
「Getty Images」より
テレビというメディアは国民みんなで共有する最大の娯楽でしたが、令和の今は様々な娯楽を選んで楽しめる時代。コンテンツは多様化して、自分好みのモノを好きなように選べます。
それってととても豊かなことだけれど、巨大産業となったテレビ業界にとっては死活問題。もちろん視聴者が心から夢中になれる上質なテレビドラマは今でも作られているけれど、視聴率に関して言えば、昭和~平成の「みんな一緒に同じモノを見る」時代には及びません。というか、その時代を再現するのは難しいのかも。
じゃあどうするか? テレビマンの試行錯誤をアツがレポートしてきました。
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皆さん、ごきげんよう。アツこと秘密のアツコちゃんです!
テレビの情報を逐一仕入れてお届けするのがアツの大事なお仕事だけれど、昨今のテレビ離れったら本当に半端ないわ。大学生になったばかりの18歳の男子に「最近テレビって見てる?」と聞いたところ「テレビ? ゲームをする時しかつけないなぁ」との答えが。
めっちゃ美人な20代の看護師さんに「今年の『24時間テレビ』は見た?」と聞いたら「え~っ、もうそんな季節だった? すっかり忘れてた。仕事で忙しかったせいもあるけど、一秒も見なかったわ」と言われてしまって苦笑いよ。
仕事とプライベートが充実し過ぎている朝活好きな40代男性は「もともと映画が好きだし、パソコンがあれば映画だってニュースだって好きな時に見られるし、何でも事足りるからね」って。
「近頃ちょっとお腹が出てきた」と嘆いている50代男性なら朝からテレビをつけるんじゃ? と祈るような気持ちで聞いてみたら「テレビの存在を忘れているぐらい全く見ない生活だよ」とバッサリ。え~、今ってもう誰もテレビを見てないの?
あまりのことに打ちのめされながらファミレスでお茶をしていたら、後ろの席から「この間『渡鬼』を放送してたの。録画しておいただけでまだ見てないんだけど『渡鬼』って続いてたのね。つい録っちゃった」との声が。何気に目をやると、30代らしき女性たちが美味しそうにご飯を頬張っているところで「あ~、久しぶりにテレビの話題を聞いたわ」とファミレスでしみじみしちゃったわよ。
彼女の言うように、9月16日、3連休の最終日に『橋田壽賀子ドラマ「渡る世間は鬼ばかり2019」』(TBS系)が放送されたのだけど、皆さんご覧になりましたか? 人には「何のテレビを見てる?」としょっちゅう聞いて回り、曲がりなりにもテレビの仕事に携わっているアツだけど、「面白そう。でも3時間の長丁場でしょ。とてもじゃないけど、じっと見ていられる自信がない」と思って見るのを断念しちゃったの。お世話になった石井ふく子プロデューサー、本当にごめんなさい。だけど3時間って本当に、長いのよ。
マスコミで働く友達に聞いてみてもみんな「実はあんまりテレビは見ない」って言うし、確かにスマホがあれば何でも事足りて生活に不便はないものね。というそんな毎日の中で「でもそれを言っちゃおしまいなんだよな」とボヤきつつ今も一生懸命、映画やドラマを作っているスタッフに話を聞きに行ってみました。
「誰も見ていないドラマを作る意味があるのか?」
とあるテレビ局のドラマ制作スタッフルーム。「これから本打ちなんだ」と言うプロデューサーとコーヒーを飲みながら、それまでしばしの雑談タイムになったの。
新ドラ脚本の打ち合わせ直前でバタバタしていたプロデューサーは「今、第6話の準備稿が上がってきたところでさ」と忙しそうだけど充実している様子。準備稿から本当に使える台本になるまでにはまだまだ多くの過程が残っているのよね。
今はコンプライアンスがものを言う時代だから、入念に台本をチェックする「考査」という部署から修正指示が入ったりもするし、だいたい6話~7話辺りからテコ入れをするから、ストーリーを捻りに捻って視聴者があっと驚く展開にしなくちゃならないしね。
ふと見れば準備稿の近くには数冊の分厚いタレント名鑑が。「6話のゲストをすぐにキャスティングしなくちゃいけないんだ。後半戦のキーマンになる人物だからなかなか難しくて。誰がいいと思う?」って、悩んでるわりには楽しそう。
現時点で10月ドラマは放送前なのに、もう後半戦の準備に入ってるの。「放送前だからダイレクトな反応は分からない。でもこれでも遅いぐらいの進捗状況」なんだそう。確かに1時間のドラマを撮影して編集してオンエアに乗せるには、急いでもだいたい1週間はかかるから、撮り溜めしておいたと思っても始まったらあっという間。キャスティングで難航するなんてもってのほかだもの。
とにかくまずは台本を完成させて、出演者やスタッフたちになる早で渡す事が第一命題。ディレクターたちは台本が上がったらすぐに美術さんたちと「美打ち」に入らなくちゃいけないし、ロケハンもあるし、出演者やゲストの衣装合わせもしなくちゃいけないし、本当にやる事がいっぱい。
「番宣や打ち合わせに追いまくられても無事クランク・インして、でもまだオンエア前っていうこの時期が不安もあるけど、一番心穏やかでいられる唯一の時間かもしれない」と、プロデューサーはしみじみ。長きに渡り苦楽を共にしたプロデューサーを前にして、キツイ事なんか言えない気分になっちゃったんだけど、アツの表情で察したらしいわ。
「ちょっと哀れみの顔で見ないでよ。言いたい事は分かる。深刻なテレビ離れが進む中でどうしようとしてんのって聞きたいんだろ? 最近は周りからも"ドラマを作る意味とは? "とか"何故この題材を選んだんですか?"って頭から否定されるような感じで聞かれたりもする。それにひと昔前は"ドラマ作りがしたくてテレビ局を受けたんです"と宣言して入ってくる新入社員も多かったけど、今は"報道志望"や"バラエティー志望"が圧倒的に多いしね。
正直、自分たちでも"誰も見ていないドラマを作る意味があるのか? 電波の無駄遣いなんじゃないか?"と自問自答する時もあるけど、制作サイドがここで諦めちゃいけないと思って」
う~ん、熱弁! いろいろと問い詰めたい気持ちはあっても、その頑張りが分かるだけにもう言葉を挟む余地なし。
「似たようなキャストばかりとかどこかで見たような作品ばかりとか、いろいろ言われるよ。確かに事務所サイドに逆らえない事もあって同じキャストを使う場合も多い。新しいものを作ろうとしても、どうしたって同じようなものになったりするしね。
それに災害があった時なんか、一番最初に切られるのはドラマ。そりゃ災害時には誰もドラマなんか見ないよね。でもさ、娯楽って必要だと思うんだ。平和だからこその事だろうけど、やっぱり俺たちはドラマが好きだしね。
テレビの前に1時間も座らせていられるか、今は選択肢が多くて難しいと思うし、正念場だと感じているけれど、続けるしかないと思ってる!」
熱く語るプロデューサーの瞳は濁ってはいなかったから、アツもエールを送るしかないわ。「新ドラ、期待してるね」と言ってバイバイしたの。
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