なかなかにヘビーな話題が多い当連載でございますが、今回はちょっと趣向を変え、珍スポ旅気分が味わえる(かもしれない)、一風変わったグルメネタをお届けします。しかも、100%他人のネタ! ここはいつからまとめサイトになったんだ? と思われかねませんが、ついつい私のどツボに入ってしまったもので、転載の許可を頂戴した次第です。
テーマは「宗教メシ」。コミケ(やその他のイベント)で、毎年新刊が頒布されている「珍味ミシュラン」より、内容を一部ご紹介させていただきます。
この冊子を執筆制作しているのは、「世界の伝統料理と特殊食材を食べる会」なるサークルの代表を務めるX氏。本業の傍ら脅威のフットワークで世界中を食べ歩く、珍食の猛者的存在です。X氏はここ数年、文化人類の観点から宗教飯(しゅうきょうめし)を研究し、独自の視点で冊子を制作。そんな経緯から生まれた今年の新作が、「新興宗教のメシ」。辺境めしや海軍めしなどニッチなジャンルはいろいろありますが、これはグッときますよねえ……(私だけ?)。
さて、巷にそうそうないお題というのは、やはり「ワケあり」です。今回のお題は『珍味ミシュラン』シリーズ19作目にして、「読み物としてまとめるのが困難だった」というのですから。新刊の副題には「宇宙人飯、輪廻飯、新興宗教飯」とあり、さぞかし攻めた内容だろ! と思わせておき、その実は「新興宗教の食事は非常に普通」なのだとか!?
X氏(以下、X)「ユダヤ教やイスラム教など中近東の伝統的な宗教であれば、現代の食生活にはない独自の価値観や食材など、おもしろいものがいくらでもあるので文書化はラク。対して新興宗教の食事は、『どこどこの聖地の山からとってきた水~』なんかがせいぜいなんです。しかし、その中でも特徴があるのでは? と思うものを狙って各団体が主催するイベントなどに足を運びました」
今年の新刊で紹介されているのは「創価学会」や「出雲大社東京分祠」などの超有名な団体にまつわる食事から、ラエリアンムーブメントの集いで食されていたというニッチなものまでと幅広く、17個のテーマで語られています。ここではその中から、脱力度の高い3つをピックアップ! (※「脱力」はその団体の教義やありかたではなく、あくまで「X氏の体験した食周りのエピソードが」という意味です)。「基本的にはネタとして楽しんでいますが、できるだけ相互理解を」というX氏のアドバイスとともに、いってみましょう。
パリピ系(!?)の宇宙人信仰は、食も自由で楽しげ!?
まずはスピリチュアル界隈や、UFO好きなら知らぬ人はいないであろう、「ラエリアンムーブメント」から。地球上のすべての生命は、異星人エロヒムによって科学的に創造されたという教えを広めている、新興宗教団体です。
X「かつてはフリーセックス団体のような扱いを受けていましたが、団体内の高齢化が進み、今は表立ってフリーセックスな雰囲気はありませんでした。しかし若い女性は在籍しており、楽しそうな感じはあります。ラエリアン同士における結婚は1日単位で更新される契約らしく、合意もを重視して別れも早く、パートナーの入れ替えは通常の概念より早く発生している。随所に『人生を楽しめ』という思想があるようで、団体としては「パリピ」的な雰囲気を感じます。成り立ちや用語から、若干ユダヤっぽい雰囲気が漂うものの、光臨堂(共同生活の拠点とされる寺院的な建物)で行われるパーティに参加して確認した限りでは、食の禁忌は特に存在しないようです」
焼肉で使われていたのは、豚、鶏、牛。アルコールも楽しむことができ、「トランスミッション」なる集いでは、コンビニおにぎり、菓子パン、おかしもふるまわれていたそう。
X「食の禁忌なんか誰も気にしていない感じが、パリピっぽくてとてもいいですね。個人的に推奨するつもりはありませんが、瞑想とパーティ好きな人にはいいんじゃないでしょうか。ただし海外から来ているラエリアンは結構ガチな感じで、瞑想を真剣に行っていましたけど」
「DNA情報をエロヒムたちに送っておくと、そのデータを活用し死後も復活させてもらえる可能性もある」などは全く理解が追い付きませんが、「動物はおかずじゃない!」など食生活に支障が出る主張を押しつけられない点では、多少仲良くできそうな気がしてきました。
「前世トーク」がメインディッシュ!? なチベットハウスディナー
お次は、ダライ・ラマ(※チベット仏教ゲルク派の高位ラマ)法王日本代表部事務局、通称「チベットハウス」での食事風景です。
X氏が参加したのは、毎年在日チベット人団体が主催する「ロサール(新年パーティ)」。そこでふるまわれる料理は、特に宗教的な特徴はなく、チベットの一般的なおかずの数々だったよう。
X「薄味のモモ(小龍包的なもの)や、薄味のカレー的な何か。あとは塩ゆでの、肉。バイキング式に、全種類を皿に盛ってみました。基本的にチベット料理は出汁とかうま味という文化が存在せず、豆板醤に似た調味料が味変できる唯一の調味料。参加費を払えば食べ放題。健康的な味つけなので、正直、塩が欲しくなる……が、もちろん雰囲気的にまずいとは言えません」
この食事会、そんじょそこらのことでは動じないX氏がひるんだポイントがあるというからすごい。それは、そこかしこで前世トークが始まること。
X「隣に座っていた人同士で『チベットにいた時の、@@年の虐殺は大変だったね! あの時のこと、覚えてる? 私は転生3回目なの』とかで盛り上がっているんですよ。前世トークに入れないと居場所がなく、早めに帰ってきてしまった。自分も、前世の記憶が欲しいです」
脱力系のオカルト祭りにちなんだ、謎ラーメン
これは歴史ミステリーだ……と言っていいのかわからない「キリストの墓」。処刑されてエルサレムに埋葬されているとされるイエスキリストが、なぜか密かに日本にわたり、亡くなったという珍説により「キリストの墓」と呼ばれる場所があるのです。場所は青森県三戸郡新郷村。そこで行われるのが、謎の祭りとして一部で有名な「キリスト祭り」です。
キリスト祭りはキリストの霊を慰めようと、1964年から年に1度開催。歌詞の意味は誰も知らないという、謎の盆踊り「ナニャドラヤ」など、見どころは山ほど。
そんな盛り上がりに乗じてか、現地の「らーめん亭 えびす屋」には、「キリストラーメン」なるメニューがあるという。キリストと言えば、最後の晩餐に登場するパンとワインが思い浮かぶけど、ラーメン~!? 激務の傍ら、東京から9時間かけてそれをわざわざ食べに行く、X氏の情熱が恐ろしい。
X「一応、山芋が十字架を表しているそうです。スープは鶏ガラしょう油、具は青じそと梅干し。ユダヤの食の規制であるKosher的なものを期待するのも野暮ですが、もう少しキリストっぽくしてほしい……」
器の中で唯一それっぽいのは「六芒星型のなると」のみ。どこかキリスト? と首をかしげたくなる不思議ラーメンですが、脱力テイストのオカルト祭りには、むしろジャストフィットなのかもしれません。
ふるさと納税にも採用されている「天理カレー」
日本の国民食とも言われるほどメジャーな「カレー」は、天理教でもPRのために大活躍。郷里(天理)に世界中の子どもを集め、「3つの約束」(※)を身に着けるためのイベント「こどもおぢばがえり」でも、カレーがふるまわれるとか。
(※3つの約束=「生きるよろこびを味わいます」「ものを大切にします」「仲良くたすけあいます」)
X氏「ここでふるまわれるカレーを再現したのが『天理カレー』です。通販でも購入できますが、せっかくですからだれでも入れる、奈良県の天理教本部にある超巨大食堂で食べてきました。味は、昭和のカレー。万人受けするやさしい味です。レトルトは、スジャータで有名なめいとうグループ。創業者が熱心な天理教ととして知られています」
上記動画に登場するのは、天理カレーのキャラ、「カレーファイブ」。おこめレッド、にんじんパープル、おにくイエロー、じゃがグリーン、たまねぎピンクが登場し、ムダ星人との戦いを通じて、子どもたちに道徳を叩きこむストーリー。
X「アニメ制作に力を入れている新興宗教は多いですが、正直宗教アニメは破たんした内容が多い。それと比べると、天理教アニメは一番分かりやすい。ギャラも相当いいという話しです」
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X氏が頒布する「珍味ミシュラン」には、ほかにもフリーメイソンの花見で配られたシンボルマーク入りのクッキーや、朝鮮カルトのクリスマス集会など、さすがにここでは紹介しにくい物件も盛りだくさん。その情熱は一体どこから……と尋ねてみると「誰もやっていないから」なんだとか。そのうちX氏の珍味シリーズに、巷で物議を醸すアロマクッキングや謎発酵食品も登場しないかな~なんて、密かな期待も寄せております。
(おまけ)
「数ある宗教お菓子の中でもっともおいしい」とX氏が太鼓判を押すのは、創価学会のお土産や「博文栄光堂」で販売されている「信濃の女」(ミニバームロール)だとか。「博多の女そっくりな味はそれもそのはず、博多銘菓二鶴堂と創価学会の仏具屋である金剛堂のコラボだからです。ちなみに金剛堂2階の休憩エリアは、無料でお茶と信濃の女が出てくる、オススメスポット。その他、お土産やで売られているゴーフルなども普通に美味しく、さすがグローバルな宗教なだけありクオリティは高い」。規模の大きい団体は、さすがサービスも行き届いていらっしゃる。