「男らしさ」って何? 偏見にまみれた「フツー」を考える/北村紗衣×清田隆之(桃山商事)トークイベントレポート

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「男らしさ」とは、社会的で時代的なもの

清田:フェミニスト批評は現実の人間はあまり対象にしないとのことでしたが、現実生活の中で出会う男性に違和感やモヤモヤを抱いたときってどうしてますか?

北村:私、いわゆる「男らしい」みたいなんですよ。よく、コミュニケーションは“女性の徳”とされているけれど、私は人とコミュニケーションするのが苦手で。私の連れ合いが男性なんですけれど、「人と話す時の君は、他人のコミュニケーションをコンピュータみたいに模倣しているだけだよね」って言われたんですよ。どうやって素で話せばいいのかとか、わからなくて。
 清田さんの本の中に、男性のあるあるとして「人の感情がよく分からない」というのがあるじゃないですか。でも、私にとっては、「これ自分だ」って思う部分がありました(笑)。みんなが思っているほど「男らしさ」や「女らしさ」は均質的、普遍的なものではなく、清田さんの本に書かれている男性のような振る舞いをする女性もいますよね。他人に「男らしさ」や「女らしさ」はこうだという押しつけがなくなければ、みんなが楽しく生きられるんじゃないかと思います。

清田:僕の本は、女の人が困ったり傷ついたりしたエピソードがベースになっているんですけれど、女性読者から「私もここで描かれている男性と同じようなことをしてしまったことがある」という感想を聞くことが意外に多いんです。僕としても、「男性=加害者、女性=被害者」みたいな構図になるのもちょっと違うなという思いはあるのですが、女性たちから自責的な感想が多いことには驚きました。
 その一方で、本を読んでくれた男性の中には、もちろん「身につまされた」「自分の言動を省みた」という感想をいただくこともあるんですが、まるで他人事のように「へーこういう男もいるのか、俺は違うけど」って感じの声が多く、この違いはいったい何なんだろうと不思議に思っています。男女差で語れる問題ではないかもしれませんが、なんでこんなに男女で違うんだろうっていう思いも正直あります。
 たとえば、レベッカ・ソルニットの『説教したがる男たち』(左右社/2018年)という、マンスプレニング(manとexplainの合成語)について書かれた本があるじゃないですか。相手にマウントを取りがちな女性だってもちろんいるとは思うんですが、やっぱり男性の方が圧倒的に多い行為だなと感じるところがあって。そういえば北村さんもこの間、Twitterでいかにもなマンスプレニングをする男性に絡まれていましたよね……。

北村:絡まれることはよくありますね(笑)。でも、そういう行為が男性に多いのは生まれつきとかではなくて、社会的に「マンスプレニングをしていい」と教育されがちだからだと思うんです。たとえば、男の子は多少のヤンチャをしても、「男の子だからしょうがない」と許されることがありますよね。でもそれは、他者への優しさや穏やかさという素晴らしい特質を養う機会を奪われていることにもなります。良い特質を持つ男の子もたくさんいるのに、あまり伸ばせてもらえない。
 たとえば、新刊でとりあげたアイルランドの劇作家、オリヴァー・ゴールドスミスの戯曲 『負けるが勝ち』(1773年)は、18世紀の良家の息子・マーロウが主人公ですが、マーロウは自分より身分が下の女性やメイドさんとはすぐに仲良くなっちゃうのに、自分と同等か上の階級の相手とは、ひと言も喋らないで黙っちゃうんですよ。

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「男らしさ」って何? 偏見にまみれた「フツー」を考える/北村紗衣×清田隆之(桃山商事)トークイベントレポートの画像2 ウェジー 2017.07.11

清田:作中ではコミカルに描かれていたかも知れませんが、マーロウの行動にはめちゃめちゃ既視感がありました。以前、桃山商事に「婚約相手の嫉妬に悩んでいる」という女性が相談にきたんですね。彼女は会社の先輩と婚約して同棲を始めたのですが、給与明細をテーブルに置いておいたら彼氏がそれを見てしまい、自分より彼女の方が給料が高かったことを知って怒り狂ったらしいんです。見るなりワナワナと震え出し、なぜか爪を頭に刺して叫びながら家を出て行ってしまったと……。
 収入や学歴といった社会的なバロメータで女性に負けると、過剰にビビったり、ときに嫉妬ゆえの怒りをぶつけたりする。先の彼氏やマーロウもそうでしたが、これって男性に広く当てはまるものではないかと感じます。もちろん自分の中にもそういう傾向は拭い難く存在しています。当事者としてこれをどう考えていけばいいのか、課題を突きつけられたような気がしました。

北村:普通の人は、清田さんほど他人のエピソードを聞く機会はないと思うので(笑)、芸術作品に触れることは、自分がどのように見られていているか、ちょっと引いて考えるためのいいチャンネルになるんじゃないかと思います。作品に触れることで、「あれ、これ私なんじゃないか?」と、自分の人格的欠陥を見直す体験になる。これは男も女も変わらないですよね。

清田:シェイクスピアの言葉にもありましたが、作品や他者の目という「鏡」に映る自分を見つめることで発見できることは多いと思います。必ずしも楽しい作業ではないかもしれませんが……そういう体験がもっとポピュラーなものになってほしいなと、個人的には思っています。

(構成:雪代すみれ)

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