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リクナビ「内定辞退率」データ提供問題、渡された「情報」と「データ」は全く違う

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「Getty Images」より

 就職活動において、雇用側と学生側のパワーバランスは複雑だ。私が就活したのは40年近く前のことだが、今思えばシンプルでのどかな時代だった。

 当時はFAXもインターネットもスマホもないから、自宅に送られてくる電話帳十何冊分の企業案内書のページをめくりながら企業を研究したものだ。気になる会社があれば、電話やハガキを送って会社案内が送られてくるのを自宅で待っているという活動だった。もちろんかける電話もかかってくる電話も玄関に置かれている固定電話だ。たまに同期が大学のOBからが「後輩を連れてこい!」とでも言われたのだろう、頭数合わせに同期とともに喫茶店に行ったこともあるが成就するわけもない。

 今から考えると本当に悠長なものだった。時間があれば大学の就職課に貼ってある求人票を見て、条件や連絡先をメモって帰る。テレホンカードもない時代だから、10円玉を山積みにして公衆電話を使うのも大変なので、たいていは自宅に帰ってからの作業だ。

 そんな感じで会社を見つけ、電話で会社説明会を知り、それに出席の後、願書を提出し、入社面談を経て、吉本興業の内定を得た。就活時期は大学4年生の10月、11月入社試験開始というルールがある程度守られていた。4年生の夏休みは映画を観たりしながら、のんびりしていたものだ。

採用担当者の頭を悩ませる内定辞退率 

 ところが時は経ち、就活の時期は前倒しされ、学生も企業も、間に入る業者もビッグデータにまみれながら進められるようになった。

 採用担当者は当然、内定者が実際に入社してくれるという歩留まりを維持するのに相当苦労している。学生は学生で、より興味のある企業への就職を望み、内定をもらったらそれをいくつも抱えながら活動を続けている。

 今の時代、採用担当者は内定を出しても、学生はそれをなかなか承諾してくれない。また、一度承諾してもらえたのに、後に辞退されたということは多くの採用担当者が経験している。

 その原因の解明と内定辞退率の算出は、年間を通して採用担当者を悩ませるものとなっている。そこで欲しい物が「虎の巻」である。どの学生が内定を蹴るのか蹴らないのかを知りたいのである。そういう目的で「内定辞退率」が流通したのだ。

採用担当者を震え上がらせる67.8%の内定辞退率

 リクルートキャリアの「就職みらい研究所」の調査によれば、2019年3月度(卒業時点)での内定辞退率は67.8%と、実に約7割が辞退している状況だそうだ。この数字は全体の平均なので、企業のブランド力の高低によって辞退率も大きく変わりそうだ。

 人材の採用はある意味当たり外れのある「博打」ともいえるのだが、採用時の目標人数をあまりブレさせたくないというのが採用担当者や役員の思いだ。

 改めて「内定辞退率」を説明すると、特定の期間において内定辞退者の人数を、内定者の総数で割って導かれる割合だ。上記の67.8%という数字は採用担当者が震え上がるに十分なものだ。

 企業としては、どちらの立場が上かではなく、対等な立場でお見合いを進め、マッチングを成功させねばならない。そこで表れたのが、就職情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリアが提供していた「リクナビDMPフォロー」の「内定辞退率」データである。

 そもそもこの研究所は、研究・開発が目的で活動をしていたのだが、誰がなぜどう急いだのか、いきなり学生のデータが商品化され販売に至ったのが今回の問題の始まりだ。

 「薬も過ぎれば毒となる」と言うのか、そのデータを活用したかどうか、もう誰の目にも見えない。すべては闇の中である。

学生に不安を抱かせる個人情報の売買

 リクルートキャリアは「個人情報」そのものを扱っているにもかかわらず、「内定辞退率」データをクライアント(採用企業)に提供していた。このことを公表したのは8月1日だが、そもそも学生の個人データの扱いや同意の取得方法などが適切だったかが問われ大問題となった。

 結果、8月5日には7,983名の学生からプライバシーポリシー同意取得の不備、「リクナビDMPフォロー」の8月4日付け廃止発表。「リクナビDMPフォロー」が研究・開発で取り扱うはずのデータを商品化し、市場投入を急ぎ、顧客企業の反応だけを見ながら進めたため、社内のチェック体制を怠ったことが要因とされている。

 厚生労働省は9月6日に、サイトを運営するリクルートキャリアに対し、職業安定法に基づき是正を求める行政指導を実施。内定辞退率のデータを企業に販売する事業は、本人の同意の有無にかかわらず個人情報保護を義務付ける同法に違反すると判断された。

 根本匠厚労相(当時)は、就職活動をする学生に不安を引き起こしたと指摘し、「就職活動を萎縮させるなど就職活動に不利に働く恐れの高い事業は今後行うべきではない」と述べた。

言い訳がましかった謝罪会見

 8月26日19時半過ぎ、リクルートキャリアの小林大三社長が記者会見を開き、「学生への配慮と、社内のガバナンス(企業統治)が不足していた」と不備を認め、「学生や大学、企業関係者の皆さまにご心配、ご迷惑をおかけしたことを深くおわびする」と謝罪した。

 言い訳とも聞こえたが、「売り手市場に伴い、新卒採用の現場で、企業の採用担当者の負荷が加速度的に増していることを考慮した。多くの学生が選考プロセスから抜け、内定辞退者が続出する中で、健全なコミュニケーション(ができる状況)を作りたかった」と語った。

 2時間を超える会見の模様はすべて見たが、何度も「学生視点」を持たなかったことの反省を口にした。これは裏を返せば、いかに「学生視点」を欠如させ金儲けに走ったかということである。

 会見で報道陣から「実際は、顧客企業が分析結果を合否判定に使っていたのではないか」との質問が出たが、浅野和之執行役員は「使われていることはない。あくまで、内定を辞退する確率が高い人を(採用担当者が)フォローするためのサービスだ」と否定した。

「データ」と「情報」の履き違い

 今回、リクルートキャリアが企業に譲った「データ」が問題となっているが、私にとっては「データ」だけではなく「情報」も取られ、それが本人の意志も確認されず商品化されたことに怖さを感じた。

 2019年2月まで、データの扱いはブラウザ情報の照合・分析とスコアの算出にとどまっており、スコアと氏名の紐付けは顧客企業側で行っていたという。ただ、この分析手法では応募者が異なる端末やブラウザを使い分けている場合に動向を追い切れないことから、仕組みを変更するとした。

 それで3月からは、

(1)顧客企業から、応募者の個人情報(大学・学部・氏名)を提供してもらう。

(2)リクナビが保有する情報と照合し、個人を特定する。

(3)行動データを過去のリクナビユーザーのものと照合し、内定辞退率のスコアを算出する。

 という仕様に切り替えた。

 少し長くなるが、「データ」と「情報」の違いの話をしよう。

 この2つのワードじゃ同じように思えるが、大きな違いがある。「データ」とは非属人的なものであり、対する「情報」は属人的なものであるのだ。

 たとえば、<「なんばグランド花月」の「南」「50m」のところには「千とせ」という「うどん屋」がある。>という一文があるとしよう。これは非属人的な「データ」の集まりであるといえる。「データ」というのは、人に属さないので変わってはならない。変わったものはもう正しいデータではなくなる。または「データ」には改ざんという言葉が当てはめられ、「情報の改ざん」と言う言葉はない。

 上の文章でいうと、「南」が「北」に変わっても、そこに「千とせ」は存在しないだろうし、「うどん屋」が「フランス料理店」に変わったとしたら、そこはあの美味いきつねうどんを注文しても出してくれないだろう。

 しかし、これが「情報」になった途端、「千とせの親子丼はまずい!」と言おうが、「千とせの親子丼は美味い!」と言おうが、どちらも正しいのである。個人の思いはそれぞれ勝手でいいのだ。真反対のことであってもいいのが属人的な「情報」であるといえる。

 だから、今回の身勝手な「データの商品化」は、学生の名前や年齢、住所、電話番号、大学名や学部、就職希望先の業種や社名をキーパンチャーの如くデータを打ち込んだようなものではなく、個々人の「思い」や「夢」「感情」「希望」「欲求」といった「個人情報」が、本人の許諾もないまま渡されていたことに問題があったといえる。

謝罪会見で学生に「反省」は伝わったのだろうか? 

 企業は大学名や学歴、成績などだけではなく、その人物はどの業種や企業にどのくらい思い入れがあるのか、そんな行動や活動の中身まで知りたいというのが本音なのだ。

 だからとは言わないが、大人の事情からか、「その商品を買いました」と早々に名乗りを上げたのは、トヨタやホンダ、三菱電機、大和総研ホールディングス、YKK 、京セラ、りそなHD、NTTグループ、アフラック、レオパレスなどで、リクルートキャリアは企業側から「業務委託」を受けていたという。

 また自らの親でもあるリクルートホールディングスも購入していたというではないか。皆さん、御都合よく「買いました。でも使っていませんからご安心を!」的な対応で終わりにしようというムードだった。

 企業と個人との関係でいえば、終身雇用も崩れ、働き方は自分で考えればいいわけだが、こういうアンフェアな関係はよろしくない。

 ビッグデータの間違った使い方というか、本人の知らないうちに「データ」と「情報」が相手に渡っていたら、それはまずいに決まっている。個人情報保護委員会から是正勧告を受けて社長自ら会見に臨んだが、学生さんに「反省」は伝わったのだろうか? 誰もどの企業も口にしなかったが、少なくともその「データ」と「情報」を活用することで学生の選別ができる商品が販売されていたことは事実なのだ。

 会見では、この10月をめどに、リクナビ事業にプライバシー責任者を設置するほか、2020年1月をめどに新卒事業の経営体制を変更するなどし、再発を防ぐ方針だと話していた。また「社内を横断的に……」という言葉もよく出てきた。

 ということは、これまた「縦割りだった」という体質の説明である。また小林社長は、「当社の信頼は失墜しており、事業の存続そのものが問われるレベルだ」と現状を認識しており、「ゼロからの再出発として、抜本的な見直しを行っていく」「一歩一歩、信頼回復に向けて動いていく」と語った。

 具体的な再発防止策については、

(1)すべての商品・サービスの開発工程を標準化し、学生の視点を考慮したチェック体制をフローに盛り込む

(2)プライバシーポリシーの改定手順を明文化する

(3)10月をめどに、リクナビが個人情報を活用する際に妥当性を検証する「プライバシー責任者」を設置する

(4)2020年4月をめどにリクルートグループ各社の法務組織を統合し、法務機能を強化する。

 とした。

 さて、私の提唱する「よい謝罪」とは、「誰が、誰に、何を謝るのか」が最重要で、それに加えるのを忘れてはならないのが、「再発防止策」である。リクルートグループは健全化するのか、皆さんでよく見ておこう。そして、また一歩進んだサービスの提供に期待したい。

 ところで経団連の中西会長がこの9月3日の記者会見で、「就活ルール廃止」の意向を発表した。2021年春入社以降の新卒採用から「就活ルール」を廃止することが正式に決定された。さてさて次代の就職戦線、どうなることやら!

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