというのがその理由で、今後従事者が増える分野だと言及している。

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