「男らしさ」って何? 偏見にまみれた「フツー」を考える/北村紗衣×清田隆之(桃山商事)トークイベントレポート

【この記事のキーワード】

「フツー」という感覚は、社会の偏見を取り入れてできた保守的な価値観

【完成】「男らしさ」って何? 偏見にまみれた「フツー」を考える/北村紗衣×清田隆之(桃山商事)トークイベントレポートの画像3

会場には笑いが溢れていた

清田:北村さんは、著書の中で「普通」という言葉をカタカナで「フツー」と表記していらっしゃいますよね。北村さんは「オーソドックス」や「旧来的な」といったような、その時点でのマジョリティや当たり前に存在しているものを「フツー」という言葉で表現しているのかなと僕は解釈したんですけれど、そのあたりに関してはいかがでしょうか。

北村:この本で「フツー」などという言葉を使って言いたかったのは、たいていの映画とか舞台というのは社会の偏見を取り入れてできているものなので、保守的であるということなんです。作る人も読む人も、檻に入っていると細かいところを見て「あれ、ココおかしいんじゃない?」と気づいて解釈することができないんです。

清田:僕の本にはwezzyで持っている連載も収録しています。これは、「セクハラ」「性教育」「ホモソーシャル」「DV」「ハゲ問題」という男性性にまつわる問題について研究している専門家の方にインタビューする企画なんですが、先生たちの多くは「男性のことを考えることは、オーソドックスやマジョリティ、スタンダードといったものを問い直す作業」と仰っていました。フェミニスト批評はそれを浮き彫りにするひとつの手法だと感じました。北村さんが作品を通じて考える「フツーの男」ってどういうイメージの男性ですか?

北村:芸術作品だと、何が普通かというのは難しいんですよね。普通の人に見えていた人が、実は全然普通ではないこともあります。レイチェル・ギーザの『ボーイズ 男の子はなぜ「男らしく」育つのか』(DU BOOKS/2019年)では、男性を均質な存在として捉えてはダメ、一人ひとりの男性は違うんだってことが書かれています。作品においても、そこら辺にいるような男の子のキャラクターでも、ライトの当て方次第で普通ではなくなるんです。そこが作品を分析することの面白さですね。
 でも、だからこそ普通を定義するのは難しいなと思います。マジョリティを表現することが難しいと思うのは、そういうところですね。一方で、いわゆる普通の人に焦点を当てて描いた作品でも、社会的バイアスが無批判に入ってしまっているところがあるので、そういう批評ができるのが作品批評の面白さかなと思います。

清田:確かにそうかもしれませんね。『よかれと思ってやったのに』で紹介されるエピソードに登場する男性の多くは、「会社員で、異性愛者で、恋愛経験もあって……」という、ニュースに出たら“一般男性”と形容されるような人なのですが、とはいえそれが普通なのかというと、途端によくわからなくなる。だからこそ、それをいったん「フツー」という括弧つき、保留つきの言葉で描き出し、そこにある背景や構造について考えるという態度がとても勉強になりました。
 ところで最近、北村さんが触れた作品の中で「いいな」と思った男性像はありますか?

北村:昨年公開された米スリラー映画の『シンプル・フェイバー』という作品は、メインのキャラクターのほとんどが女性なんですが、主人公の友達に子育て中のパパ友がいるんです。ママ友の輪の中にひとりだけ彼がいて、ほかのママ友の噂話をしたり、子どもの面倒をみたりする描写や、ラストで彼が活躍するところも面白いなと思いました。

清田:女性コミュニティの中に溶け込める男性像というのは興味深いキャラクターですね。以前、ライターの西森路代さんやドラマ研究者の岡室美奈子さんらと一緒に、テレビドラマの中に出てくる男性像についてお話をしたことがあるんですが、当時はドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系/2016年)や『カルテット』(同/2017年)が流行った直後で、この2作品に出てくる男性たちは、それまで作品で肯定的に描かれていた男性像とはちょっと違っているぞという話題になったんです。
 昔のドラマでは、頼りになって寡黙で、みんなの想いを背負って責任をとって、弱みを見せずあまり感情を表にしない……という男性キャラ(代表例は木村拓哉)がカッコいいとされていましたが、この2作品で存在感を発揮していた男性たちは、女性の話にちゃんと耳を傾けるとか、相手の感情に寄り添えるとか、そういう「話を聴く男たち」だった。その傾向は現在も続いているように感じます。

北村:昔のハリウッド映画にも、そういう男性キャラはいたと思うんですよ。女の人に親切なことが「男の徳」とされていた時代があって、ひょっとしたら最近はまた回帰しているのかも知れません。「男らしさ」って、景気や戦争など時代ごとのさまざまな要因によって激しく変わっていくものなんです。

1 2 3

あなたにオススメ

「「男らしさ」って何? 偏見にまみれた「フツー」を考える/北村紗衣×清田隆之(桃山商事)トークイベントレポート」のページです。などの最新ニュースは現代を思案するWezzy(ウェジー)で。