プライドと歓喜!黒人差別の歴史を乗り越えて〜NYハーレムのアフリカン・アメリカン・デイ・パレード

文=堂本かおる
【この記事のキーワード】

政治の場

 多くの見物人が集まり、今ではメディアも報じるアフリカン・アメリカン・デイ・パレードは政治家にとっても有権者に直接アピールできる貴重な場だ。毎年、ニューヨーク市長、ニューヨーク州知事、ハーレムを地盤とする議員が多数参加し、観衆ににこやかなに手を振る。アメリカでは毎年11月初頭に地方選があるため、9月に開催されるパレードへの参加は選挙を控えている政治家には特に重要となる。

プライドと歓喜!黒人差別の歴史を乗り越えて〜NYハーレムのアフリカン・アメリカン・デイ・パレードの画像5

1990年にニューヨーク初の黒人市長となったディンキンズ氏(中央)と、長らく下院議員を務めたランゲル氏(左)

 今年、選挙を控えていないにもかかわらず参加した2人のアフリカン・アメリカンの政治家は、近い将来に国政に打って出るのではないかと思われる。特にニューヨーク州地方検事のレティシア・ジェームズ(ハワード大学ロースクール卒)は州内の問題だけでなく、トランプ政権の不当な移民政策のブロック訴訟など精力的な活動を続けている。いつの日か大統領選に出る可能性も十分にあるだろう。

 ニューヨーク市長の参加は恒例だが、今年、ビル・デブラジオ市長は欠席し、妻で黒人のシャーレイン・マクレイとミックスの息子ダンテのみがパレードした。市長は2020大統領選に立候補しており、そちらの活動を優先したのではないかと思われる。そもそもニューヨーク市民に愛されているとは決して言えない現市長がアフリカン・アメリカン・デイ・パレードを訪れなかったのは、大きな政治的過ちではないだろうか。

私たちの未来のために

 今年のパレードのテーマは「誠実さと透明性=良い政府」という、一見わかりにくいものだった。主催者によると、ハーレムの再開発が進み、地元住民が置き去りにされている事態を懸念してのこと。

 黒人街となって100年が経つハーレムだが、20年ほど前に再開発が始まった。たくさんあった廃墟が取り壊されて新築マンションとなり、外部からの中流層が流入した。古い建物の家賃も便乗で値上げされ、ハーレムを出て行かざるを得ない地元住人が後を立たない。メインの商店街も古くからあった個人商店が立ち退きを迫られ、全米チェーンが軒を連ねるようになった。

プライドと歓喜!黒人差別の歴史を乗り越えて〜NYハーレムのアフリカン・アメリカン・デイ・パレードの画像6

「私たちの未来のために」と書かれたフロート

 こうしたハーレムの現状を物語る小さな出来事があった。

 先に書いた公務員の黒人職員団体のうち、刑務官のマーチがあった際、筆者の左隣で見物していた女性が「もう、あなたたち(刑務所の意)は十分!」「(ハーレムには)学校が不足しているのに!」と声を上げ始めた。刑務官に続いて保護観察官のグループが通り過ぎた際にも女性は同じセリフを繰り返した。

 アフリカン・アメリカンの、特に男性は刑務所収看率が高い。これも先に書いた消防局のように人種による雇用差別があるだけでなく、そもそも就職に必要な学歴が得られないことも大きな理由だ。生活環境や教育機関の欠如により学歴が得られない→就職できない→生活資金を得るために犯罪に走る→司法にも人種差別が存在する→刑務所の収監者が増える→大量の刑務官が必要というサイクルがある。

 一般的にもたれるイメージと異なり、実は日本以上に厳しい学歴社会のアメリカ。黒人社会が抱える負のサイクルを終わらせる最も重要なキーは教育だ。だが、ハーレムの公立学校の質は低い。裕福な新住人たちはハーレムに居を構えながら、自分の子供はダウンタウンの学校に通わせる。パレード見物の女性が訴えたのはこれだ。

 だが、この日は皆が1年間楽しみにしていた楽しいパレードの日。刑務官や保護観察官にもハレの日を楽しむ権利がある。筆者の右隣にいた女性が反論した。「最初のほうで教育者もパレードしたわよ」。すると最初の女性は「なぜ(一般の公立学校の)教師はパレードしないのよ?」。右隣の女性は「あなたが教師のパレードを見たいなら、あなたが教育庁に電話してそう言わないと」。

プライドと歓喜!黒人差別の歴史を乗り越えて〜NYハーレムのアフリカン・アメリカン・デイ・パレードの画像7

大卒黒人女性友愛会ソロリティのメンバー

 2人は過度な言い争いにエスカレートさせることなく、適当なところで収め、それぞれパレード見物に戻った。教員数で全米一の規模を持つニューヨーク市の教員組合がパレードに参加しない理由は筆者には不明だが、高等教育を受けているHBCUのマーチング・バンドが招聘され、ソロリティと呼ばれる大卒黒人女性の友愛会が参加するのは、これが理由だ。努力して高等教育を受けたアフリカン・アメリカンをロールモデルとし、当人たちにはそのプライドがある。ソロリティの女性たちが着ているTシャツに「Black Excellence(ブラックの優秀さ)」と書かれているのは、まさにその証だ。

 とはいえ、今年もパレードは平和に楽しく行われた。秋の一日、ハーレムは笑顔、拍手、音楽、ダンスで満ちあふれた。ハーレムの魅力が1日に凝縮される日、それがアフリカン・アメリカン・デイ・パレードなのだ。
(堂本かおる)

■記事のご意見・ご感想はこちらまでお寄せください。

1 2

「プライドと歓喜!黒人差別の歴史を乗り越えて〜NYハーレムのアフリカン・アメリカン・デイ・パレード」のページです。などの最新ニュースは現代を思案するWezzy(ウェジー)で。