キンプリはジャニーズ「伝統芸」の最終地点。音楽評論家が見たジャニーズ/近田春夫インタビュー

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Johnny’s netより

 7月9日にジャニー喜多川氏が亡くなって2カ月近くが経った。9月4日には東京ドームでお別れの会も執り行われ、ジャニー喜多川氏の生前の功績を振り返る動きもメディアでは活発になっている。

 ジャニー喜多川氏がジャニーズ事務所、ひいては日本の音楽業界に残した功績とはいったいなんだったのか。そして、ジャニー喜多川氏がいなくなった後のジャニーズ事務所、日本のエンタメ業界はどうなっていくのか。

 1997年から「週刊文春」(文藝春秋)誌上にてJ-POP批評の連載「考えるヒット」を続け、同連載からジャニーズ関連楽曲だけをまとめた本『考えるヒット テーマはジャニーズ』(スモール出版)も出版しているミュージシャン・音楽評論家の近田春夫氏に、話を聞いた。

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【近田春夫】
1951年、東京生まれ。1975年、近田春夫&ハルヲフォンとしてデビュー。その後、数々のバンドを率い、1986年に結成したビブラストーンは日本におけるヒップホップの草分けとして知られている。他にも、タレントとしても活動するなど、その仕事は多岐にわたる。田原俊彦のファーストアルバムに参加したり、香取慎吾がハットリくん名義でリリースした「HATTORI3」のプロデュースを行うなど、ジャニーズ関連の仕事もある。

ジャニー喜多川氏が築いたジャニーズの伝統とは?

──近田さんから見て、プロデューサーとしてのジャニーさんの最も優れた側面というのはどんなところだと感じていらっしゃいますか?

近田春夫(以下、近田) あまり指摘されることではないかもしれないけれども、人間関係や見た目などの総合的な点で、「誰を集めてグループをつくればいいか」という人事的采配、そういったセンスに優れていたと思いますね。
特に、誰をリーダーにもってくるかということ。元SMAPの中居(正広)君にせよ、嵐の大野(智)君にせよ、いまになると、他のメンバーがリーダーになるのは考えられないんですよね。そういう、リーダーになっていく人の「味」というか「徳」みたいなものを見つけだす能力はすごいですよね。
あと、リーダーはリーダーなんだけど、彼らがグループのセンターだったりボーカルのメインにはならないじゃないですか、そのあたりの采配も見事だなって。

──それが影響しているのか、今のジャニーズのファンは、グループメンバーの仲が良さそう、というところにも大きな魅力を感じているように思います。

近田 長いグループの歴史のなかではいろいろな軋轢もあるんでしょうけど、少なくとも、売れているグループはみんな仲が良いと思いますよ。陰惨な話とかは聞いたことがない。
SMAPの分裂にしても、週刊誌は1を100ぐらいに膨らませて書くことが多いから。いずれは元に戻るような気がするよ。グループとしてわからなくても、少なくとも、人間としてはね。

──近田さんは20年以上にわたるJ-POP批評のなかでジャニーズの楽曲を継続的に取り上げてきましたが、音楽的に見てジャニーズの特徴はありますか?

近田 基本的にジャニーズの楽曲っていうのは日本語が聞き取りやすいんですよ。英語風の発音とかはしないし、ロックミュージシャンみたいに声をつくることもない。ほとんどがユニゾンだし、小学校で斉唱するようなまっすぐな歌い方をするから、歌詞の日本語が聞き取りやすいんですね。
例外はありますよ。たとえば、木村拓哉がちょっとひねった歌い方を取り入れたりはしている。僕としては、あれはブラザー・コーン(バブルガム・ブラザーズ)の発声に影響を受けたものだと思っているんだけれども(笑)。
その後、キムタクのつくった流れのなか、崩した発音で歌う人も何人かは出てくるんだけど、それでも、いまだに歌詞が聞き取りやすいようにまっすぐ歌うというのはジャニーズの基本だと思います。これだけ長くその姿勢が貫かれているのはすごいと思いますね。

「伝統」と「革新」の綱引き

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撮影:細谷聡

──「ジャニーズらしさ」みたいなものにこだわりつつも、時代に合わせてアップデートしていく部分もあるわけですよね。個人的には、アイドル本人が作詞作曲に関与したり、プロデュースを手がけたりといった部分は、そういった時代の変化に合わせた部分かなと思うのですが。

近田 昔、『TK MUSIC CLAMP』(フジテレビ系)っていう中居君が司会を務める音楽番組(編集部注:中居が同番組のMCを務めたのは1996年5月から1997年6月まで)で中居君と共演していたことがあるんだけど、そのときに「次にリリースする曲はどんな感じになるの?」なんて聞いたことがあるの。そしたら、中居君がものすごいビックリした顔をしたのを覚えていて。
僕が質問した意味がそもそも理解できず、「レコーディングする前の曲のことを歌手が知るわけがない」って感じで。あれは自分も衝撃的だったよ(笑)。でも、それから大人になって、中居君も舞祭組のプロデュースをしたり、作詞作曲に関わったりするようになるんだから、時代も変わりましたよね。

──ENDRECHERI名義の堂本剛の作品は、セルフプロデュースの究極系ですよね。

近田 彼はものすごいことになっているよね。俺はあそこまで行くとついていけなくて、個人的には光一君のソロの方が好きなんだけど(笑)。

──ENDRECHERIは決して商業的とはいえない趣味性の高い音楽をやり続け、いまではアイドルに興味がない、本物のブラックミュージック好きのリスナーにまで受け入れられ始めているという。

近田 でも、そういう評価を受けたのは、意固地になってやっているのではなく、彼が本当に音楽が好きでやっているからなんだろうね。
そして、そういう特異な人が事務所のなかにいるということの意味を、会社として見据えているから、彼の活動が認められているんだと思いますね。

──なるほど、ジャニーズ事務所も会社として意味を見据えている?

近田 剛君がそうというわけではないけれど、いまのジャニーズには昔だったら会社から追い出されていたであろう自意識の強い人も、追い出されずに残っているじゃない?
自分たちのイズムを継承しつつも、時代が変わっていくなかで、その変化を騙し騙し受け入れていく。自らのイズムを確固としたものにするのではなく、敢えてちょっと緩くしておく。それは結果的にジャニーズが長く続いたひとつの要因な気がしますよね。
そして面白いのは、これが戦略なのか、それともたまたまこうなってしまったのかの見分けがつかないところ。戦略的なんだと思われるようならつまらないじゃない?

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ENDRECHERI『NARALIEN』(ジェイ・ストーム)

──確かにそうですね。

近田 最近改めて気づいたんだけど、男性グループって女性アイドルグループ以上に、所属事務所、とりわけその会社のトップのカラーが反映されるんですよね。
たとえば、LDHならHIROを中心とした「任侠」の世界にも似た「一家」的な雰囲気がある。これはジャニーズにはない部分でしょ。ジャニーズの所属タレントはみんなジャニーさんのことが大好きだと思うけど、「一家」っていう雰囲気じゃない。
あと、DA PUMPがもっているあの妙な明るさっていうのも、ライジングプロダクション・平哲夫社長の色が出ているような気がする。

ジャニーズ事務所の「これから」

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Johnny’s netより

──そうなると、ジャニーさんがいなくなった後は必然的に大きく変わっていかざるを得ないでしょうね。

近田 そう。これからのジャニーズ事務所を率いるのが滝沢秀明になるのか藤島ジュリー景子になるのかによって、今後の方向性が変わっていくような気がしますよね。
ジャニーさんから受け継いでいくもの、時代に合わせて変わっていくもの、それがどうなっていくのかは興味があります。
特に、タッキーは保守的な側面がかなり強いタイプだろうから、これまではうまくグループの一員として迎え入れられていたはぐれ者たち、癖の強い人たちが、今後どうなっていくかですよね。

──でも、SMAP、嵐、関ジャニ∞と、主要なタレントの退所や活動休止が相次ぐジャニーズ事務所の未来について話をすると、どうしても暗くなってしまいます。

近田 ただそれはジャニーズだけの問題ではないと思いますよ。アイドル、もっといえば音楽業界自体が長いフェイドアウトの期間に入っていると思うのよ。
ジャニーズにせよAKB48グループ・坂道シリーズにせよ、これからも新しい子は出てくるし、それなりに人気も出るんだろうけど、SMAP、TOKIO、関ジャニ∞みたいな人たちに比べたら、どうしても小粒になってしまう。

──確かに、いまの時代はますます国民的な人気を獲得するタレント自体が生まれにくくなってきたように感じます。

近田 でも、それはタレントが悪いのではなく構造の問題。だって、CDはもう売れないし、そもそも、若い子たちはテレビを見ないでYouTubeを見ている。
特に、ジャニーズのアイドルというのは、ある意味でテレビと共に歩み、テレビと共に大きくなってきた側面があるから、テレビの衰退がタレントの衰退につながっていくのは自然なことだともいえるかもしれない。

King & Prince(キンプリ)はジャニーズの伝統を受け継いでいる

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King & Prince『シンデレラガール』(Johnnys’ Universe)

──となると、今後はどうなってしまうのでしょうか?

近田 でも、ジャニーズは歌舞伎や落語や宝塚と同じひとつの「伝統芸」として、今後もずっと残っていくと思いますよ。たとえば、King & Princeとか、正統派のジャニーズを受け継いでいますよね。

──キンプリは音楽も昔ながらのジャニーズの良さが詰め込まれているように感じます。

近田 「シンデレラガール」なんかは、ユニゾンで斉唱するかたちなんだけど、ぴったり揃っているわけではなくうまい具合にばらけていて、それがどこか人間味を感じさせる。フォーリーブス以降ずっと築き上げてきたジャニーズの伝統が継承されている楽曲といえると思いますね。

──なるほど。

近田 ああいうオーセンティックなグループがちゃんと新しい若いファン層を獲得しているのだとすれば、今後もそういうジャニーズの世界に憧れて入ってくる男の子もいなくなることはないだろうし、続いていくと思いますね。

──このタイミングでキンプリのように伝統的なグループがブレイクしたというのも、運命めいたものを感じます。

近田 ジャニーさんがこんなに急にお亡くなりになるなんて、おそらく誰も想定していなかったと思うんです。だから、「どうしよう、どうしよう」ってやっているうちに1年ぐらいすぐに経ってしまう気がするんだ。そのなかでジャニーズと伝統と革新をめぐって試行錯誤がなされるんだろうけど、それがどうなっていくか、興味深く見ていきたいと思っていますね。

(取材・構成:編集部)

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近田春夫『考えるヒット テーマはジャニーズ』(スモール出版)

1997年1月から2018年まで、「考えるヒット」のなかからジャニーズ関連楽曲をセレクト。SMAP「shake」からKing & Prince「シンデレラガール」まで、同書を読めば、ここ20年のジャニーズ楽曲がおさらいできる。

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