アジア系「軽視」という差別に挑む〜48年振りの東アジア系大統領候補アンドリュー・ヤン

文=堂本かおる
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 2020大統領選・民主党候補による第3回ディベートが9月12日にテキサス州ヒューストンにて開催される(本稿執筆はその数日前)。史上2人目となるアジア系候補者(※)アンドリュー・ヤンも前回より厳しくなったディベート参加資格をクリアし、登壇10人に食い込む快挙を成した。

(※)訂正:本稿では当初、アンドリュー・ヤン氏を「米国史上初のアジア系大統領候補者」と記したが、ヤン氏は東アジア系としては1972年に出馬した日系のPatsy Matsu Takemoto Mink氏に次ぐ2人目。なお、南アジア系(インド系)には今回、出馬しているカマラ・ハリス氏(インド系とジャマイカ系のミックス)、2016年のボビー・ジンダル氏がいる。

 ディベート参加には規定の政治献金者数と世論調査での支持率を得なければならない。民主党からは総勢27人もの候補者が出た。6月、7月に行われた前2回は20人が条件をクリアし、ディベートに参加した。その前後に支持率や献金額が思うように上がらず、選挙戦から脱落した候補者は7人。現在も残っている20人の候補者のうち半数のみが12日のディベートに参加する。

 驚くべきは当初から高い支持率を得ていたジョー・バイデン、バーニー・サンダース、エリザベス・ウォーレンといった有名候補者に混じり、政治家ではなく、当初はまったく無名だったアンドリュー・ヤンが参加者の中に含まれていることだ。

 以下は今回のディベート出場資格を得た10人だ。選挙戦開始当時、マイノリティ候補大躍進の選挙と言われたが、この10人にも女性3人、アフリカン・アメリカン2人、インド系1人、ヒスパニック1人、アジア系1人、ユダヤ系1人、ゲイ1人が含まれている。

・ジョー・バイデン(元副大統領)
・バーニー・サンダース(上院議員)
・エリザベス・ウォーレン(上院議員)
・カマラ・ハリス(上院議員)
・ピート・ブートジェッジ(市長)
・アンドリュー・ヤン(起業家、社会奉仕事業家)
・コーリー・ブッカー(上院議員)
・エイミー・クロブシャー(上院議員)
・ベト・オルーク(元下院議員)
・フリアン・カストロ(元住宅省長官)

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アジア系「軽視」報道

 上記ラインナップが発表された後、アンドリュー・ヤンと選挙キャンペーン・チームはあることに気付いた。10人の候補者を報道するニュース番組が、タイトルは「10人」としながら画面からはヤンを抹消するのだ。

 ヤンの支持率は3%で10人中6位だが、ヤンの代わりに7位のベト・オルークが掲載されている。

 アンドリュー・ヤンの映像を使いながら、キャプションは「ジョン・ヤン」とされる事態も起こった。ジョン・ヤンはアジア系のテレビ・キャスターだ。ヤンと支持者たちはこれらの件にストレートな怒りをぶつけることを避け、ユーモアで対抗した。

 アンドリュー・ヤンとジョン・ヤンの違いは「ネクタイの有無」とするツイート

 同じことが何度も続いたため、ヤン支援者たちはメディアによる意図的なヤン排除だとして #mediablackout (メディア・ブラックアウト)のハッシュタグを使い始めたが、それでもヤン排除、もしくは誤報は続いた。

 一連の出来事は意図的であれ、無意識であれ、アジア系への軽視の表れと言える。もちろん人種差別だが、現時点では「ヘイト」ではなく、「どうでもいい」の差別だ。

 先にも書いたようにヤンは47年振りの東アジア系大統領候補だ。選挙戦の初期、アメリカ人の圧倒的多数はヤンを真剣に受け取らなかった。「アジア系が大統領など、なれるはずがない」という思い込みだ。ヤンの公約「すべての米国市民に月1,000ドルのベーシック・インカム」が実現不可能なバカバカしいものと捉えられたこともある。深夜トーク番組の司会者の中には、ヤンをゲストに迎えながら対談の態度が目に見えて不遜な者もいた。だが、ヤンがひとたび口を開けば非常に論理的であり、話術が達者で、かつ好人物であることが分かる。

 ヤンはコロンビア大学ロースクールを出たのち、1年間弁護士を務め、直後に慈善目的のIT企業を興している。2009年には地方の若者の就業率アップのためのベンチャー企業Venture for Americaを立ち上げ、現在に至っている。その功績が認められ、オバマ政権時代にホワイトハウスに招かれることもあった。IT、社会貢献、経済に明るく、まだ44歳と若いヤンは、近い将来のIT化による大量の失業者を見越してのベーシック・インカムだけでなく、マリファナ合法化、戦争放棄などを訴え、若くリベラルな層の支持を得た。

 ただし、アジア系からの支持は得られずにいる。ヤンの最重要公約であるベーシック・インカムが「働かずにもらえる金」として、勤労を良しとするアジア系には不評なのだ。逆に言えば、アジア系でありながらアジア系以外からの支持を得ているのである。

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