今月11日、第4次安倍再改造内閣が発足した。
そのなかで、東京オリンピック・パラリンピック担当大臣に選ばれて初入閣したのが橋本聖子氏だ(女性活躍担当大臣も兼任)。
前任の鈴木俊一氏は<新大臣は五輪招致の時からその経緯をご存じだし、元選手として、アスリートファーストについてもよく分かっていらっしゃる。何の心配もない。最後に真打ちが登場したと思っている>(2019年9月12日付「日刊スポーツ」より)と、橋本聖子氏の就任に太鼓判を押す。
確かに、橋本聖子氏は選手として7回もオリンピックに参加し、政治家転身後も選手団長を務めるなど、オリンピックに関する経験は豊富だ。
しかしその経歴とは裏腹に、過去に橋本氏が残したスキャンダルや失言を見る限り、「アスリートファースト」を意識した健全な運営がなされるかどうかは、甚だ疑問なのである。
高橋大輔選手へのキス強要事件
橋本氏のスキャンダルとして真っ先に挙げられるのが、ソチオリンピックの際に起きたフィギュアスケートの高橋大輔選手に対するキス強要事件だろう。
このスキャンダルは「週刊文春」(文藝春秋)2014年8月28日付で明らかになった。
当時、橋本氏は日本選手団の団長を務めていたが、閉会式が終わった後に行われた日本オリンピック委員会(JOC)の打ち上げの席で高橋選手に抱きつき、何度もキスを迫ったのだという。
このキス強要の模様は「週刊文春」にて写真付きで報じられ、セクハラ・パワハラの問題として大きく取り上げられた。
しかし、この後、なんとも後味の悪い展開となった。ハラスメントの加害者である橋本氏は書面で謝罪しただけだったのにも関わらず、高橋選手は会見の席で<セクハラ、パワハラがあったとは一切思わない><五輪に向かう緊張感の中で禁酒をしていたこともあり、打ち上げのところでお酒が入ってはしゃぎすぎた。大人と大人が、ちょっとハメを外しすぎたのかなと思います。すみませんでした>と謝罪。なぜか被害者が公衆の面前で頭を下げさせられる事態となったのだ。
当時の橋本氏は日本スケート連盟の会長で、JOC常任理事にして選手強化本部長も務めていた。この強大な権力の前に、いち選手であり、さらに、JOCからの支援を受ける立場であった高橋選手が抵抗することは難しい。自らの地位を利用した悪質なハラスメントであると言わざるを得ない。
池江璃花子選手に対する失言
橋本氏は今年に入ってからも問題発言で批判を浴びている。今年2月に白血病であることを公表し、療養生活を送っている水泳の池江璃花子選手に対する発言である。
池江選手は東京オリンピックでの活躍を期待されていた選手であっただけに、病気の告白は世間に大きな衝撃を与えたが、そんななか橋本氏は都内で行われたイベントの席上にてこんな発言をした。
<私はオリンピックの神様が池江璃花子の体を使って、オリンピック、パラリンピックというものをもっと大きな視点で考えなさい、と言ってきたのかなというふうに思いました。あらゆる問題が去年から頻繁に、スポーツ界には起きました。池江選手が素晴らしい発信をしてくれたことによって、スポーツ界全体がそんなことで悩んでいるべきではない、ガバナンス、コンプライアンスで悩んでいる場合じゃない、もっと前向きにしっかりやりなさい、ということの発信を、池江選手を使って、私たちに叱咤激励をしてくれているとさえ思いました>
この直前には、桜田義孝東京オリンピック・パラリンピック担当大臣(当時)が<日本が本当に期待している選手ですから、本当にがっかりしています><一人リードしてくれる選手がいると、みんなその人につられて全体が盛り上がりますからね。そういった盛り上がりが若干下火にならないか、心配しています>といった発言を行って批判を浴びていた。
それにしても橋本氏の発言は、あまりにも酷すぎる。病気に苦しむ若者に対して冷酷にも程があり、未来を期待される選手をメダルを獲る「駒」のひとつぐらいにしか思っていないのではないか。
加えて、オリンピックに関わる政府側の人間としてもっともあり得ないのは<ガバナンス、コンプライアンスで悩んでいる場合じゃない、もっと前向きにしっかりやりなさい、ということの発信を、池江選手を使って、私たちに叱咤激励をしてくれているとさえ思いました>の部分である。
熱中症対策、ボランティアの労働条件に関する問題、東京オリンピック期間中の交通規制の問題など、国や東京都の無策・強権的なごり推しの態度は、この間ずっと指摘され続けてきた。
それを正面から受け止め改善すべき立場であるにもかかわらず、橋本氏は<ガバナンス、コンプライアンスで悩んでいる場合じゃない>と言い放ったのである。それも、病気と戦う若者をダシに使って。
東京五輪はガバナンス・コンプライアンスを軽視しすぎた結果、到底看過できない諸問題が噴出している。五輪担当相にはどうか必死に悩み、知恵を絞って、合理的な判断にたどりついてもらいたい。