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樹木希林が日本映画界に残した足跡は、「いち役者」の役割に留まらない

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モリのいる場所 オフィシャルサイトより

 樹木希林さんが亡くなってから、まもなく1年が経つ。

 この間、樹木希林の名言や人生を振り返る本が多数出版され、その多くがベストセラーになるなど、彼女の影響力は強まりこそすれ、衰えることはない。

 生前の樹木希林は大女優として日本の映画界には欠かせない存在だったが、彼女がそれだけ多くの映画人に愛され、作品に引っ張りだこだったのは、撮影現場のなかで「いち役者」以上の役割を果たしていたからでもある。

 WEZZYでは昨年、是枝裕和監督の発言などを紹介しつつ、樹木希林という女優が映画制作においてどれだけ大きな役割を果たしていたかを解説した。以下に再掲するので、是非とも読んでみてほしい。

是枝裕和監督作品のなかで樹木希林が果たした「いち役者」以上の役割

 樹木希林さんが9月15日に亡くなって以降、多くの人がその死を悼み、是枝裕和監督、河瀬直美監督、大森立嗣監督、吉永小百合、岸本加世子、佐藤二朗、松坂桃李、多部未華子、黒木華、真野恵里菜、松岡茉優、広瀬すずなど、多くの映画関係者からお悔やみのコメントが発信されている。

 そのなかでも是枝裕和監督は、樹木希林と共に映画づくりをしてきた日々に思いを巡らせ、<僕が希林さんとご一緒したのは、彼女の長いキャリアの中で最後の10年ちょっとに過ぎませんが、監督と役者という関係を超えて、とても濃密な、楽しい時間を共有させて頂き、感謝の気持ちでいっぱいです>(2018年9月17日付ニュースサイト「スポーツ報知」)とのコメントを出している。

 近年の是枝裕和監督の作品にとって樹木希林はなくてはならない存在だった。『そして父になる』(2013年)、『海街diary』(2015年)、『海よりもまだ深く』(2016年)と連続して起用し、第71回カンヌ国際映画祭で最高賞となるパルムドールを受賞した『万引き家族』(2018年)でも主要キャストのひとりとして樹木希林をキャスティングしている。

 是枝監督自身も追悼コメントのなかで<監督と役者という関係を超えて>と語っているが、是枝監督にとって樹木希林という女優は、単なる出演者以上の意味をもっており、映画制作にも強い影響を与えるような大きな存在だった。

 「SWITCH」(スイッチ・パブリッシング)2018年6月号に掲載された是枝監督と樹木希林の対談のなかで、是枝監督は脚本を読んだ樹木希林からのフィードバックが映画制作において欠かせないピースであると語っている。

<書いた脚本を希林さんにお渡しすると「なんでこういう人がいるの?」とか「この人はこういう人じゃないんじゃない?」とか率直に聞かれるわけです。それで僕は「あ、そうか。だとするとこの人はなぜいるんだろう」と考えて、脚本に反映させていくという作業をやるんです。その必然性を見つけていく作業を>

樹木希林のアドリブが『万引き家族』の鍵になった

 2018年5月14日(現地時間)に開かれたカンヌ国際映画祭公式記者会見のなかでも、『万引き家族』で一番最初に撮った夏の海のシーンでの樹木希林のアドリブが作品の方向性を決定づけたことに感謝しつつ(安藤サクラ演じる信代に向かって言う「よく見ると綺麗だね」というセリフが大きなインスピレーション源となった)、作品をつくる過程において「いち役者」以上の関わりをしてくれるからこそ、何度も彼女と仕事をしたくなるのだと述べていた。

<演出の指針も与えてもらいました。そういう作品への関わりをサラッとですね、台詞のなかで、演技のなかでしてくれる存在というのは、本当に監督にとっては大きな存在です。なので、『もういいんじゃないの?』って言われながらも、繰り返し繰り返し希林さんにオファーをするのは、彼女の作品に向き合う姿勢に本当に助けられていますし、頭が下がる思いでいっぱいです>

 このような働きが出来る理由について、樹木希林自身は<全体をぱっと見てつかむ、俯瞰でものを見る癖はふだんからついているわね。それがないと役を演じられないのよ。私は脇が多かったでしょう。主役はいいの。話がずっと描かれているから。でも脇は出番がぽこっとあって、その前後の人生が描かれていない>「AERA」2017年5月15日号/朝日新聞出版)と語っているが、こういった「ものの見方」は女優としてのキャリア初期から学んできたもののようだ。

女優・樹木希林をつくった若き日の経験

 樹木希林は1961年に文学座に入り女優としての活動をスタートしているが(当時は「悠木千帆」名義)、前掲「SWITCH」の対談のなかで、客観性を保った台本の読み方は文学座で教わったと明かしつつ、このように語っている。

<台本は誰だって読めるじゃない。でもその台本の中で、自分がキャンパスの中のどの絵の具のどの色になったらこの絵がうんと引き立つか。その自分の置き場所も含めて台本を読む。そりゃ、素晴らしい演出家ばかりならいいけど、そうじゃない時にどう自分を活かすかという意味でも、台本を読むということは最初に教わった>

 <素晴らしい演出家ばかりならいいけど、そうじゃない時にどう自分を活かすか>という表現がなんとも樹木希林らしいが、50年以上におよぶ長いキャリアを常に第一線でい続けられたのは、まさにこういった能力があってこそなのだろう。

 樹木希林といえば、トーク番組での歯に衣着せぬ物言いも絶品で、バラエティー番組にも引っぱりだこだった。どれだけキツい毒舌をぶつけても視聴者や共演者を嫌な気持ちにすることなく、きちんと笑いに昇華できていたのもまた、これまで述べてきたような「ものの見方」があってこそであるはずだ。

いま現在の日本映画界を背負う女優たちも樹木希林の影響を受けた

 そして、そのような樹木希林の女優としての佇まいは、後進の女優たちに大きな影響を与えている。

 たとえば、『海街diary』で共演した広瀬すずは、追悼コメントのなかで<現場でお会いする度に頑張ってね、と言ってくださる優しい言葉がいつも私のエネルギーになっていました>(2018年9月17日付ニュースサイト「スポーツ報知」)と樹木希林の優しい人柄を振り返りつつも、撮影現場での彼女の存在は畏怖すら感じさせるものであったと告白する。

<一緒にお芝居させてもらうのが一番怖かった方でもあります。カメラの前で嘘のない言葉でも、お芝居だからどこか自分の嘘の部分を見抜かれてしまいそうでした>(前同「スポーツ報知」)

 そのうえで、広瀬すずは<カメラの前に立たれてた姿、生き方、感性、全てかっこいい樹木さんの事はずっと憧れです>(前同「スポーツ報知」)と綴っている。

 また、とりわけ、樹木希林への尊敬の念を語っているのが、『万引き家族』で共演した松岡茉優だ。

 松岡茉優は先に挙げたカンヌ国際映画祭公式記者会見の場で樹木希林を讃える是枝監督の言葉を聞きながら感激の涙を流した。共演以降、「おばあちゃん」(『万引き家族』の役内での2人の間柄も祖母と孫の関係)と慕っているのもよく知られているが、そんな彼女は樹木希林の死を受けてのコメントのなかで<樹木さんが教えてくれたこと、残してくれたものを最大限に生かしたい>と明確に宣言している。

<樹木さんが教えてくれたこと、残してくれたものを最大限に生かしたい。同じ時代に生まれたことを、大きな意味で捉えていきたいです。暖かくて風通しがよくて、過ごしやすいところでお休みになられていますように。大好きです>(2018年9月16日付ニュースサイト「スポーツ報知」)

 樹木希林の遺作となる映画『エリカ38』(来年公開予定)では、これまでの女優人生で初めて企画も担当した。さらなる活躍が期待されているなかで亡くなられてしまったのは大変に残念で、日本映画界にとっても大きな痛手だが、仕事を共にして樹木希林から影響を受けた後進の監督や俳優・女優たちが、彼女の功績を未来に受け渡していってくれることだろう。

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