
「Getty Images」より
9月15日の日曜日、ニューヨークの黒人コミュニティ、ハーレムで第50回アフリカン・アメリカン・デイ・パレードが開催された。毎年9月半ばに行われるハーレム伝統の盛大なパレードだ。
抜けるような青空の下、人々のカラフルな衣装、アップテンポな音楽、弾けるダンスが交錯する。様々な黒人団体が行進する中、一番の見ものはマーチング・バンドだ。身体に響くドラムのリズム、トランペットの高らかなサウンド、そしてスパンコールの衣装を身にまとった男女チアリーダーのアクロバティックなダンス!

パレードでは「汎アフリカン・フラッグ」が振られる。赤は血、黒は人、緑はアフリカの豊かな自然を表す。
パレードは、そのすべてがアフリカン・アメリカンの歴史とカルチャーに基づいている。パレードはアダム・クレイトン・パウエルJr. 大通りを約2キロ練り歩く。この大通りはマンハッタンのハーレム以外のエリアでは「7番街」と呼ばれており、ハーレムでのみ、この名となっている。1945年にハーレムの黒人教会の牧師からニューヨーク州初の黒人下院議員となったパウエルの名を冠しているのだ。1945年といえば、一切の人種差別を禁じる公民権法がようやく制定された1964年のはるか以前であり、パウエルの当選がどれほどの偉業であったかが分かる。大通りにはパウエルの銅像もあり、パレードはその前を進む。
黒人消防士団体
パレードに参加するのは黒人警官団体、黒人消防士団体、黒人清掃局職員団体、黒人労組メンバー、黒人フリーメーソン、ブラックミュージック専門のラジオ局、HBCU(歴史的黒人大学)や高校生のマーチング・バンド、地元の子供ダンス・カンパニー、黒人女性大学友愛会メンバー、黒人政治家などなど。
日本では耳慣れないこれらの団体について、多少の説明が必要だろう。警察や消防も含め、多くの公務職に人種別に結成されたグループがある。人種的マイノリティとして雇用から、日常の公務、出世に至るまで長年にわたって多くの差別を強いられてきたマイノリティの相互扶助と事態改善が団体存在の理由だ。
DJブースを積んだフロートと共に歩く黒人清掃局員のグループには、観衆から「サンキュー!」の声が飛んだ。パレード用にグラフィティが描かれたゴミ収集トラックには、軍服のようなユニフォームを着た職員たちが敬礼を行う。市民のためにもっとも地道な仕事を日々続けている職員たちへの最大限の表敬だ。

以前に比べると格段に増えた黒人消防士
今年、特に感銘を受けたのはFDNY(ニューヨーク市消防局)の行進だった。かつて消防士の9割以上が白人であり、黒人消防士は全体のわずか3パーセントだった。市内の白人の人口比率は3割少々に過ぎず、何らかの雇用操作がなされない限り、あり得ない現象だった。2002年、黒人消防士団体が原告となってこの不公平な状況に対して訴訟を起こし、約10年かけて勝訴した。FDNYは裁判所命令によってマイノリティ雇用促進キャンペーンと、過去に消防士試験を受けて不当に落とされたマイノリティへの賠償金の支払いを命じられたのだった。
FDNYは今も多々の問題を抱えているとは言え、パレードする黒人消防士の数は格段に増えている。マイノリティ側の根気強い努力が実ったのだ。
HBCU(歴史的黒人大学)
今から150年ほど前に奴隷制は終わり、アフリカン・アメリカンは自由人となった。しかし、当時の白人社会は黒人を受け入れる気は毛頭なく、あらゆる社会的場面から黒人を排斥し続けた。教育もその一つだ。当時、大学は黒人学生を入学させず、黒人たちはやむなく自らの大学を作った。資金も場所もなく、ビルの地下室でひっそりと始まったものもある。それらが徐々に規模を拡張し、内容も向上、いつしか既存の大学と肩を並べるレベルとなった。
そうした大学はHBCU -Historically Black Colleges and Universities-(歴史的黒人大学)と呼ばれ、現在も南部諸州を中心に約100校ある。中でもモアハウス大学、ハワード大学を含む数校は「ブラック・アイヴィーリーグ」と呼ばれる名門だ。著名な卒業生には先日他界したピューリッツアー賞受賞の小説家トニ・モリソン(ハワード大学)、映画監督スパイク・リー(モアハウス大学)、ゴスペル歌手ヨランダ・アダムス(テキサス・サザン大学)、ラッパーの2チェインズ(アラバマ州立大学)、俳優サミュエル・L・ジャクソン(モアハウス大学)、元トーク番組ホストにしてメディアの大立者オプラ・ウィンフリー(テネシー州立大学)、『ブラックパンサー』で知られる俳優チャドウィック・ボズマン(ハワード大学)など枚挙にいとまがない。

ヴァージニア州立大学のトロージャン・エクスプロージョン・マーチング・バンド
HBCUには今では黒人以外の学生も入学するが、おしなべて黒人学生の比率が高い。黒人の歴史や文化にまつわる学科が豊富にあり、黒人学生の多さから学内には濃厚な黒人文化が伝統として引き継がれている。マーチング・バンドもHBCUの重要な伝統だ。バンドのドラムをフィーチャーしたドラムラインはタイトルもそのまま『Drumline』という映画にもなっている。
アフリカン・アメリカン・デイ・パレードも毎年、他州のHBCUからマーチング・バンドとチアリーダーを招き、パレードの目玉としている。今年はヴァージニア州立大学のトロージャン・エクスプロージョン・マーチング・バンドと、デラウェア州立大学のアプローチング・ストーム・マーチング・バンドが見事なリズムとダンスで沿道の観客を大いに沸かせ、拍手喝采を浴びた。
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