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「レンタルなんもしない人」の妻子別居に批判炎上、何もしない夫は「クズ」なのか?

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『ザ・ノンフィクション』公式サイトより

 15日放送の『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)は、「レンタルなんもしない人」に密着した「なんもしないボクを貸し出します ~『レンタルなんもしない人』の夏~」を放送した。

 「レンタルなんもしない人」こと森本祥司さん(35歳)は、約1年前、文字通り“何もしない”活動を開始。森本さんは長身ですらっと細身、清潔感があり、気取った印象やガツガツした怖さは見えない。そのうえ「なんもしない」ので、「何かされたくない」人にとって非常に安心感のあるサービスといえるだろう。

 「レンタルなんもしない人」の活動はTwitterで評判になり、森本さんは今年、いくつもの書籍もリリース。日々、「レンタルさん」として依頼をこなしている。『ザ・ノンフィクション』の放送後には、フォロワー数は24万人を突破した。

<なんもしない人(ぼく)を貸し出します。常時受付中です。1万円と、国分寺駅からの交通費と、飲食代等の諸経費だけ(かかれば)お支払いいただきます。お問い合わせはDMでもなんでも。飲み食いと、ごくかんたんなうけこたえ以外、なんもできかねます。>

 依頼者とのやり取りは、全てTwitterのダイレクトメール。以前は交通費などの経費以外にギャランティは発生しなかったが、『ザ・ノンフィクション』の放送翌日から1万円という価格設定に変更された。

「妻と子どもを養わないのは無責任!」という批判

 森本さんが<生活費や養育費をもっと家庭に入れろという声が多いので>と記したように、『ザ・ノンフィクション』放送中から、彼への批判的な意見がTwitter上には溢れ炎上した。森本さんが「夫で父“なのに”なにもしない」からだ。

 結婚10年目の森本さんは妻と幼い子どもと3人で暮らす。「レンタルなんもしない人」が話題になったことによって3冊の本を出版しているものの、「レンタルなんもしない人」の活動自体は無料で、依頼者に諸経費しか貰っていない森本さんに、生活に十分な固定した収入はない。家族の生活は、この活動をする以前に貯めていた貯金と、イラストレーターをしている妻の収入で成り立っているという。

 番組スタッフが森本さん宅を訪ねた際、妻は森本さんの活動について<なんとかなるだろう。なんとかなってるし><いろいろやってみた結果、これがやっとハマったみたいな感じ>と受け入れているように見えた。

 ところが、密着取材期間中に、森本さんの生活に変化が起きた。妻子と別居することになったのだ。別居の理由は<僕がもうちょっと自由にやりたい>から。家事・育児を巡る喧嘩がもとで、森本さんが一方的に家を出たようだった。

<嫌なことを避けて逃げて生きていたらどうなるかっていう、これも実験の一つかもしれない>
<(妻子と)暮らすこと自体はすごく楽しかったんですけども、楽しさを制約に感じることが上回ってしまったので、一回その制約を外してみたいなという気持ち>
<スティーブ・ジョブズとかあまり育児参加をしていなかったって聞きますし、もしもスティーブ・ジョブズが育児参加を頑張っていてiPhoneが生まれなかったら、僕は残念なんですよ。新しい価値を生み出そうとしている人がそこよりも家事とか育児を優先してしまっているとしたら、残念な世の中だと思いますし>
<世間で言われていることの圧力を常に感じている。その圧力を今回も息苦しく感じたから家を出たということ>

 これを妻子に対する無責任と捉える人は少なくなかったようで、ネット上には「それなら子ども作るべきじゃなかった」「ちゃんと働いて妻子を養うべき」「やっぱり奥さんは我慢していたんだ」といった批判の声が上がり、彼を「クズ」扱いする罵詈雑言も躍った。

 だが、それは森本さんの人生で、森本さん家族の問題だ。「男が働いて妻子を養うべき」という一般常識が存在することは確かだが、それに従うかどうかは誰もが自分たちで決めていい。

「レンタルなんもしない人」をモデルにした漫画『レンタルなんもしない人』(「モーニング」連載、原案:レンタルなんもしない人/漫画:プクプク/講談社)で、こんなシーンがある。

 テレビ番組の司会が、「35歳 お子さんも小さくて…一番働かなくてはいけないときなのでは?」と尋ねる。森本さんはこう答える。

「そう言われて当然だと僕も思います…」
「働いてお金を受け取らないと 生きてはいけないとされている世の中ですから」
「でもそれだけだとしたら しんどいなって 僕は思うんです」
「人は果たしてなにもしないで生きていけるのか? その実験を僕は自らしているんです」

 また、無料で活動していることについても、「社会や人のために善意でやってるわけではないので ボランティアではないですよ」というセリフも。

 もっとも、これはあくまで漫画のセリフで、そもそも森本さんはこの漫画について「美化されているように感じる」としているのだが、「働いてお金を受け取らないと生きてはいけないとされている世の中」が「しんどい」ことは確かだろう。「しんどい」から、それをしない人を罵倒してしまうのではないだろうか?

 これは「働く」ことに限らない。家事や育児もそうだろう。もちろんネグレクトや虐待はなにがあっても決して肯定できないことだが、一方で、誰に見られても恥ずかしくないような家事育児をしなければならないような世の中も、しんどい。

 そしてスティーブ・ジョブズのくだりもまた、誰しも当てはまることだ。特に、新しい価値を生み出そうとしていたのに、そこよりも家事や育児を優先せざるを得ない状況に陥って諦めた女性がこれまで、どれだけ大勢いただろうか。

 ただ、森本さんは放送後にTwitterで<ジョブズのくだりについては完全に”民放テレビ局による編集芸”をやられた気がする。信頼していいのはNHKだけかもしれない>とつぶやいている。森本さんは新しい価値を生み出したくてこの活動をしているわけではなく、そもそも「なんもしたくない」だけだったのかもしれない。

何かしてくれる人は気を遣うし、何かしてくる人は怖い

 森本さんは、Twitter(レンタルなんもしない人アカウント)で<妻と別居することになりこちら側は住まいを失ったため、宿泊をともなう依頼も積極的に引き受けられる状況となりました>とツイート。疑問や批判の声が相次ぐ一方で、「うちに泊まって下さい」という依頼も多く寄せられた。

 宿泊込みで森本さんに依頼した女性は、最近彼氏と噛み合わず、喧嘩でヒステリックになることが多い。しかし彼氏が来ない部屋で、自分の寂しさを埋めたくて、誰か「人」にいてほしかったという。

 友達など頼める人がいないわけではないが、友達の場合はもてなしや遊びを考えなければならない。その点、森本さんの「端正な顔立ち」や「人柄の良さ」、そして「なんもしない人」であることが、女性には心地よかったようだ。

 他の依頼者たちにもいえることだが、一定の人間関係にある相手には気遣いや配慮を持って接さなければならないし、今後も関係を継続させたいのであれば、相手が困ることや引いてしまうであろうことは頼めない。

 一定の人間関係があれば相手が「何かしてくれる」としても気を遣うし、逆に自分が「何かしてあげなければ」と気を遣うこともある。見ず知らずの相手は、「何かしてくる」のではないかと、怖い。だけど誰かにいてほしい。人間にはそういう欲求が確かにある。

 ただそこにいて自分を受け入れてほしいという欲求、そのニーズに「レンタルなんもしない人」は応えているのだろう。そして森本さんもまた「レンタルなんもしない人」の活動を通じて、何もしない自分を認めてもらえる。

 こういう目新しい活動は、「いつまで続けられるのか?」と揶揄されがちだ。けれどそもそも、活動を持続可能なものにすることが目的ではないだろうし、なんなら目標もなさそうだ。目標や夢、大義名分がなくても、何かしていても、何もしなくてもいいのだから。

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