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日本のペーパーレス化は「世界的に見て非常に遅れている」

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「Getty Images」より

 9月11日に発足した第四次安倍再改造内閣で、内閣府政務官に今井絵理子氏が、環境大臣に小泉進次郎氏が選出されたことは大きく報じられ注目を集めた。しかし、知名度に勝る2名を上回る勢いでネット上のリアクションを集めたのが、御年78歳になる竹本直一氏が直一IT政策担当相に内定したことだった。

 竹本氏は「日本の印章制度・文化を守る議員連盟(はんこ議連)」の会長を務めている。12日に開かれた記者会見では「印鑑とデジタル社会を対立するものと捉えるものではない。工夫はいろいろできる」と、判子文化とデジタル化は両立可能であるとの考えを示した。

 この発言には、「ITが何なのかすら分かってなさそう」「既得権益を守る必要はないので、判子なくす方向に踏み出して欲しい」など否定的な声が相次いだ。

 デジタルデータとアナログデータとが混在する状況が続けば、管理面で様々な混乱を招くことは明らか。竹本氏は一体どんな「工夫」が「いろいろ」できるというのだろう。

 実際のところ、日本のペーパーレス化はどれほど進んでいるのだろうか。多くの企業で業務プロセス改善に着手し、ペーパーレス化を進めてきた沢渡あまね氏に話を伺った。

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沢渡あまね
1975年生まれ。あまねキャリア工房 代表(フリーランス)兼 株式会社なないろのはな 取締役。作家、業務プロセス/オフィスコミュニケーション改善士。日産自動車、NTTデータ、大手製薬会社を経て2014年秋より現業。経験職種は、ITと広報(情報システム部門/ネットワークソリューション事業部門/インターナルコミュニケーション)。現役時代、残業だらけのシステム運用チームを定時帰りの職場に変えた経験あり。著書に『仕事ごっこ』『職場の問題地図』(ともに技術評論社)などがある。

紙ベースだと様々なトラップがある

 大前提として、ペーパーレス化のメリットは何なのか。

沢渡氏「主に2つあると私は考えています。

 1つ目は、“場所”の制約を受けないことです。紙は人の“場所”を縛ります。書類の印刷や申請書を提出するために、わざわざ出社しなければいけない、役所に出向かなければいけない、ということがありますよね。ペーパーレスであれば、自宅や外出先からスマートフォンからで対応することが可能になります。これが本当の意味での働き方改革と言って良いでしょう。

 2つ目は、本業に直結しない無駄なトラップを除去できることです。たとえば『請求書を紙で郵送してください』と言われた瞬間にいくつものトラップがあるわけです。

 まずは『プリンターのインクが切れる』『紙が詰まる』『切手を切らしていた』などのトラップが想定されます。あとは、『宛名を書く』という行為もわざわざ名刺ホルダーから名刺を探して確認しなければいけない。しかも、名刺のデータが古くなっている場合もあるので、もし古かったら再度送り直さなければいけません。ちゃんと送れても『件名を〇〇から△△に変えてほしんですけど』と言われてしまうと、またまた振り出しに戻ってしまう。本当に無駄なトラップだらけです」

 沢渡氏は「請求書を作って紙に出力して郵送することが、個人や企業の本来的価値につながるのか?」と疑問を口にし、その時間を削ればコア業務に注力でき、早く帰ることだってできるのではないか、という。

 では日本のペーパーレス化は実際、どの程度前進しているのか。これは沢渡氏いわく「世界的に見て非常に遅れている」。その原因は“お偉方の意識の低さ”にあると指摘する。

沢渡氏「官公庁や大手企業などの影響力のある組織のペーパーレス化が進んでいないので、その下にある組織は必然的に紙を使用せざるを得ません。

 組織内においても、管理部門や、その管理部門を指導する税理士や公認会計士の意識が変わらず紙を使用している企業は多いです。こうした点が、ペーパーレス化の足を大きく引っ張っています」

 しかし、なぜ“お偉方”は、これまでどおり「紙ベース」の仕事を好むのか。こちらの要因は大きく3つ挙げられるという。

沢渡氏「1つ目は『現状を容認したいという気持ち』です。従来のやり方に満足しており、今さらやり方を変える必要はない、という意識があるわけですね。これがネックになっています。

 すでに、紙ベース・判子ベースのやり方で業務内容を最適化し、それに伴う業務を担当する人たちを雇ってしまっている。ペーパーレス化を進めれば、その人たちからの反発が寄せられることは必至です。ゆえにペーパーレス化に踏み切らず従来のやり方を維持しているというケースも珍しくありません。

 2つ目は、組織の上層部が『自分が在籍しているうちは、今のやり方を変えないまま定年を迎えたい』と、問題を先送りすることです。この先送りが何十年も続いてきた結果、ペーパーレス化に限らず、効率化できるけど着手されていない業務は職場内に多く存在します。

 3つ目は、『外を知らない』ということが言えます。井の中の蛙になってしまい、他の業界や他社のやり方を知らないため『今のやり方の何が問題なの?』と悪気なく本気で思っているパターンもあります」

 そのような組織において、ペーパーレス化の推進はどのように進めていけば良いのだろうか。

沢渡氏「政府も企業も、ルールや仕組みのアップデートが必要です。紙ベースが基本になっている内部ルールの見直しやITに対する正しい投資をキチンとやっていく、ということです。

 また、社内でペーパーレス化が進んでも、外部とやり取りする際は紙を使うケースも見られます。1社だけが変わっても根本的な構造が変わらない限り意味がないので、社会全体で変わることが重要です。やはり官公庁や大手企業こそ積極的に社内・社外でのペーパーレス化を推し進めてほしいですね」

 企業レベルで取り組むべきこととしては、「何でもかんでも『判子有り』『紙の書類で締結』とするのではなく、業務を棚卸し『これは電子でいいよね』と振り分ける作業が必須」だ。とはいえ、結局は組織のトップ層の意識が変わらなければ、変わるもののも変わらないと沢渡氏は頭を悩ませている。

沢渡氏「変わらない人の意識を変えることは、容易ではないのです。すぐにペーパーレス化が普及することはないでしょう。

 私が『仕事ごっこ』(技術評論社)という本を出したのは、若手の人や成長意欲のある人が『これって無駄だよね』という不満をその場の愚痴で終わらせてほしくないからです。おかしな慣例に異議を唱え、改革していくために、世間に発信したいという思いから執筆しました。こういった声を上げ続け、まずは世論の意識から変えていき、大きな波を作っていくことが今できる最善策だと考えています」

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