社会

アジア系差別「チンク」~人種差別コメディアンと大統領候補アンドリュー・ヤン

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マイノリティの台頭に慄くレイシスト

 騒動渦中および騒動後のギリスのツイートやジョークを読む限り、2度と訪れないであろうチャンスを逃し、非常に動転しているように感じる。謝罪しつつ、毒舌コメディアンとしてのキャラクターを失わないよう、さらなるアジア系差別を意図的に挟んでいる。同時にリベラルなニューヨーク(ニューヨークで制作される『SNL』のジョークもリベラル視点)にあって、反マイノリティ→プロ・トランプ(トランプ支持者)と思われることを恐れ、コメディ・クラブでは「自分はトランプに投票していない」と言い、趣味の悪いトランプ暗殺のジョークまで発している。

 事情や心中はどうであれ、アジア系への差別ネタなら「まだ言える」と考えているところが致命的 だ。逆に言えば、アメリカのマジョリティ、特に人種差別主義者はアジア系をその程度にしか捉えていないのである。

 ただし、おそらくギリス本人もまだ気付いていないであろう、アジア系の台頭への警戒心が見て取れる。アジア系は長らく「真面目」「おとなしい」「文句を言わない」存在だった。ギリスが昨年のポッドキャストで散々バカにしたように、チャイナタウンに食事に行けばたくさんのアジア人を見掛ける。しかし、ギリスも含めたマジョリティの生活を脅かす存在ではなかった。

 ところが、いつしか優秀なアジア系が社会のあちこちで徐々に活躍するようになり、ついに大統領候補まで出てしまった。否が応でも目に付く。したがって今年5月のポッドキャストではバーニー・サンダースの話題からヤンに繋げている。アジア系でありながら、もはや無視できない存在、つまり目障りになったのだ。

 マイノリティへの差別は慢性的にあるものだが、マイノリティが頭角を現し、存在感を示すと一気に強まる。マジョリティ側は既得権や優越感の喪失を危惧するのだ。焦りと恐れに憑かれた人種差別主義者は差別心と差別行為を強める。もしヤンが大統領になれば、人種差別主義者たちはパニックに陥るはずだ。彼らにとっては11年前、どこからともなく現れたバラク・オバマという名の黒人が大統領になった時の再来となるのだ。

 ヤンが大統領選を勝ち抜けなくとも、今後はヤンに触発された若いアジア系がどんどんと出るだろう。アジア系もこれまでの透明人間から、目立つ「出る杭」となり、強く打たれるはずだ。

アンドリュー・ヤンが変えるアジア系のポジション

 アンドリュー・ヤンの大統領候補としての「アジア系の出し方」にも、賛同と批判の両方がアジア系アメリカ人から出ている。

 ヤンは当初からアジア系のステレオタイプである「モデル・マイノリティ」(優秀かつ品行方正で、他のマイノリティ・グループの見本となるマイノリティ)を逆手に取っている。ヤンの キャッチフレーズは「トランプの真逆は数学が得意なアジア人」だ。選挙キャンペーン用の野球帽にも大きく「MATH(数学)」と書かれている。前回のディベートでは「私はアジア系だから医者をたくさん知っている」というジョークも飛ばした。ここでいう医者とは、同胞のアジア系の医師たちである。

 この手法は「アジア系以外の有権者を惹き付けるキャッチーな良策」なのか、それとも「アジア系のステレオタイプをさらに固定する愚策」なのかが論じられている。

アンドリュー・ヤンと支持者の一家

 いずれにせよ、キャンペーン手法としてアジア系のステレオタイプを使っているヤンも、ギリスに対しては以下のツイートを行なっている。

「私は幾度もチンク、グーク(※)と呼ばれてきた。この国しか知らないのに、まるでこの国の一部ではないかのように感じさせられ、非常に傷付く。疎外感、怒り、過小評価の入り混じった感情を抱かされる」

「アジア系への差別はとりわけ質が悪いと言える。なぜか許容範囲と捉えられるからだ。ギリスがNワードを使っていたなら、ギリスへの対応はもっとすばやく、明確だっただろう(=瞬時にクビになっていただろう)」

 常にユーモアを忘れないヤンが、自分自身が受けた人種差別体験を真剣に語ったのだ。

 ヤンの登場により今後、アジア系への反発と差別は強まるだろう。同時にメディアやホワイトハウス職員を始め、重要なポジションでの黒人雇用が進んだ「オバマ効果」のアジア版「ヤン効果」が表れるはずだ。『SNL』に初のアジア系コメディアンが登用されたのはその第一歩と思われる。

 黒人大統領への反発から現在のレイシスト大統領が選ばれ、就任から3年が経つ今も連日のようにオバマを罵倒し続けているのを見ると、レイシズムの根深さが解る。しかし、アメリカでのマイノリティ進出は、もう止まらないのだ。
(堂本かおる)

※グークgook:アジア系、特にフィリピン人、韓国人、ヴェトナム人の蔑称。朝鮮戦争とヴェトナム戦争時に米兵が使い始めたとされる

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